ボス戦でもちょっと駄女神だよ

 大草原で、吸血鬼ヴァンパさんとの戦いは続く。

 色々と試行錯誤しているようだが、既にボロボロ。

 その中でなんとか活路を開こうとする姿勢は評価できる。


「はあ……うへえぇ……ああもうどうすりゃいいってのよ!」


「くっ……別々に倒してもダメ……一気に消しても無駄。しかも本人が強い」


「はは……これはやっかいですねえ……先生、これ本当に勝てるんですか?」


 三人とも息が切れてきている。このへんがスタミナの限界か。覚えたぞ。


「勝てる……けど確かにちょっときついよな」


「こんなの無理! 無理無理! ヒントちょうだいヒント!」


 サファイアがだだっ子のようにジタバタし始めた。


「ヒントが与えられなければ、カレンが口からふりかけを出し続けますよ」


「なぜわたくしが!?」


 無理っぽいなーとは思っていたし、ここらでヒントいっとくか。


「んじゃヒントだ。よく聞いとけ」


 正直知らなければ不死身レベルだし、持久戦をやらせるという裏目的も達成できたので、素直にヒントをやる。


「まずひとつ。三体以上に増えない。絶対にだ。そしてふたつ。倒す方法が設定してある」


「なにか方法があるってこと?」


「そう、正しい方法じゃないと倒せない。体質改善した」


「初耳なのだが……」


「戦闘が終わったら治しますよ。みっつ。三人で力を合わせたら勝てる。個人プレーに頼りすぎ。仲間が何ができるか知って、考えるんだ。んじゃ頑張れ」


 俺はそのへんの岩に座って鑑賞の続き。今回で少しでも協力することを覚えてくれればいいんだがね。


「作戦ターイム!」


「認めよう」


 もうボロボロだが、勝ちの目はゼロじゃない。そんな状況に追い込んだ。

 あとは三人が協力すればよし。


「お疲れ様です。血液、冷えてますよ」


「ああどうも。いやなかなかやるものだね」


 ヴァンパさんと談笑タイム。岩に腰掛け、俺はジュース。ヴァンパさんは血液。


「力の使い方がまだまだですよ。これからなんとか矯正していきます」


「大変ですな、先生というのも」


「初めたばかりなもんで、ベテランならもっとうまくやるでしょうね」


「いえいえ、生徒を思いやる、いい先生ですよ」


「ははっ、だといいんですけどね」


 駄女神の作戦はわざと聞かないでおこう。耳を澄ませば聞こえるが、聞かずに意表をついて欲しい。意外性を見せるんだぞ。


「そういえば、私の倒し方というのは、なんですかな?」


「ああ、簡単ですよ。それはですね……」


 そして作戦タイムは終わる。ここからあいつらがどう動くのかが見ものだ。


「ここで会ったが百年目よ!」


「先生の期待に応えるためにも、負けません!」


「不本意ですが協力します」


「では始めよう。最終ラウンドだ! デモンクロウ!」


 ヴァンパさんの黒い魔力が四方から飛ぶ。形からして爪跡のように見える。

 なるほど、直球だがいいネーミングだ。


「散開!」


「フレイムシュート!」


「女神爆裂波!」


 一度散ってから、炎で攻める駄女神のみなさま。

 逃げ道を塞ごうというのだろう。


「女神円月輪!」


 光るフリスビーみたいなもんでヴァンプさんを狙う。

 しかし、点や線の攻撃では、コウモリに代わって避けられてしまう。


「そこです! ふりかけスプラッシュ!!」


 コウモリをふりかけの散弾銃で撃ち落とす。

 なるほど、わざとコウモリにして、攻撃させずに消す作戦か。


「やった! 流石に死んだでしょ?」


「そう簡単には死なんさ」


 無事だったコウモリを集めて一体になる。


「追撃あるのみです! ローズさん!」


「お任せを」


 スクール水着を来ているローズ。

 あれなら格闘もできて、魔法も使える。おそらくギリギリの妥協点だろう。


「せい! やあ!!」


「甘いな。吸血鬼は格闘戦もできるのさ」


 カレンとローズが追撃に走る。しかし、その拳は届かない。

 一番実戦経験のあるカレンが、ギリギリ渡り合える程度だ。


「ふむ、以前はもっと強かったのですかな? お嬢さん」


「なぜそれを……」


「なに、貴女の動きはもっと洗練されたものを想定しているように見えましてね」


 カレンの攻撃は自分の加護と、高まったレベルを組み合わせたもの。

 女神の加護流格闘術といったところ。つまり、加護がない今は弱体化している。


「りゃりゃりゃりゃりゃ!」


「おっと、時間が来たようだ」


 そして追撃をかわしきったヴァンパさんが三人に増える。


「ローズさん!」


「承知」


 増えた方が動き出す前に、渾身の蹴りでふっ飛ばす。

 二人が蹴り飛ばした先には、魔力を貯め終えたサファイア。


「女神双雷波!!」


 蒼白い光がヴァンパさんを飲み込んでいく。

 だがあとひとり残っている。サファイアはもう魔力が限界だろう。


「主砲を潰すか。ブラッドサイクロン!!」


 真紅の竜巻がサファイアを襲う。ヴァンパさんの必殺技だ。

 あれを喰らえばもう、あいつらの勝利は消える。


