第80話

みわ「石井さんのことは、散々思ってるわよ!

   あたし、石井さんに全部あわせてて、苦しかったんだからね!

   それにパパの会社がつぶれそうになってきたでしょ。

   そろそろ見返りがないと、やってけないじゃん!」



見返り。


もはや神聖とは間逆の世界だ。

みわちゃんは、興奮すると、つい、本音が出てしまう癖があるが、

ここまで露骨に言われるとは僕も想像していなかった。


でも、僕は淡々と反応し続けようと思った。

露骨に対し、興奮したら、相手の土俵ですべてが進んでしまう。

自分の土俵で勝負するために、僕は短く、穏やかに発言した。



僕 「見返り、ね」



僕が短く、穏やかにそう言うと、

みわちゃんは、ようやく自分がとんでもないことを言ったと気づき、

困惑の表情を浮かべた。



みわ「あ、あの、言い方悪かった」



みわちゃんは少し申し訳なさそうにした。

しかし、もはや僕は、その程度では許せなかった。


僕「言い方は、この際もう関係ないな。

  それより、みわちゃんがどうして、僕に近づいてきてくれたのか。

  僕に何を求めていたのか。

  それを、もっとちゃんと聞きたかったな」



僕がそういうと、みわちゃんは一瞬黙って、何かに気づいた表情をした。



みわ「ひょっとして、誰かから、何かを聞いた?」



僕はここでどう答えようか、迷った。

ただ、みわちゃんに核心がズレないよう求めているのだから、

僕も核心を明らかにしないといけない、と思った。



僕 「聞いたよ」

みわ「何を聞いたの?」

僕 「僕が、本当は坂の上グループの家の生まれであること。

   僕のことを不憫に思った社長が

   遺言で財産を僕に譲ってくれそうだということ。

   そして、みわちゃんが、その財産を期待して、

   僕に近づいてきたということ。

   さらに、山河不動産が危なくなったから、

   急いで僕と結婚しようとしていること。

   以上4点です」



僕は、まるでスーパーのレジ係のように、淡々と要点の点数を言った。

僕はさらに続けた。



僕 「みわちゃん、4点のうちの、後半の2点、

   つまり、みわちゃんに関する部分は本当ですか。

   僕は本当であってほしくないと思っているけど、

   もし本当であったら大変だし、

   うそだったら、これを教えてくれた人に抗議しようと思っているので、

   本当のことを答えてください」



みわちゃんは、僕をにらみつけたまま、黙った。

    


みわ「あたし、石井さんのこと、愛してる」



みわちゃんは、矛先を変えてきた。僕はそれを許さなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る