第83話

僕はインターホンには普段から出ない。

しかし、何度も何度もインターホンが鳴らされた。

僕はやむなく、壁にある応答ボタンを押した。



僕 「はい」



カメラに、初老の男性の映像が映し出された。



初老「あの、山河です」



みわちゃんの、お父さんだった。



僕 「ああ、ああ、お父様」

初老「いま、よろしいでしょうか」

僕 「あ、はい」



僕はあわてて解錠キーを押した。


それからまもなく、

みわちゃんのお父さんが僕の部屋にお母さんも連れて入ってきた。


驚いたのは、みわちゃんだった。



みわ「パパ、ママ…なんでここに来たの?」

僕 「あの、お上がりください」

父 「いえ、ここで、結構です」



お父さんは、玄関先に立ったまま、話を続けた。



父 「このたび、私どもの会社の不始末で、

   石井さんも巻き込んでいろいろと娘を通じて言ってしまい、

   申し訳ありませんでした」



あれ、お父さんも早く婿がほしいと言っていたんじゃないかな。

なんで謝っているんだろう。



父 「大変お恥ずかしいことに、

   石井さんの、いえ、正確に言いますと、

   石井さんの実のお父様のお力添えがあれば、

   私どもは事業を続けられる、などと思っておりました。

   ところが、先ほど、石井さんの実のお父様から、

   こういう無理をされたら、結婚に反対する、という

   ご連絡をいただきました。まったく許せないという話でした。

   すべては、私どもが間違っておりました」

みわ「パパ」

父 「すでに、ご存知かと思いますが、私は明日、

   警察の取調べを受け、そのまま身柄を持っていかれると思います。

   ついては、身柄を持っていかれる前に、

   石井さんに、どうしてもお詫びをしなければならないと思い、

   突然、馳せ参じました。

   このたびは、大変、申し訳ありませんでした」



そう言うと、みわちゃんのお父さん、それにお母さんは、深々と頭を下げた。

みわちゃんは、どうしていいかわからないという困惑の表情を浮かべていた。



父 「つきましては、これまでのご厚情はありがたいのですが、

   私どもとしては、娘を引き取って、一からやり直したいと思います」

みわ「パパ」

父 「これで、娘を連れて帰ります。今日まで、ありがとうございました。

   そして、本当に申し訳ありませんでした。」



そういうと、みわちゃんはまた、幼子のように号泣した。

しかし、みわちゃんのお父さんは、淡々と、みわちゃんを諭した。



父 「みわ、石井さんにこれ以上お世話になるのは、できない。

   もう失礼だ。帰るぞ。」

みわ「パパア、パパア」



みわちゃんは、玄関先に座り込んだまま、今度はざめざめと泣いた。

その涙は、一敗地にまみれた涙だった。



それから少しして、みわちゃんは涙を流しながら支度をした。

別れ際、みわちゃんはこんなことを言った。

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