そのころの女神様 ヘスティア視点
広大な空間に置かれたソファーやテーブル。
ここは女神を案内する応接室。
今日もまた、ピンチになった異世界を救うため、女神が相談にやって来る。
「で、今回の敵はどんなやつだい?」
女神は三人。どうやら自分たちの手に負えない相手が現れたらしい。
「はい、今回の邪神は別の世界から突然やってきまして」
次元を超える術を持つか。とりあえず聞いてみよう。
「平和になりかけていた世界を侵食し、私の担当世界の魔王と邪神を喰らい、融合してしまったのです」
たまにいるタイプだね。邪神や魔王は融合させるか、片方を餌にするとパワーアップすることがある。
「現地の勇者では倒せないと?」
「はい。どうやっても手も足も出ず……調べた所、既に数十の邪神を喰らいながら世界を流れているみたいで……」
面白い。その過程で強くなってくれていると嬉しいな。
紹介したら、きっと先生は喜んでくれる。
「最初に測定した時、その戦闘力は七十億ほどでした」
「君達女神と勇者に倒せない相手とは思えないが?」
死に物狂いで全部の加護を渡せばいけるはず。
世界の力を結集し、一致団結すれば退治可能なレベルだろう。
「勿論です。ですが、それは邪神の本隊ではなく劣兵でした。その時点での親玉の力は八千兆」
いいね。そうこなくっちゃあ面白くない。
そこから強くなり、頂点と言われるほどに上り詰めたらしい。
「完全体となった今は、六百五十京という恐るべき存在へと……」
「失格」
「はい?」
「論外。ボツ」
最悪だ。持ち上げられて落とされた気分だよ。
「そんなザコ、君たちだけで処理して欲しい」
「ザコ……ですか?」
「ですがヘスティア様、あいつの限界値は京どころか該の単位に届くとまで」
「結局ザコじゃないか……」
数万の邪神を食わせて最大で該に届くかどうからしい。
そこが限界。頭打ち。無限の力は手に入らないとか。
邪神のクズだ。強い方かもしれないが、勇者の相手にはならないだろう。
「ザコだなんて……やつの使う異能の数は七十五京にも上ります。女神とてそれほどの加護を勇者に与えることはできません」
「数がカウントできる時点でザコなんだよ。京とか該じゃだめなんだ。最低限無限のスキルを持っていてくれ」
先生が魔王や邪神を乱獲しすぎた弊害が出ている。
名のある存在は大抵がひっそり暮らしているか狩られてしまった。
「世界は崩壊の危機なんです。こうしているうちにも、人々は死の恐怖に怯えています。それを見過ごすなんた、私達にはできません」
「ふむ……確かに。知りつつ放置して知らせずにいたら、先生に怒られちゃいそうだね」
あの人はどこまでも勇者だ。きっと叱られる。好感度が下がることはしたくない。
面倒だ。指先で円を描き、直径三十センチくらいの次元の穴を作る。
その先には真っ黒な風貌の邪神君。いかにもって風体だねえ。
「ちょいとそこ行く邪神君」
『何者だ?』
「消えたまえ」
指先から魔力を込めた浄化の光を撃ち込んでやる。
『ヌウ!? ヌオアアアアァァァァ!?』
哀れ邪神君は内部から崩壊を起こして大爆発。宇宙の塵と、いや塵すら残っていないかもね。
「こんなものか」
つまらない。本当に期待外れだ。こんな三下を紹介したら、先生がガッカリしちゃうだろう。気に入らないね。
「はい終わり。これであとは現地勇者に残党狩りでもさせたまえ」
ぼーっとしている女神達。事態が飲み込めていないのだろう。
まだ新人かもしれない。あまりきつくあたるものではないね。
『キッサマアアアァァァ!!』
次元の穴を無理矢理その手でこじ開けて侵入を試みる邪神君がいた。
「おや、生きていたか。雑魚のくせにしぶといね」
女神達が声も出せずに怯えて縮こまっている。
この程度で臆しているようでは……ううむ、女王神はちゃんと教育しているのかな。
『狂魔邪神と呼ばれた我が身を滅しようとは……貴様名を名乗れ!!』
「虫けらに名乗る名前はないよ」
『どこまで侮辱すれば気が済むのだ! 我を滅するため、小賢しく勇者に頼る女神の分際で! さっさと次の勇者を連れてこい。何匹だろうと殺してくれるわ!!』
上半身を次元の穴から乗り出し、こちらにやかましく吠えるザコ邪神。
「黙れ。たかが邪神ごときが、偉そうに勇者様を指名するな」
魔力により重圧を書け、無理矢理地面に這いつくばらせる。
この程度の力に抵抗できないのか。
『グヌウゥ!?』
「私は怒っているんだよ。君程度のザコで、勇者様を満足させられるはずがないだろう?」
『満足だと? 勇者ごとき何匹殺そうが、満足できぬは我よ! 人の身で神に挑む傲慢! 許されるはずもない!』
「ククク……ハハハハハハハ!!」
『何がおかしい!!』
