最終回【ただいま】


 あれから一ヶ月ほどはデュクスブルクに駐留したわ。

 あの戦いで命を落とした人の為に、街の外れに大きな墓地公園を建てたの。

 これから先、子供たちが元気に遊び回る姿をみれば、無くなった方の魂も少しは癒えるのじゃないかしら。


 グリーン農場とイソボン農場は、無事帝国へと引継ぎを完了。

 帝国中の農業研究者がやって来ているらしいわ。

 荒れた土地を回復させながら、農業生産を劇的に向上させる数々の技術を導入した事で、のちに、帝国いちの穀倉地帯に変わる事になるの。


 私たちはその後、ガルドラゴン王国へも渡り、同じ様に農業改革を広めていったわ。

 約半年に及ぶ諸国漫遊を終え、懐かしのミレーヌ神聖王国へと帰っていったの。


「いやー、まったく波瀾万丈の旅だったぜ」

「本当に」

「楽しかったわねー!」

「否定はしねえけどよ、ミレーヌは呑気すぎないか?」

「プラッツ君」

「い……生きて帰れたのが不思議な旅だったのじゃ……」

「お前はどうして、行く先々で誰かに襲われたり攫われるんだよ」

「知らんのじゃ! アイーシャの方が聞きたいのじゃ」

「すぐに一人で歩くからよ」

「ええ、ミレーヌ様に迷惑をかけるのは心配しませんね」

「ううう……」


 不思議なくらいアイーシャさんはトラブルに巻き込まれていたわね。

 大体、プラッツ君と喧嘩して飛び出していく事が多いんだけど、いつもいつも絶妙に見てないタイミングなのよね……。


「なんであれ、全員無事戻って来られて、ほっとします」


 エルフのリンファさんが、やりきったという表情で胸を張っていたわ。

 うんうん。リンファさんにも沢山お世話になったわね。

 時々リンファさんの事を知っている人に遭遇したわ。その度にリンファさんは悶えていたけれど。

 みんな美術館の絵画に感銘を受けた人たちだったからねえ。


「ティグレティグレ。落ち着いたら喫茶店にでも行くにゃ」

「あ、ああ」


 ミケさんのティグレさんに対する好き好き光線は、もう誰が見ても間違い無いレベルまで強まっているわ。

 鈍感なティグレさんも気付いたみたいだけれど、まだ戸惑っているみたい。

 正式に付き合ってる訳じゃないみたいだけど、距離感は大分縮まっているわね。

 お似合いだと思うわよ?


 そんな感じでゾロゾロと、懐かしの我が家へ向かっていると、周りの人たちが、私たちに気がつき始めたわ。

 街の入り口で馬車を降りてきたのに不思議ね。


「ミレーヌ様の美しさは隠せるものではありません」

「ありがとう、ブルー」


 ブルーのお世辞はいつも大げさよね。嬉しいけれど。

 プラッツ君はもう少し、こういうところを勉強するべきよね。今もアイーシャさんと言い争っているし。


「おおお! ミレーヌ様じゃ! ミレーヌ様がお戻りになられたのじゃ!」

「あら、長老会のみんな。ただいま」

「女神様がお元気なようで何よりですじゃ」

「あなた達も元気そうで良かったわ」

「女神様の指導で育てている食べ物のおかげですじゃ!」

「そう、食糧事情も良好なようね」


 問題があれば、すぐに連絡が来る手はずになっていたので、便りのないのはよい便りと思う事にしておいたわ。

 我が家(城)に戻る前に、学園にも顔を出したわ。


「おお、ミレーヌ様。お戻りになりましたか。レイムもご苦労でしたね」

「留守の間、学園をありがとうございます。何か問題などありましたか?」

「いえいえ。ミレーヌ様が用意してくださった課題のおかげで滞りなく」

「ロドリゲス神官にお任せして正解でしたわ」

「そう言っていただけるだけで、望外の喜びですよ」

「それでは明日にでも改めて」

「はい。お任せください。おっと、そうでした。ルーシェ教の総本山に教皇ポープが移り住み、活動を始めております」

「あら、それは挨拶にいかないといけないわ」

「後日、予定を組んでおきましょう」

「細かい事はメイドに連絡してくれるかしら?」

「たまわりました」


 そんな感じで、学園を後にしたわ。

 我が家に戻ると、メイドたちがずらりと迎えてくれたの。


「ただいまみんな」

「「「おかえりなさい! ミレーヌ様!!!」」」


 ようやく帰ってきたって感じね。

 そのまま、旅のメンバーで、ゆっくりと食事をしていたのだけれど、何か外が騒がしいわ。


「シノブ、様子を見てきてくれる?」

「わかったでござる。にんにん」


 シノブはすぐに戻って来たわ。


「大量の住人が集まっているでござる」

「え? なんで?」

「ミレーヌ様の帰還を聞いて、皆自然に集まってきたでござるよ。にんにん」

「……どうしましょう? ブルー?」

「一言挨拶差し上げてはいかがでしょう?」

「そうね。急いでテラスの準備をしてくれるかしら」

「はい」


 首都を一望出来るテラスから見下ろすと、一面の人、人、人だったわ!


「え、なにこれ?」

「首都の人口はミレーヌ様が出立されてから三倍になっております」


 教えてくれたのは、留守を任せていたサファイアよ。


「そ、壮観ね」

「はい。ミレーヌ様のご威光の賜物です」

「そんな大層なものは放っていないと思うのだけれど」

「とんでもありません! ミレーヌ様は光輝いております!」


 ブルーはいつも大げさね。


「まあいいわ。風魔法で声を拡張してっと……」


 私がテラスに姿を現した事で、まるで街が揺れるほどの歓声が上がったわ。

 なんだか照れるわね。

 私がそのまま黙って立っていると、自然に声が静まっていったの。

 もしかして、私の一言を待っているのかしら?

 こほんと一息。


 こうして、私の大きな旅は終わったわ。

 うん。またみんなで旅をしたいわね!


「ただいま!!」


 — END —


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おきらく女魔導士の開拓記 〜メイドと始めるまったり楽々スローライフ〜 佐々木さざめき @sasaki-sazameki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