11、甘美な劇薬

 私が思うに、言葉とは劇薬であり、甘い蜜である。

 言葉を投与すれば、きっと私は人を1人くらい、殺すことだって出来るだろう。勿論、罪に問われずに。これは投与した時の話で、使用したならば、地球上の全人類をスプラッタに殺せるだろう。使い方によっては、だけれども。

 勿論劇薬は、人間にいい薬にもなり得る。薬として正しく投与すれば、何人もの命を救えるし、心も救える。もしこれを使用したならば、きっとさっき殺した全人類を復活させることだって出来るだろう。劇薬は毒と違って、優しい心で使えば人のためになる。

 私は、そんな甘美な劇薬を、正しくは使えない。言葉だけで人を傷つけるのは簡単である。言葉を使われて傷つけられた事にして、使った相手を破滅に追いやる事だって出来る。でっち上げ、かな。

 この言葉という薬の甘美な点は、これを使って楽しめるという点である。薬を使っていることを忘れると自ずから自分を壊す事になるが、その区別がつけられれば、幾らでも、制限なく使うことができる。勿論、法律に掛かることなく。

 この薬は、人の頭の中に新しい世界を作って、その世界を運営させる。想像の分泌を促進する。現に、私の頭の中には、様々な世界が広がっている。現実はそのうちの1つである。

 人間は脆いもので、この劇薬がないと、滅亡してしまう。この薬は人間の進化と密接の結びついていて、これこそが人間を強くしている。醜い人間の原動力、世界の支配者。どれだけつまらないかもしれないとはいえ、新しく世界を作れるんだから、紛れもなく人間は、一部で神に等しい力を持っている。

 私の前にはこの力を最大限利用して作り出したモノがある。無論、用法・容量などは気にせず投与した、芸術的なものである。狭い部屋で、デスクの上のライトをつけて、薄暗く汚い部屋で、作品と向かい合って話している。

 私の仕事は彼からある1つの言葉を吐き出させる事である。そのためには言葉を投与するという範囲内で何をしてもよく、暴力などは使うと意味がなくなるので使えない。

 私は彼にオブラートで何重にも包んだとびっきりの人格攻撃を長時間加えて、それから心を奪って、楽になる手段を与えた。この手段に乗ることはすなわち彼の終わりである。けれども、彼は容易く乗った。言葉は人を操る。だから人にとって必要不可欠な劇薬である。私の今日の作品は、発表会にてその後が決まる。

 これを必死に失敗作に戻そうとする輩も必ずいる。それをかわすための楽になる手段である。きっとこれはまた、暫く狭い部屋で生きる事になる。

 これが、劇薬の間違った使い方であり、私にとっての幸福の瞬間である。

 これが、私が弾劾されるべき使い方をした、良薬の皮を被った猛毒である。

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