第38話

佳子「あ、ワンコちゃん、ひょっとして、あたしと夜どうなるか、考えてるの?」

  「やらしー」

  「エロワンコだよね」


僕はエロワンコだなんて言われるとは、思わなかった。

あの、佳子さんの口からエロワンコだなんて!

僕は、佳子さんの清純さが破れたところが許せなかった。


僕 「そ、そんな、失礼だ!」


僕はとりあえずそう言ってみた。


本当はこの後に

「いやらしいことを考えたわけではありません。

 一緒にいると、ただでさえ緊張感満載なのに、

 一晩一緒の部屋にいるなんてことになったら、寝られないから困るんです」

というような回答を用意すべきだった。


しかし僕は、情けないことに、

やらしいと言われて、かえってやらしいことを考慮に入ってきてしまった。


それを除外するための言い訳を考えていたところ、二の句が告げられず、

佳子さんに付け入る隙を与えてしまった。



佳子「あら、ごめんね」

  「でも、文句はないんでしょ」

  「それに、ワンコちゃんが事前に頼んだ部屋は、

   もうキャンセルしておいたからね」

  「もし、この部屋で一晩過ごすのがいやだったら、

   お外で待っていることになるんだよ」


え、お外で待つ?

そう言われて、僕はふと窓の外を見た。

あたりはもうすっかり真っ暗になっている。

窓の枠に取り付けられている温度計を見た。


「氷点下9度」。


宵のうちでこの寒さだから、

夜が更けたら、氷点下10度は軽く下回るだろう。


一晩外にいたら、確実に凍えてしまう。さすが箱根の峠の上だ。

予報士であってもなくても、この寒さが命にかかわることは、明白だった。



僕 「お外で待つのは、できないよ」


僕が弱音を吐くと、佳子さんは待ってましたとばかりに笑った。



佳子「じゃ、入ろうね(笑)」

僕 「う、うん」



僕は小さな声でうなずくしかなかった。


どうしよう。今夜は緊張して寝られないよ。

緊張して鼻血出して、布団につけたらはずかしいなあ。


僕は修学旅行に行った男子高校生のような心配をしていた。


僕のそんな心配をよそに、佳子さんは部屋に軽やな足取りで入っていく。

部屋の中のふすまが開いた。



中の様子を見て、僕は唖然とした。

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