第13話
「あの子を眷属にしないのか?」
「しないよ」
来栖はきっぱりと言い切った。
久遠の心は久遠のものだ。血でむりやり縛り付けるようにはしたくない。ただ、もう遅いのかもしれないとは思ったが。
「共に生きたいとは思わないのか?」
「思うよ……思うけど……久遠が人間の友達と一緒にいて笑うところを見ると、これ以上、こちらの世界に引きずり込むことはしたくないとも思う」
「お前の正体を、あの子は知らないんだな?」
「ああ。話してないよ。まあ、うっすら気付いているかも知れないけど」
「そうか……」
なぜか呉羽が、一瞬だけ悲しそうに見えた。またすぐに、元の呉羽に戻ったが。
「長く生きれば、こういう不安からは解消されるのだと思ってたけど……そうでもないんだな」
成長期を人間として生きた呉羽は、眷属になった今でも時々、人間のようなことを言う。
人間だったときよりも、眷属として生きている時間が長いにも関わらず。
「まあな。長く生きれば生きるほど、一人の方がどんなに楽かって思うよ」
「でもやっぱり、大切な人のことで一喜一憂したりする時間は、何にも変えられないと思っちゃうんだよな」
「ああ、そうだな……」
その点は、吸血鬼である来栖とて、同じだった。
一度でも他人の優しさに触れてしまうと、もう知らなかった頃の自分には戻れない。
もっともっと、優しくされたい。そして、それ以上に優しくしたいと願ってしまう。
「来栖。主様が見つかるまで、またここに住んでもいいか?」
「どうせ、だめだと言っても、居座る気だろう?」
「まあな」
「隣の部屋は久遠が寝てる。俺の部屋を使え。布団が一組ある」
「恩に着る」
もうすぐ夜が明ける。
吸血鬼たちは眠りにつく時間だ。少し長く話しすぎてしまった。
来栖は下の部屋へ、客用布団を敷いた。
客用といっても、昔呉羽が使っていたのをそのままとってあるだけだった。
「うわ、懐かしい」
呉羽もそれを覚えていたようで、見覚えのある花柄の布団を見て、さんざん来栖の昔の失敗を思い出しては笑った。
久遠のために初めて野菜炒めを作ろうとして、火が強すぎて炭にしてしまったこと。
洗濯をしようとして、黒い服と白い服を一緒に洗ってしまい、黒い服に毛玉をたくさんつくってしまったこと。
特に食べ物のことに関しては、呉羽がいなければ今でもできないままだったと思う。
来栖自身は食べ物を必要としないから、食事の作り方だけは本を読んでも理解ができなかった。
あの時は本当に、呉羽がいてくれて助かった。
「干すのは明日な。急に来たんだから、我慢してくれよ」
「わかってるって」
呉羽はそれだけ言うと、さっさと布団に潜り込んでしまった。
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