第3話 勧誘
「蒼音くん待ってー!」
放課後早々と帰り支度を済ませて、下駄箱で靴を履き替えていると、万由と聡に呼び止められた。
「どした?」
走って来たんだろう。息を切らせて胸を押さえる万由の背中を聡が擦ってる。聡は見た目の脆弱さに反して息ひとつ乱れてない。
「…あのね。部活。…部活ってもぅ決めちゃった?…ふぅ。」
そんな急いで走って来て話すことなのか?と思いながら首を横に振る。
「…よかったぁ。決まってないならね?ちょっとつき合って?うちの部。見てくれるだけで良いからさ。ね?」
俺が怪訝そうな表情をしたことに気づいた聡が、
「もう。いっつも舌足らずだよ万由は。蒼音くん。軽音部だよ?僕たち万由のお兄ちゃんが部長をしてる軽音部に入ったんだ。それで、こないだのCabo Waboに出てた先輩たちに蒼音くんがこの学校に居て、僕たちと同じクラスだったんだって話したら、ぜひとも紹介してほしいって。出来れば名誉顧問になって欲しいってさ。それで急いで勧誘に来たわけさ。お願い出来ないかな?見るだけでも良いから。一度見て答えてくれたら良いからさ。」
こいつらがもう部活に入ってることに驚いたけど、まぁまっすぐ帰っても今日は用事も無いし、あおいもどうやら美里たちと部活見学に行ったみたいだし、良いかな…?
この辺の奴らのレベルも知りたかったし…。
「ね?お願い蒼音くん。私の顔を立てて?」
そう手を合わせてウィンクする万由が、ちょっとだけ可愛くて軽く二つ返事した。
「OK。とりあえず見るだけなら。」
とたん万由の顔がぱぁっとほころんで、腕に飛びついてきた。
「ありがと蒼音くん!大好き‼」
「──なっ‼ 万由ちゃん?! 」
華奢な見た目に反して意外と豊満だった二つの塊が腕に押しつけられ、自分でも真っ赤になってんのが分かるほど顔が熱くなった。その時背後から声がかかる。
「─そーと…?」
───あおい…?!
万由に抱きつかれたまま後ろを振り返ると
目を押さえて上を向いた千秋と、ジト目の美里と、こちらを茫然と見るあおいが居た。
美里がジト目のまま
「…蒼音くん?これは何かしら?
私の言ったこと覚えてるわよねぇ…?」
とっさに何も思いつかず、明らかに誤解してる三人にどう釈明しようかと考えてると、万由が三人の前に飛び出して行った。
「ごめんなさい。うちの部活見学を頼んだらOK貰えたんで、あまりの嬉しさに飛びついちゃいました。私もうちの軽音部のみんなも、蒼音くんの大ファンなんです。本当に嬉しくてつい飛びついちゃって。あおいちゃん?ごめんなさいね。」
万由は丁寧に頭を下げて正直に釈明してくれた。
美里も毒気を抜かれた顔で
「…え…えぇ。これはご丁寧にどうも…。」
と、お辞儀をしてる。姉御肌できっちりした美里の性格を考えると、万由はスジを通したすごくやりづらい相手に違いない。
「それでは、蒼音くんをお借りしますね。またね。あおいちゃん。」
完全に毒気を抜かれた三人を尻目に、俺の手を取って颯爽と歩きながら、聡のほうを向いて小さくベーっと舌を出した万由に苦笑して、こちらを茫然と見ているあおいたちに振り返って軽く手を振った。
美里があおいの肩を抱いて歩き始めたのが見えた。
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