「ああもう……くだらない。くだらなすぎて…………殺してしまいそうだよ」
少々強めに頭を踏みつけてやる。
みしみし音がするね。もう少し強く踏んだら潰れちゃうかな。
ついでに首にきれいな光の首輪をプレゼントだ。
『ウヌアアァァ!?』
「君はもう魔王と邪神以外に手を出せない。その首輪はそういう代物だ」
『数千の邪神を喰らいし我に……首輪をつけるか女神よ!!』
「君が異世界の悪を喰らい続け、力を増せば外れるよ」
我ながら名案だ。こいつを強くして、さらにザコ魔王や邪神を狩らせよう。
「暗黒の世界に逃げ帰り、力をつけてまたおいで。最低でも私と対等に戦えるくらいにはなって欲しいね」
『このような屈辱……絶対に許さんぞっ!!』
「はいはい、お前は不合格だ。最低の、勇者様を満足させられない、できそこないの邪神だよ。さっさと消えたまえ。平和を紡ぎ、人間を守っちゃう邪神としてね」
転移魔法で元いた場所へと送る。
何か不審な真似をすれば即消滅させられるよう保険をかけて。
「はあ……無駄な時間を過ごしたよ」
どうせなら先生とのんびり無駄な時間を過ごしたいね。
それなら無駄だけど嬉しい、有意義な時間だ。
「あの、ヘスティア様……あの邪神は」
「もう悪さはできないよ。安心するといい。精々残党狩りでもするんだね」
「なんという強さ……流石は女神女王神候補に選ばれたお方」
「女神女王神の座なんてどうだっていい。そんなもの、女神で一番になるだけ。その地位を目標としていたわけでもない」
私は女神界にそれほど愛着がない。
正確には愛着はあるが、先生を優先してしまう。
だから辞退した。もう一人の候補はまあ、ちょっとアホだったけど。
それでも魔力量も神格も私より上だった。限界が見えない。
だから譲ってあげた。大きな慈愛の心が、彼女にはあったからね。
「さ、君達ももう帰りたまえ。あいつはもう魔界か地獄でしか生きられない」
「し、失礼します」
女神達は帰っていった。最後は私をまるで邪神でも見るような顔で見ていたね。
だがどうでもいい。他の誰がどう思おうが、私は私だ。
勇者様さえ満足してくれたらそれでいい。
「先生のお眼鏡に叶う世界を見つけることが、こんなにも大変だとはねえ」
やはり作るしか無いのだろうか、最強の邪神を。
特別な空間を作り、集めた魔王と邪神を詰め込んだ、邪悪の蠱毒。
余興程度にはなるかもしれないね。
「難しい。ひどくひどく難しい。難題だねえ」
だが不安も残る。所詮神は人を超えられないのだ。
神が人を作る世界もあれば、人が神話を作るケースもある。
共通しているのは、極限まで鍛えた人間に、神は勝てないということ。
「やれやれ、自分が神であることを、ここまで後悔したことはないよ」
先生のように全異能を純粋な身体能力で超えた存在になる。
それは可能だ。私と女王神が証明できるはず。
だがまだ足りない。そんな領域の遙か先に、先生はいるんだ。
そこに到達していない。でも先生はできると信じている。
「それを……私の知らない女神が証明したのだろう?」
先生に稽古をつけてもらう時に言われたことがある。
まだまだ女神の力はそんなもんじゃない。
お前はもっと伸びる。限界なんて無いんだ。
きっと最強の女神になれるはず。
「誰なんだい。その女は」
明らかに私を通して特定の誰かを見ている節がある。
先生の中で、無意識にその女神を思い描いてしまうのだろう。
それが誰なのかがわからない。
その子を思い出すから、先生は私と戦うのをそれとなく避けるようになったんだ。
「先生が無意識に最強だと認めている女神か」
まず間違いなく私より強い。圧倒的にだ。
だからこそ、先生の心の奥深くに在り続けるのだろう。
そして私を凌駕する女神など、知らない。
「女神との橋渡しを続け、ちょくちょく女神界にも行っているというのに」
自慢じゃないが、私より強い女神を十人あげろと言えば、誰もが言葉に詰まるはず。
女神女王神は違う。能力的にはあいつが上で。殺し合いなら私が上だ。
そもそも先生は女王神という肩書と存在すら知らないだろう。
本人と面識もないはず。
「私よりも女王神よりも強い女神などいるのか?」
相談に来る女神に、それとなく強い女神を聞いてみたりもした。
私に匹敵する者がいたら会ってみたいと。
だが出てくるのは女王神くらい。
たまに心が折れそうになるよ。
「それでも、やれることからやってみよう。希望は捨てない」
せめて今できることを精一杯やってみようと思った。
私が諦めてどうする。先生と過ごす時間こそが私の宝だ。
できることは全てやろう。女神は明るく前向きに、だね。
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