第203話 奈落の花

 そろそろ元の時代に戻ってしまう。


 他に何を言えば良いのだろうか。

 伝えたい事は山のようにあるのに、言葉が浮かんでは泡のように弾けていく。


 ジャパリパークに来てから色んな事があった。

 命の危険も何度もあった。

 でも、私はそれ以上にかけがえのないものを手に入れた。


 私、たくさん友達が出来たんだ。

 だから、安心してほしい。

 もう一度、おばあちゃんに会えて良かった。


 祖母達が白い空間に溶けて消えて行く。

 後に残った虹色の粒子が御守りの中へ吸い込まれていく。





 ……気が付くと私達は元の場所に戻っていた。

 クーちゃん達はキョロキョロと周囲を見渡す挙動不審な私とオオウミガラスを見て首を傾げる。


 時間は全く経っていない。


 夢……だったのだろうか?

 いや、夢じゃない。


 ジャパリまんがしっかり2つ無くなっていた。


 私はオイナリサマが居るであろうパークセントラルの中心部の方へ向き直る。


 そこには先程まではなかったトンネルが出来ていた。


 刺の山をくり貫くようにパークセントラルの中心へ向かってひたすら真っ直ぐに伸びている。


 行こう。

 ジャパリパークの中心に!


 私達は意を決してトンネルの中へと入る。


 黒い結晶化したセルリウムに囲まれているが、トンネルの中は不思議と明るい。

 セルリアンは居らず、黒い結晶には写真でしか見たことがない光景が映り込む。

 藁葺きの家屋、畑、牧場、運河、石畳の道、ピラミッド、水車、吊り橋、船、日時計、風車……

 規則性のない光景が何を意味しているのかは分からない。


 長い長いトンネルを抜けた先は遠くから見えていた黒い結晶の塔だった。


 ここは元は城があった場所。

 それを飲み込むように黒い結晶の塔が聳え立っている。

 そして、扉のあった場所にはまるで獲物を待ち構える肉食獣の口のように、ぽっかりと大きな穴が開いていた。


 この先に何が待ち構えているか分からない。

 想像を絶するセルリアンと対峙するかもしれない。


 最大の警戒を持って私達は黒い結晶の塔の中に入る。


 不気味なほど静かな内部で私達の足音だけが響き渡る。

 塔と書いたが内部の構造的には上に上がることは出来そうもない。

 探せば元が城なので三階分くらいの高さまでは上がれそうだが、殆どの通路は黒い結晶に塞がれていた。


 セルリアンの姿は依然として見当たらないが、肌を焼くようなピリピリとした緊張感が漂う。

 塔の中はまるで何かが争っていたかのように砕かれた形の結晶が多くあった。

 新しいのか古いのか検討も付かないが、ここでフレンズとセルリアンの抗争があったことは想像できる。


 奥に進むにつれて周囲に黒と虹色のサンドスターが漂い始める。


 そして、私達は塔の最奥へ辿り着く。


 ヤマバクが小さく悲鳴をあげて、セルナが息を飲んだ。


 そこには……一輪の大花があった。

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