第44話

佳子「リスク?何が?」

僕 「だって、僕が最初の電話を受けた時に

   『では、近いうちに中野坂上駅前の交番に、届けておきます。

    失礼しました--』

   って言って、わりとすぐに電話を切ろうとした、よね。

   もし僕が『ちょ、ちょ、ちょっと、待ってください』って言わずに、

   あっさり電話を切ったらどうするつもりだったの?」

佳子「ああ、そしたら、しょうがないじゃない」


僕は少しがっかりした。


僕 「ええ、だってそうしたら、僕たちもう会えなかったんだよ!」

佳子「そんなことないわよ」

僕 「なんで」

佳子「もしそうなっちゃっていたら、違う手を考えていました」

僕 「違う手?」

佳子「そう。違う手」

僕 「どんな手?」

佳子「それは、言えないなあ」

僕 「なんで?」

佳子「だってまだ、どこかで使う手かもしれないじゃん」


僕は息を飲んだ。

この人、ロールプレイングゲームでもやっているつもりなんじゃないか?

少し僕は不信感を持った。


僕 「そんなのロールプレイングゲームみたいで、いやだ」

佳子「何言ってるの。人生ってロールプレイングゲームみたいなもんよ」

僕 「なんだか遊ばれているみたいで、いやなんだ」

佳子「なんで遊ばれるのが、いやなの?」

僕 「だって、僕」


そこまで言って、僕は次の言葉をどうしようか、迷った。

「だって、僕、佳子さんのこと、本気で好きだから」というのが言いたいことだった。


でも、それを言ってしまうと、みわちゃんに悪いし、

それに、よく考えたらも少し違うので、

「佳子さんにはいつも圧倒されているため、好きとはちょっと違う感情があって、

緊張するし、そこによくわからない感情もあるから」というのを言いたかった。


しかし僕は、次のような言い回しをしてしまった。



僕 「だって、僕、佳子さんといると緊張するから」



これは、正確な表現ではない。緊張するのなら、社長の前に行けば緊張できる。

それと同等に伝わってしまわないか。

僕が心配してすぐに訂正を入れようとしたところ、すかさず佳子さんが先にコメントした。



佳子「あら、よかったわ」

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