みんなで修行しよう
船で遊んだ次の日。
全校集会で創真とゼクスが教師になることが知らされた。
めっちゃざわざわしてたよ。
「やっぱ馴染めないもんかね」
「馴染める敵なんざいねえんだよ」
「で、私達を呼んだ理由はなんだい?」
でっかいトレーニングルームが空いていたので借りた。
そこでエリゼ達を強くしてもらえないかと頼む。
「鍛えて欲しいねえ……テメエがやるんじゃダメなのかよ?」
「俺は忍術とか詳しくないの。転校生だからな」
「それで個人レッスンか。闇忍トップを使うとは豪勢だね」
「どうせみんな警戒して近寄ってこないだろ? 時間を有効に使うのさ」
まだみんな困惑しているのか、警戒して近寄ってこない。
いきなり授業じゃ納得しないだろうって、学園長がわざわざ自由行動にしてくれたんだし、教師っぽいところを見せて馴染ませよう。
「かつての悪と共闘……ヒーローとしちゃいい展開だけどよ……本当に大丈夫かあ?」
「正直夢であって欲しかったわ」
フランと龍一も戸惑いを隠せないようだ。
「疑うのも無理はないさ。勇太が異常だ」
「チッ、余裕かましやがって」
「余裕、ですか?」
「我々が暴れても押さえつけられるという、絶対の自信があるのさ。だから隙を伺い倒そうとも、怯えて遠くから見ることもしないんだよ、お嬢さん」
創真がちょっと大きめの声で、周囲に潜んでいる連中に聞こえるように言いやがった。
少し部屋の空気が変わった気がするな。
「煽るのやめい。頼むよ先生」
「テメエに先生って呼ばれると微妙に癪に障るな」
「嫌味じゃないって。教えてもらうんだから先生だろ」
これは本心だ。この世界の忍術を、基礎からトップに教えてもらう。
先生と呼んで何が悪い。元敵でも敬意くらい持つさ。
「何から教えたら良いかな?」
「エリゼに忍術を使えるよう指導頼む。ちょっと変わった体質でな。霊力が不安定なんだ」
「それだけでいいのか?」
「あとで龍一と手合わせでも頼むよ」
「オレは……生きて帰れるんだろうか……」
そんなわけで練習開始。霊力を練るという基礎中の基礎からだ。
それでも創真とゼクスは圧倒的に純度も精度も高い。
フランと龍一がまったくたどり着けない境地だ。
「改めて実力差を感じるわね」
「恥じることはないよ、ミスフラン。少々君より長く生きているだけさ」
「やっぱ流派の違いってあるんだな」
少し技法が違う。特忍は霊力を高め、それを安全に使う。
闇人は自身のリミッターを外す方向に進化している。
これは教育方針の違いかな。細かく分けたら相当の流派があるらしい。
「なるほど。めんどくっせえ女だ。霊力が混ざっちまってるんだなこりゃ」
「やっぱりか」
どうやら俺と同じ結論に達したみたいだ。
根本的にエリゼの魔力はおかしい。しかも理由が一個じゃないから厄介なのさ。
「混ざる、ですか?」
「霊力が不安定過ぎんだよ。印を結ぶまでは火遁のつもりだろ? 出る瞬間に変質が終わってっから別モンになんだよ。こんな感じだろ?」
わざわざ色付きで遁術と霊力の練り方、変化の過程まで見せてくれる。
それそのものも綺麗だし、がさつなタイプだと思っていたので二重に驚いた。
「おぉー。なんだ繊細な作業とかできるのか」
「オレ様は闇忍トップクラスなんだぞ? ちっと見くびり過ぎじゃねえか?」
「悪い悪い」
全業は伊達ではないようだ。人は見かけによらないもんだな。
専門的な話もできそうだし、突っ込んだ解決策を練ってみるか。
「地道に反復訓練させて、霊力を制御しつつ体質改善と……あとは何が必要だと思う?」
「霊力がカラになるまで撃たせてみちゃどうだ?」
「出せる術を全種類調査すれば、傾向が見えてくるのではないかな?」
色々と試しているが、安定しない。そもそも忍術の範疇にないものも出る。
そこは俺がフォローするしかない。
「お嬢さん。侮辱する意図は一切無いと前置きして尋ねますが」
「はい? なんでしょう?」
「貴女は、人なのですか?」
「えっ」
「言葉が足りませんでしたね。人外の化物だと言っているわけではありません。なんと表現したものか……霊力が人とは少し違う。特異体質とも違う気がするのですよ」
おぉ、さっすが闇忍幹部。エリゼが人間じゃないと見抜いてきた。
けど騒ぎになるとまずい。創真とゼクスにのみ聞こえる魔法で話す。
