第58話

すると、佳子さんは、

浴衣の下に袖のついた白い襦袢のようなものを着ていた。


なーんだ。

僕は、ドキドキして写真集を買った高校生が、

こっそり中身を開けてがっかり落胆するかのようなため息を漏らした。


佳子さん、これも設定、作戦ですか。


佳子「じゃ、向こうで着替えてくるね。ワンコちゃんも着替えて」


佳子さんは、僕が疑問をぶつける暇も与えず、着替えを持って隣の部屋に移り、

ふすまを閉めた。


不思議だなあ。

きのう、洗面所で肩を抱いた時は耐えられないくらい恥ずかしく、緊張して

肩を放してしまったのに、いまは、

ちらりと佳子さんのベールの中が見られないかと

期待してしまっている自分がいる。



みわちゃんとは、こんな展開はない。


わりと早い時期から、

僕とみわちゃんはその日の演目をこなすように過ごしてきた。


演目自体は、面白かったり、本能に訴えかけるものも多々あるけれど、

演目と演目をつなぐ場面はこれといったものがない。


それは平坦な道をゆるゆると進む馬車のようなもので、面白味も緊張感もない。

すべては想定内だ。

時には反応を期待されるとわかって、反応を演技したりもする。



でも、佳子さんとは、違う。緊張感あふれる展開だ。

展開と展開の間にも何かが隠れている。つながっている。

小ネタもある。話も面白い。


僕は、女性の魅力や、女性とともに過ごす時間というものの意味について、

考え始めていた。



佳子「あら。まだ着替えてないの?」


佳子さんは、首だけ隣の部屋のふすまから出して、言った。

着替えるのが早い。


佳子「もうちょっと、待っているからね」


そう言って、首を引っ込めてふすまを閉めた。


僕はあわてて自分の荷物から着替えを取り出し、浴衣をやくざに脱いで、

黒のシャツに着替えた。



僕 「着替えたよ」

佳子「あら、じゃあ、いくよ」


そう言うと、佳子さんはふすまをバッと開いて、姿を見せた。



その姿を見て、唖然とした。

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