第57話
「お仕事中の方、病院に入院している方、車の中にいる方。
みなさん一人一人の、紅白歌合戦です」
そうか、いいコンテンツって、一人一人の中に生きるんだな。
僕はそのときそう思った。
今の話も、きっとこの話につながるものがある。
そして僕は、ひそやかな願いを佳子さんに思い切って打ち明けた。
僕 「できたら、『君の名は。』の主人公たちみたいに、なれたらいいな」
佳子「うふ」
佳子さんは、はっきりした返事をしなかった。
時をこえて出会うという設定は、映画と一緒なんですけど。
そう思っていると、佳子さんは、話題を変えた。
佳子「お腹、すいたね。朝ごはん、用意してもらおうか」
僕 「うん」
佳子さんはそういうと、電話のところまでもぞもぞと動いて、
内線で朝食の用意を頼んだ。
そして、タンスに近づいて、引き出しから着替えを取り出した。
ホテルの部屋のタンスに着替えが入っている?
ちょっとおかしかったが、佳子さんはここの娘さんなんだから、
そういうこともあるのだろう。
そういえば、ロマンスカーを降りるとき、やけに荷物が少なかったが、
それは着替えを持っていかなくてもいい、ということだったのだろう。
僕の疑問がまたひとつ解けた。
すると、次の瞬間、佳子さんはするりと浴衣を脱ぎ始めた。
身長155センチの佳子さんは、
体にまとわりつくような濃い紺碧色の帯を緩め、
腰を少し回し、ベールを脱いだ。
「えっ」
僕は、浴衣から身を放たれた佳子さんを見てはいけない、と思い、
目をそむけた。
「あのっ」
僕はそこで声をあげた。
佳子「あ、ごめん、脱いじゃった」
佳子さんは悪びれもせずに言った。
佳子「ま、大丈夫だけどね」
佳子さん、何言っているんですか。
僕は目をそむけていたが、僕はちょっと悪びれることにして、
ちらりと期待した視線を佳子さんの方に送った。
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