「創真、ゼクス、それちょっと秘密。とにかく強くしてやって」
「おや、それは残念。そろそろ疲れてきているようだ。休ませてあげてはどうかね?」
「そうだな。よし、エリゼ一旦休憩」
「はい、お疲れ様でした」
エリゼ休憩。次は龍一とフランの番。
ずっと瞑想と柔軟だけしていたからな。待たせた分は相手をしよう。
「お、やっとオレ達か」
「全員で手合わせしようぜ。チームワークの練習だよ」
「テメエが入ったチームの勝ちだろうが」
「んじゃ俺対全員でやるか?」
龍一はセンスがある。努力もしている。少しでも何かを得て欲しい。
「大丈夫なのか? 勇太が強いってのは聞いたし、手合わせで知ってるけどさ」
「安心しろ。オレ様が本気出しても殺せねえから」
「あんたらが本気出しちゃったら、部屋が壊れるでしょう」
「壊れないよう、衝撃を集中させりゃいい。風圧は風遁でいじろうぜ」
体に風を纏い、軽く動いてみせる。
これだけで全員が理解し、準備完了。
「いくぜオラアァ!!」
「修行の成果、見せてやらあ!」
ゼクスに一瞬遅れて龍一が続く。
二人の拳を受け止めると、背後に回ったフランが銃撃を開始。
あれはハンドガンか、ゲームでいうマグナムだろう。
「こっちの忍者は重火器使うんだったな」
背中の風遁を操作し、空気の流れを変えて弾丸をそらす。
その間にも、二人のラッシュは続く。
「使えるものはなんでも使う。オレは拳が合ってるけどな!」
龍一の赤い手甲が気になったので分析。足にもついているな。
鉄じゃない。もっと特殊な鋼だ。
肘や膝に届かない程度の長さで、攻防一体の装備か。
「いいもん持ってんなあ」
「カスタムすんのすっげえ高かったぜ!」
Aランクでも高い装備か。興味が出てきた。
今度装備とか売ってる場所や、作っている科に行こうかな。
「考え事しながらオレ様の相手とは、良い身分だなテメエ!」
「そういうつもりじゃないんだけど……んじゃちょっと攻めるぞ」
こいつらがギリギリ認識できる速度はわかった。
軽く連打を浴びせてみよう。
「ぐ……ごあぁ!?」
捌ききれずに龍一が吹っ飛んでいく。
なんとか体勢を立て直し、呼吸を整えているみたいだ。
「ちょっとやりすぎたか」
「よそ見してんなっての!」
ゼクスが怒っている。
大振りの右拳をわざとくらい、顔面にカウンターを叩き込む。
「おぉ!」
お互いに直撃し、吹っ飛ぶかと思えば。
なんとゼクスは踏ん張って耐えたじゃないか。
「な……めん、なああぁぁぁ!!」
もう一発殴り返してきやがった。
死ぬほど手加減はしたさ。でも殴り返してくるとは思わなかったぞ。
「お前……いいな!」
俺に怪我はない。1ダメージも入っていないが、それでも賞賛に値する。
「スーパー旋風脚!」
龍一の必殺技だろうか。風と炎を付与した回転蹴り。
そのまま受けてみると、衝撃が数回、間を置かずにやってきた。
「忍術による高速の重ね当てか。面白い技術だ」
「これでダメなのかよ!?」
「ボサッとしてんじゃないわよ! ダメなら効くまで試せばいいの!」
日本刀とアーミーナイフで斬りかかってくるフランを、霊力の刀で迎え討つ。
軍隊格闘術っぽいな。そこに別流派を混ぜている。
こいつら多彩だな。
「ちょっと反撃するぞ」
「言わなくていいわよ!」
それでは遠慮なく。全員の背後に移動しまして。
霊力の棒を横薙ぎに振り、三人を壁際までぶっ飛ばす。
「ぐはっ!?」
「うきゃあ!?」
「げばあぁぁ!!」
バレないように回復魔法をかけてやる。
心なしか三人の息があっているような。
いい傾向だ。
「いやあ改めて異常だね君は」
「みなさん、がんばってください!」
優雅にお茶飲んでるエリゼと創真。
休憩スペースももちろんあるのだ。
「テメエさぼってんじゃねえぞ! オレ様だけ戦わせやがって!」
「この時間はティータイムだ。それに誰かがエリゼ君を見ていないといけないだろう?」
「戦いたくねえだけだろうが」
「引き続きエリゼを頼むよ」
「任されよう」
監督役はいた方がいい。俺はこいつらの修行に集中だ。
「ガキども、これ使え」
ゼクスの武器コレクションが渡されている。
無限に出せるってのは、こういう状況に強いな。
「いいのか?」
「いくらでも出せる。このままじゃどうやっても勝てねえしな。癪だが今回だけだ」
「一応お礼は言っておくわ」
