3、作家抄

 私は作家である。主にホラーやSFを書いている、である。

 作家は、その職業柄人を殺す。特に私なんかは。今の時代、恋愛作家だって一人くらいは殺しているんじゃ無いだろうか?

 作家は筆を持っているかぎりは全知全能の神である。それこそ、物語は破綻するだろうが、全能の逆説だって無視できる。私はこの世界おはなしの中限定で自分が絶対に解けない式を作る事ができるだろう。くだらないが。

 空を仰ぐ。その周りには何も無く、ただ広い空間が広がるばかりだ。


 彼は空に十字を切る。神に諭された敬虔な信者は、ただ自らのこれまでの行いを悔いていた。彼にとって神は存在した。それに気付くのは人類の全滅という大量虐殺の後だった。その時、彼にとっては、すべて手遅れだった。

 彼は、火を付けた。燃料として焚べるのは、彼の世界である。彼の忌々しい世界は、彼の罪そのものである。彼にとって、彼の神にとって、それは忌まわしい歴史である。


(一体何人殺してきた!?)

 私は考える。私の神は私に命を奪うことの重さを伝えた。私は、自らをであると嘯いて、調子に乗って殺し続けた。

(私は、殺した人数すらわからない。私はレールをひいた。命あるものの命を奪うべく、レールをひいた。私のレールはすぐに途切れる。余生を楽しむ善良な老人も、心優しい誠実な若者も、希望を胸に生まれた無垢な赤ん坊も。それに残酷な殺人鬼も。)


 彼の神は彼に、如何なるものも殺してはならないと言った。人の犯した罪を罰するのは神の役目であり、委任されるべきでは無いと。ましてや、娯楽のための処刑など論外である。そう諭した。


(全く、その通りだ!私は快楽殺人鬼で、残酷な殺人鬼すら綺麗に鮮やかに殺してみせた!)

 私の後悔は止まらず、神が私に私が救われる方法を教えられた時にも、それを行うべきか迷っていた。それは今も変わらず。だからこそいまだに世界を火に焚べて遊んでいる。世界は重く、燃えにくい。


 彼は酔狂な男だった。夢枕に神が出て来ただけで、それまで信じてもいなかった神を信じた物好きだった。それはもう、起きたことにすら気が付かずに。夢であるとすら、気付かずに。


 神は彼に言った。「苦しんで死ね。最後の一時まで、我を信じ続けよ。さすれば、汝の罪は赦されん。汝は、救われん。」と。そういうわけで、彼は最も辛いであろう死に方を考えたのだ。水に沈むのが良かっただろうか。しかし彼は、火刑を選択した。彼の世界とともに燃え尽きることにした。


(さようなら、世界。ごめんなさい。)

 彼は心の擦過傷を抱いて、火の中に消えて言った。








「高層ビルの屋上でボヤ騒ぎっていうから、てっきり上に積んであるなんかが爆発でもしたのかと思ったぞ。あれ何かしらんが。」

「まさか仏さん出てくるとは、思いもしなかったです。」

「だなぁ。しかもあの有名作家だとは。恨みでも買ったか?」

「何故か頭部だけ綺麗に残ってたんですよね。あ、因みに遺書が見つかってます。」

「親族もう一人もいないって話じゃなかったか?」

「はい。」

「…どうも気になる。読んでみようか。」

「ばっ…そんなことできると思ってんですか!下手したら懲戒免職喰らいますよ!」

「構わん。俺はこの事件おはなしを見ておきたいんだ。有名作家の遺作をな。」

「はぁ、しょうがない。」


『私は---』


「読み終わりましたか?」

「…ああ。」

「じゃ、仕事済まして帰りますよ。」

「まぁ待て。こいつは想像を絶する馬鹿かも知れない。」

「はぁ?」

「こいつの死因は焼死で間違い無いだろう。遺書にそう書いてある。そして、こいつはどうも夢で神にあったらしい。だが、神は自ら命を絶つことも、体を燃やすことも良しとしなかったと思う。つまり。」

「つまり?」


「神なんかいやしない。全部こいつの妄想ってことさ。多分きっと、俺たちや宗教家の神もきっと妄想なんだろうな。俺は自由に生きれそうで良かったよ。」


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