第36話

僕 「あの、僕、まだ」


やや脈絡のないところから、佳子さんと僕がつながれたので、

僕はあわてて火消しに走った。


じじ「まあまあ、みなまで言うな。君なら、佳っちゃんを背負える。楽しみじゃ。

   ほれ、そろそろお開きにするか」


おじさんはそう言うと、席を立った。

そして、仲居さんにつかまるようにして、足元をややふらつかせながら、

部屋を後にしようとした。


僕 「あ、あの、きょうはありがとうございました!」


僕はあわててお礼を言った。


じじ「おう、楽しかったぞ。あとはよろしくな」



じじはそう言って、姿を消した。

僕は冷めたお膳を前に、佳子さんと向き合った。



佳子 「ありがとう、ワンコちゃん」

僕  「いえ、あんなつらつらした話で、よかったのかなあ」

佳子 「満点よ。じじを納得させられる男って、いないんだからね。

    さすがあたしの、カ・レ・シ・サ・マ!」

僕  「えへ、そんな」


僕は佳子さんにカレシサマと言われて、赤くなるのを隠せなかった。


佳子 「なーんてね」


佳子さんは、すぐ混ぜっ返す。植木等みたいだ。

こんなところにも、昭和が薫っている。


佳子 「でも、本当にありがとう。これで、じじも納得よ」

僕  「そうかなあ」

佳子 「そうよ。今夜はこれで気が楽ですっ」


佳子さんは、そう言って、伸びをした。


佳子 「じゃあ、あたしたちもお開きにしようか」

僕  「うん」


僕がそう言うと、仲居さんがものすごい勢いで近づいてきて、お膳を下げていった。

よく見たら、佳子さんの方が僕より食べていた。

すごいなあ、佳子さん。こんな小柄なのに。僕は小さく驚いた。


そして、広間を後にした。

長い廊下を歩き切ると、僕は佳子さんに部屋の鍵を渡した。


僕 「じゃあ、おやすみなさい」

佳子「え、もう寝るの?」


佳子さんは、けげんそうに聞き返した。


僕 「あの、すぐ寝るわけじゃないけど、僕は部屋が別だと思うからここで」


そう言うと、佳子さんは吹き出した。


佳子「何言ってるのよ、同じ部屋に決まってるじゃない」

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