「すまねえな」
よしよし、チームワークの訓練も成果が出そうだ。
「よーし、こっから忍術も使っていくぞー」
「やれやれ、随分と腑抜けたね。裏切り者の闇忍よ」
少し前から入り口にいた男が声をかけてきた。
紺色の長髪で、長身の男。鍛え上げられた筋肉は熟練者のそれ。
穏やかな雰囲気を漂わせる変なやつだ。
「てめえは大吉!? もう追手が来やがったか!」
存在が知られると、わずかに残った見物客が一斉に逃げていった。
なんか有名人らしい。生徒なら知っている感じか。
「だいきち? おみくじの?」
「あんたはもうちょっと勉強しなさい。闇忍について知らなすぎ」
「ん、そうだな。善処する」
今度暇な時にでも調べて、面白そうなら会いに行こう。
「まあ君にとっては一番のザコだろう。それ以外には脅威だがね」
「んー? 強いんじゃないのか?」
「できれば戦いたくねえやつだが……なるほど、確かにテメエとは相性最悪だな」
あんまり期待できないみたいだ。でも闇忍ナンバー5らしいよ。
「学園に忍び込むとは、大胆なやつだな」
「忍び込む? 堂々と入ってきたさ。ここに来るまで、誰とも会わなかったがね」
「創真、解説頼む」
「簡単に言ってしまえば、勝つ可能性が1%でもあれば絶対に勝てる能力の持ち主だ。それも、とてつもない強運でね」
「おー、まあたまにいるな」
「いてたまるか!!」
結構いたぞ、そういうやつ。
大抵は能力頼りなんだけど、こいつはちゃんと鍛えているようで感心感心。
「つまり運良く誰とも会わないでここまで来る、ってのを運でできる能力だ」
「ただ運がいいだけではない。突然地割れが起きて、敵が飲み込まれたら? 隕石が降ってきて、幸運にも自分は無傷で、敵だけが死んだら? そういう因果や運命を操作している。つまり無敵なのさ、私はね」
「超運がいいんだろ?」
「身も蓋もないが、そういうことだ。そいつは悪逆非道の闇忍でね。我々とはウマが合わない。倒して牢獄に閉じ込めることをおすすめするよ」
うーむ……大吉から創真のような才能も、ゼクスのようなパワーも感じない。
こりゃダメだ。倒して能力奪っておこう。
「君達が裏切ったと聞いて、半信半疑だったが……本当に特忍と仲良くしているとは失望したよ」
「御託はいいから、さっさと勇太と戦え。でもって死ね」
「戦うの俺かよ」
「強い敵と戦えるのだよ?」
「こいつ強くないだろ」
あんまり気乗りしないが、悪いやつなら倒すか。
軽く殴れば気絶するだろ。
「滑稽だね。せめて心までは屈しないという安いプライドかい?」
「いいから能力で彼を殺してみたまえ。クックック」
「おー、頑張れ大吉ー。応援してやるぜー」
もう全員でお茶飲みながら観戦モードだ。
まあ能力があれじゃあ、龍一達の修行にもならないか。
「じゃあ……とりあえず倒すぞ?」
「やってみたまえ! 能力は既に発動している! 圧倒的強運の前には、どんな忍術であろうが無意味だ!」
何が起こるのか気になったので、歩いて近寄ってみる。
相手まで三十歩くらいか。
「なぜだ……貴様何をした!」
「何がだよ? 能力ってのはどうした?」
創真とゼクスが物凄く楽しそうにニヤニヤしている。
悪い顔だ。そういや悪い人だったね。
「能力が発動しない? こんなことは今までなかったぞ!」
「発動はしているよ。私が保証しよう」
創真いわく発動済みらしい。
もうよくわからん。一気に詰め寄ってみる。
「はいちょっとごめんな」
ボディーブローをちょっと強めに入れてみた。
ついでに能力を全て回収。これでこいつは筋肉のある一般人だ。
「くへあ!?」
「えぇ……」
めっちゃ弱い。完全に気絶したぞ。
「こうなると思っていたよ」
「つまり?」
「勝率が何をどうやってもゼロなら、絶対に勝てないし、発動できる事象が存在しないのだよ」
「テメエみてえなバケモンぶっ倒せる能力じゃねえんだ」
「期待外れだ……」
何も起きずに終わるとは、消化不良にも程がある。
「牢屋行きで」
「脱獄されるかもしれない。私が特殊牢でも作るかい?」
「いやいい。能力は奪った」
「二度とテメエと殺し合いはしねえ」
こうして闇忍ナンバー5の捕獲に成功した。
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