第百三話【びっくり、大暴走】


「断る!」


 デュクスブルクからようやく出てきた防衛軍。

 その先頭に立ったのは、ここの城主さんね。何度かお会いしたわ。


 私は冒険者たちのさらに後方で待機していたわ。

 最初は交渉のために前に出るつもりだったのだけれど、ブルーに懇願されてしまったの。


 なので、みんなに守られながら、遠見ディスタント・ビュー空間映像スペイシアル・ディスプレイ音声風達イーブズドロップを使って様子を伺っているの。


 そうしたら、城主さんが出てきて「断る」ですもの。びっくりだわ。


「いっそ始末してしまいましょうか?」

「色々ダメよ」


 やり方もダメですし、折角いち冒険者として振る舞っているのだから、それでは意味が無くなってしまうわ。

 本当にブルーの冗談は、時々きついわね。


 ……冗談よね?


「どうする? 始末はあれだが、邪魔なら排除してくるぞ?」

「ティグレさん、わかってて言ってるでしょう」

「ははは! だが、こじれるのは間違い無いぞ?」

「うーん。取りあえずレッドに任せたのだから、しばらく様子を見ましょうか」

「そうだな」


 私たち……と周りの冒険者たちが興味深げに空中に浮かぶ映像に注目したわ。


「おい、どういうことだ?」

「ふん。なぜメイド風情の言う事を聞かねばならんのかね? 私はここの城主で領主だぞ!」

「たかが領主風情が……え? あ、ごめん。それは言っちゃダメだよな」

「何をごちゃごちゃと独り言を! とにかくそこをどけ! よくわからんがチャンスなのだ!」

「だから、殺さずに捕らえるなら退くって。ちゃんとロープも用意しておいてやったぞ」


 レッドが大量のロープをどんと積み上げたわ。

 流石レッド、普通の人なら持ち上げる事も出来ないわ。


「城主(帝国の膿)、ここは飲みましょう。こちらにはなんの損も無い」

「何を言っている。相手は貴族でも騎士でも無いんだぞ? 捕らえたところで身代金すら要求できんではないか! この人数を捕らえて、飯はどうするのだ!」

「ああ、それならお嬢様が確保してくれるぞ」

「な……!? い! いや! そもそもこの人数を収容できる牢屋すら……!」

「ああ、それも、3日程度で用意してやるよ。本当にミレー……お嬢様は優しいよな」

「城主(おっぱい好き)、悪い話ではないじゃないですか」

「ぐぐぐ! 領主は私だ! 私が一番偉いのだ! 私の命令を聞け!」


 頭に血が上ってしまったのか、意固地になってしまったようね。

 これは私が出るしか無いかしら?


「おい! あんたら何やってんだ!?」

「なんだと?」


 城門からぞろぞろと現れたのは、農園の従業員たちを中心とした一般市民たちだったわ。


「なんだ貴様ら!」

「なんだじゃねぇよ! ミレーヌ様が無傷で捕らえろとおっしゃってるんだぞ! 従えよ!」

「なっ! なんだとぉ!?」

「城主(判断力皆無)! ダメです! よく見てください!」


 オレンジ門が閉まっているからか、元スラムの住民などが、ぞろぞろと正面門に集まっていたの。


「俺たちはミレーヌ様のお手伝いに来たんだ!」

「そうだそうだ! 無能の領主(無能)なんかに用はねぇよ!」

「貴様らぁ! 全員反逆罪で捕らえるぞ!」

「はっ! やれるもんならやってみろ! そこの能無し兵士どもで俺たち全員捕らえられるならな!」


 いつの間にやら、集まっている人数は万単位になっているようね。

 これは壮観だわ。


「う……部隊指揮官(役職がころころ変わる)! あいつらを捕らえろ……いや! 簡易裁判だ! 有罪だ! 全員処刑せよ!」

「無茶いわんでくださいよ……」

「ぐ! 逆らうならお前は首だ!」

「そりゃ、喜んで」


 部隊指揮官らしき人物が、剣と鎧をその場に投げ捨てたわ。


「おい、俺はお前たちに賛同するぞ」

「おお! 騎士様!」

「え!? 指揮官!?」


 兵士達が動揺しているわ。当たり前だけれど。


「お、おいどうすんだよ」

「どうするって……」

「おい! そこのお前! 副官だな? 今からお前を——」

「私も! 兵士をやめさせて頂きます!」

「……へ?」


 城主さんに何かを言われる前に、前任にならって剣と鎧を投げ捨てて、慌てて市民たちに紛れ込んでいったわね。


「おい! クソ城主! これでもまだ邪魔立てする気か!?」

「そうだそうだ! 今まで俺たちに仕事の一つも用意出来なかった無能が!」

「いっそ殺しちまうか!」

「ああ! もう限界だ!」


 え? それはダメよ!

 レッドに城主さんを攫ってくるよう命令しようとした直前だったわ。


「皆のもの静まれぃ!」


 現れたのはシュトラウスさんだったわ。

 すっかり存在を忘れていたわね。

 兵士と市民の間に割って立ったわ。


「安心しろ、今この場で、この領主は首になる!」

「なっ……!」

「あんた、一体何者なんだ?」

「ただの貴族じゃないのか?」

「ははははははは! 今こそ明かそう! 私はシュトラウス・グレンツェント! 皇帝陛下の肉親である!」


「「「な、なんだってー!?」」」


 まぁ予想はしてましたけどね。

 軽く肩をすくめるティグレさんとは対照的に、開いた口が塞がらない状態なのはプラッツ君ね。……予想だにしてなかったって顔だわ。


「ちょ……王子! そ、それは……!」

「ははははははは! 今回は皇帝陛下よりの勅命が降りている! 末端王子だが、この場で貴様を解任するくらいの権力は持っているぞ!」

「そ、そんな!」

「一時的に私が領主代理として命じる! 敵は捕らえよ! 間違っても怪我をさせるなよ!」

「お……おお?」

「部隊指揮官! 今一度、その任を受けてくれぬか?」

「よろしいので? 今まさに抜けた私を……」

「ふん。あんな茶番どうでもいい。兵士をまともに動かせるのは貴様だけだ。働いてもらうぞ」

「ははぁ! 身命に賭しまして!!」

「良い! では行動しろ!」

「はっ! 改めて命じる! 敵を捕らえよ! 残さずだ!」

「「「「おおおおおお!!!」」」」

「住人たちよ! 協力してくれるのであれば、ぜひ、捕縛を手伝って欲しい!」

「おうよ!」

「任せろ!」

「ミレーヌ様の為だ!」

「葉っぱビキニがいない……」


 こうして夕方までには野盗崩れのネーベル王国軍は全員捕らえられたわ。

 うん。

 最後の言葉は聞かなかった事にしましょう。


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