灼熱の大地

第40話 地方遠征

 私はメモを確認しながら再三忘れ物がないかチェックする。

 今回の忘れ物はそのまま命に直結する可能性が高い。

 しっかりと気を引き締めなければ……

 だからと言って荷物を沢山持ち過ぎれば体力の方が先に尽きてしまうだろう。


 体力と荷物のバランス調整が大変だ。


 無事支度を終えた私達は寮から旅立つ。

 少し歩いて振り返りながら見る寮は、何処と無く以前より綺麗に見えた。


 今回の旅の目的地は砂漠地方にある施設である。

 事前に調べた限りではそこは砂漠のオアシスに建てられた資料館のような施設らしい。

 主に植物を取り扱ってるようだ。


 砂漠で植物をテーマにした資料館か。

 亜熱帯をテーマにした植物園は良く見掛けるが、砂漠の植生に着目した物は少ない。

 サボテンだけを取り扱ったものなら良く見るが……


 サボテンは育てやすいのだろうか?


 話は逸れたが、今回の目的地は片道だけなら図書館から港へ行くよりも近い。


 港から南西へ向かう道を通り、山の中を通るトンネルを抜けると砂漠地方へ出られる。

 途中の分かれ道でさらに西に進むと、ツンドラ地方や密林地方に行く事が出来る。


 さすがに気候の全く異なる三方面全てに適応できる服は無いので、基本的に一つの地方を探索したら一旦寮へ帰ることになる。

 一度帰ってから再び探索に出るには1週間くらいは時間を空けたい。


 流石に砂漠から帰還した直後は身体が壊れてしまう。


 さて、そんな旅の目的地である砂漠地方なのだが、現時点ではかなり情報が乏しい。

 フレンズが砂漠に行く事は滅多にないし、砂漠に住むフレンズが別の地方に行くことも少ない。

 さらに砂漠地方の海岸はほぼ断崖絶壁となっており、オオウミガラスのような海暮らしのフレンズも遠巻きに眺めるくらいで、中がどうなっているのかは何も知らないのだと言う。


 考えられるだけの準備をして来た。


 死の風が吹き荒ぶ大地へいざ行こう。


 と、意気揚々と出発をした矢先に道の隅に妙なものが落ちているのを発見した。


 木彫りの熊?

 作りはかなり雑な上に熊と言うには顔が可愛過ぎる。

 何とも微妙な評価しかあげられない木彫りの熊が道に落ちていたのだ。


 先日の雨に打たれたせいか汚れてはいるが、木の表面を見る限りではそう時間が経っていないように見える。


 フレンズが作ったものだとは思うのだが、何故か釈然としない。


 釈然としない理由は日記のページを遡ることで判明した。


 フレンズには道具を作り出すと言う発想がない。

 さらに言えば動物由来の思考を継承するフレンズが、こんな何の役にも立たないような物を作るとは思えなかったのだ。

 何かの遊びと言う線も考えられるが、木彫りの人形を作る遊びをする動物なんているのだろうか?


 もしかしたら……


 私や司書が知らないだけで私以外にも人がこのジャパリパークに流れ着いた可能性がある。


 私は不格好な木彫りの熊を手に思考で固まっていたが、オオウミガラスに大丈夫?と声を掛けられたことにより再起動した。


 どうやらオオウミガラスにはそれなりに心配を掛けたようで、不安そうな表情をしている。


 私はそっと木彫りの熊を荷物に仕舞って道の先へ進んだ。

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