「来たわね。ローズ! カレン!」


 魔力波を打ち出し、抵抗を試みるサファイア。

 そこへ二人が走る。敵ではなく味方へと走ったのはちょっと意外だ。


「いきますよ!」


「コントロールはお任せを」


 サファイアの右肩に触れ、全ての魔力を流し込むカレン。

 魔力を使わない戦闘スタイルのカレンならば、それでもいい。

 だが器であるサファイアは、その魔力を制御できないだろう。


「あだだだだだ!? ちょ無理無理これ!」


「もう少しの辛抱ですよ」


「早く! これ本当に痛いんだから!」


 左肩に触れたローズが膨大な魔力を操作している。

 なるほど、そうきたか。いい案だ。


「む……押されるか。やりますな」


「女神の力はこんなもんじゃないわよ!」


「駄女神でも、三人の力を合わせれば!」


「私たちに負けはありません!」


 三人の魔力が高まり、純度が上がる。

 やがて赤い渦を貫く光となって、ヴァンパさんに直撃した。


「ぬっ、ぬおおおおおぉぉぉぉ!?」


 防ぎきれずにふっ飛ばされ、ヴァンパさんは星になる。


「よし、そこまで! 勝者チーム駄女神!」


「いいぃぃやったああぁぁ!」


「やりました! やりましたよ!」


「とても清々しい、よい気分です」


「よーしよくやったぞ。やればできるじゃないか」


 見ていた俺まで嬉しくなる。ここはしっかり褒めてやろう。


「これがわたしたちの実力よ!」


「おう、ちゃんと見てたぞ。今日のことを忘れるな。お前達は勝ったんだ。偉いぞ」


「素晴らしかったよ君達」


 ヴァンパさんが戻ってきた。

 吹っ飛ぶ直前に回復魔法をかけてあげたので、復帰が速い。


「ヴァンパさんもお疲れ様でした」


「おつかれさまでしたー!」


「ああ、お疲れ様。お見事だったよ。最後のは効いた」


「そりゃそうよ。女神三人分の一撃だもの」


 三人には疲れの色が濃い。だがそれ以上にやり遂げた感動があるのだろう。

 充実した笑顔である。これはご褒美をあげようか。


「よーし、気分がいい。ラーメンおごってやる。動いて腹も減ったろ。ヴァンパさんも行きましょう」


「おや、いいのですかな? ではにんにくチップ多めで。一度しっかり食べてみたかったのですよ」


「吸血鬼って苦手なものが多いですからね」


「ええ、体質改善されたのなら、ちょっと食べてみようかと」


「よし、行くわよ!」


「先生の気が変わらないうちに行きましょう」


「善は急げですよ先生!」


 そんなわけでラーメン屋へとやってきた。

 女神ラーメンランキングでいつも上位らしい女神のやっている店へ。


「おかわり!」


「こちらも替え玉希望です」


「よく食うなお前ら」


 サファイアは家系ラーメン味濃いめ大盛り。

 ローズは醤油チャーシュー麺ネギ多め。

 カレンが和風つけ麺だ。


「運動したらおなかが減りますよ」


「うむ、よく食べよく寝てよく遊ぶ。若いお嬢さんにはそれが一番だ」


「ついでによく学んでくれればいいんだがね」


 俺が唐揚げ油そば大盛り。ヴァンパさんが家系にんにく大盛り。

 メニュー豊富すぎるだろここ。しかも超美味い。


「今日はそういうの言わないの! 勝ったんだから一日くらい、いい気分でいさせなさい!」


「そういうのを無粋というのですよ」


「悪かったよ。餃子も食っていいぞ」


「餃子はこの前食べましたし、わたくしはチャーハンにしますね」


「好きに食え。今日だけおごってやるよ」


 素直に褒めてやろう。反省会は必要だが、飯食いながらじゃなくてもできる。

 仲良く飯を食わせるのも、団結力は上がるだろうしな。


「先生、まだ正確な倒し方を聞いていません」


「なに?」


「あ、そうよ。なんかノリで倒せたけどさ。結局どうすればよかったわけ?」


「あーそうだったか。よし、説明してやる」


 確かに消化不良だな。ちょっと解説してやるか。


「まず三人に増えるだろ。その時点では全員偽物だ。そこから二人倒す。そして、二人が復活するまでに、三人の魔力を込めて倒すんだ。最後の一体だけが自動で本体になるんだよ」


「協力しなきゃ倒せないってそういうことなのね」


「時間が来たと言っていましたね。一定時間で復活するということですか」


「大正解。ちと厳しいかと思ったが……ちゃんとクリアできたな」


「ええ、素晴らしいチームですな。きっといい女神になりますよ」


 これからもきっと、困難な場面に出くわすだろう。

 だが今日のように成功と実績を積み、協力していけば、やがて立派な女神になるかもしれない。


「ほらほら、ヴァンパさんもそう言ってるわよ!」


「そうだな。俺がきっちり女神にしてやるよ」


 こいつらを導くのも面白い。嫌々引き受けた先生だったが、案外悪くないかもな。

 嬉しそうにラーメンを食っているこいつらを見て、なんとなくそう思うのだった。

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