8、窓辺の骸骨

 私は窓辺の骸骨、いつも窓から外を観ている。

 私は窓際から動けない。動いたら、きっと崩れてしまうから。私は窓際から動かずに、景色を見る。

 家の前は、桜の綺麗な神社で、春になると人がそれなりに集まる。だから、賑やかで微笑ましい。骸骨だけれど。

 私は、偉い僧の即身仏でもなければ、曰く付きの怨霊付きでもない。現世に恨みもないし、やり残した事もない。なんで骸骨になって窓際に飾られているのかは不思議だけど、別に知ろうとも思わない。

 骸骨なのに軽く咳の様な物をする。どうも花粉が多いらしい。この骸骨、私だけども生前は花粉症だったのかな?

 私は骸骨だから、窓辺にいるのを見られると凄く驚かれるけど、大抵みんな、すぐ走り去る。ごめんね。夜中に見たらトラウマものかもしれない。

 春の日差しは暖かくて、気持ちいい。春は好きだ。さっき言った様に人は多いし、なんだか感覚が強くなる気がする。他の季節だとそうはいかない。夏は暑くて、ちびっ子は多くても、私の感覚は鈍る。秋は、紅葉した桜を見に来る人は少ない。すごく、綺麗なんだけれど。春から離れるからか、感覚は鈍る。冬は寒くて誰もこない。最近の子供はこたつでゲームでもしてるのかな。

 やはり、私は春が大好きだ。家の前の桜には、桜の精がいる。桜の精は、私を見て笑いかける。何故か彼女は泣いているけれど、私は彼女が大好きだ。精霊で、幽霊とは違うからだろうか、彼女は毎年成長している。私は多分父親の様な気持ちで、学校に入ったら噂になるだろうなぁ、と毎年思ってしまう。残念ながら彼女は春にしかこないけれど、それでも彼女を見れることを、私は幸せに思う。

 今年、彼女はこちらを向いて、ひときわ大きく泣いていた。だけどその目はしっかりと光が差していて、新しいものを見つけたのだろうと私に思わせる。彼女はまだ誰もいない、早朝の桜の木の下で、座って、そこにもたれて私の方を見る。こちらを見て微笑む。私は本能的に、微笑み返したいと思うけれど、骸骨だからぐっとこらえる。最も、堪えなくても表情なんかないのだから、変わらないかもしれないけど。

 私は彼女が大好きだ。彼女の来る春が大好きだ。未練ではないけれど、私は生前、彼女が大好きだったに違いない。未練とまではいかなくても、私は彼女に恋をしていたのだろう、桜の精に。今でこそ父親目線だけど、その時は子供の様な気分だったのだろう。心残りは、もう無い。あとは彼女の幸せを願うだけだ。

 彼女は私に語りかけた。

「さ よ う な ら」

 ああ、彼女は消えてしまうのか、彼女が見られなくなるのは寂しいけれど、それでもいい。生前の私を、彼女はきっと見ていた。それで十分、幸せだ。


 私の視界はゆっくりと下に下がる。ああ、みれんがないなんていいながら、けっきょくはかのじょをさいごまでみまもりたかったんじゃないか。

 私の心はがらんどう。骸骨だから。でも、私の心いっぱいに、明るいものは確かに有った。それが知れて、よかった。

 そろそろ、成仏の時かな。春なのにこんなに意識が遠い。目の前も真っ暗。

 私は

「さようなら、————」


 私は彼女の名前を知っていた。ごく自然に、そう呼んだ。体が熱い。私も意識を手放す———

理解して、安心して、私は意識を手放す—————

意識を手放す—————


願わくば、彼女に幸多からんことを。ありがとう。———。

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