第七十六話【おきらく、いってきます】
月日は流れ、さらに1年近くの年月が過ぎたわ。
この時代に目覚めてから、2年ちょっとね。
合併統合された元ベルーア王国領も大きく発達しているわ。
ちなみに貴族の扱いだけれど、今代限りと言うことで、残っているわ。
一番大きな勢力を持つのはガラディーン・ベステラティン辺境伯よ。
ティグレさんが作成した統治条件を実行してもらっているわ。
小学校の設立とか、上下水道の普及などね。
今までと大きく政治体系が変わってしまったけれど、ガラディーンさんはかなりうまくやっているわ。
他の貴族がそれを見ているから、文句を言えなくて助かっているの。
この辺全部ティグレさんがうまくやってくれたんですけどね。
「最近ようやく優秀な人材が育ってきて、楽になってきたぜ」
「ここ一年、ティグレさんずっと忙しかったですものね」
「ああ。だが合併もスムーズにいって、市役所の設置も十分に認知されたからな。他国から入ってくる人間で優秀なやつもいるからな」
「それは良かったわ」
久しぶりにティグレさんや長老会、その他親しい人を集めてお茶会の途中よ。
「すみませんミレーヌ陛下。少々よろしいですか?」
「はい、メンヒェルさん」
実は甘いものに目が無い、ベルガンガ帝国のメンヒェル・バドゥードゥ外交官が話しかけてきたわ。
「ルードウィヒ皇帝陛下より、お願いがあると、双子の鏡で連絡がありました」
「お願い? 何かしら?」
「はい。実は帝国に存在する、広大な荒れ地で、何か育てられる食べ物などが無いか、一度こちらの技術者を送って欲しいとのこと」
「とうとう帝国も内政に着手するのね」
「はい。これまでは国内の混乱を収めるのに手こずっていましたが、ようやく」
弱みを見せてくるところは、信頼されていると考えていいわよね。
「しかし技術者ですか」
「はい。こちらの農業技術は隔絶していますからね。もちろん、この国の大切な産業である食料輸出を妨害する意図はないのですが……」
「いえいえ。大丈夫ですよ」
むしろ、帝国が食料の7割近くを、ミレーヌ神聖王国から輸入している今の状況は、お互いにとっても良くないわ。
「しかしそうすると現地調査が必要ですね……」
そこでふと、脳裏に名案がひらめいたわ!
「そうだわ! それ、私が行きましょう!」
「は? 陛下が!?」
「ええ。ちょうど旅行したい気分だったのよ!」
「おいおい、女王が直接行くつもりか!?」
「あ、ティグレさんも一緒に行きません? 護衛としても頼りになるし、近くにいてくれると心強いわ」
「それは……二人っきりで旅行ってことか!? もっ! もちろん行くぜ!」
「他にはブルーにグリーン。オレンジとダークとレッドも連れて行きましょう」
「お……おう」
「私がミレーヌ様のお側を離れると、なぜ思ったのですか」
二人っきりなわけないじゃない。
自慢じゃないけれど、私、メイドがいないと何もできないわよ?
「あ、それならあちきも一緒に行きたいにゃ」
参加表明したのは猫獣人のミケ・ニャウ・フーリさんよ。
最近は学園や寮の警備をしていたわ。
「それなら俺も行くぞ!」
「それならアイーシャも行くのじゃ!」
プラッツ君とアイーシャさんが同時に叫んだわ。
二人はお互い驚いたように顔を見合わせた後、同時にそっぽを向いたわ。やっぱり仲良いわよねぇ。
「良いわねぇ。仕事半分、旅行半分で行きましょうか」
「そ……それはありがたいのですが、それではすぐに受け入れ体制を……」
「あ、これ、お忍びね。皇帝陛下には内緒にしておいてね?」
「いや、それは……いえ。わかりました」
「お願いね」
実際には報告するんでしょうけれど、こう言っておけば、大仰な出迎えとかはなくなるでしょう。
外交官も大変よね。
「ふむ……それならば、ぜひレイムも連れて行ってもらえませんでしょうか?」
「レイムさんを? 本人が行きたいのであれば、問題ないですよ?」
頼んできたのはロドリゲス・エボナ神官長よ。
「私も一緒に行って良いのですか?」
「もちろんよ。最近魔法の腕も上げてるんだもの。心強いわ」
レイムさんは、プラッツ君と一緒に、私の個人授業を受けているのよ。
この二人は制限付きじゃない、本来の基礎術式をたたき込んでいるわ。
レイムさんは性格的に攻撃魔法をほとんど覚えていないけれど、かわりに治癒魔法を徹底的に学んでいるの。
「ありがとうございます! ぜひお願いします!」
「そうなると馬車一台じゃ足りないよな。もう1台作るか」
「ええ。お願いね、オレンジ」
「うーん。今まで使ってたやつは男性用にして、女性用に凄いの作るかな」
「あら、それは楽しみね」
その後、仕事の引き継ぎや準備などで一週間ほどしてから、出立の時が来たわ。
最終的に参加者は13人よ。大所帯だわ。
私、ブルー、レッド、シノブ、グリーン、オレンジ、ダーク、プラッツ君、レイムさん、アイーシャさん、ティグレさん、ミケさん、それとなぜかエルフのリンファよ。
スタインさんとリンファさんもお茶会にいたのだけれど、そのときスタインさんが半ば強引にリンファさんの同行を頼んできたの。
おそらく王国側としては、情報が欲しいのだと思うのだけれど、当のリンファさんは、モデルをやらなくてすむなら地の果てにだってついてくる勢いだったわ。
本人が来たいというのだから、断る理由もないわ。
女性用の馬車は結局2台になったわ。
荷物を積んだ馬車も1台増やしたので、馬車4台の、まるでキャラバンのような状態ね。
もちろん、全員分の入国許可はメンヒェルさんに出してもらったわ。
リンファさんの分もあっさり出たのは驚いたけれど。
荷馬車の操車は交代でやることになったわ。
「みんな揃ったわね! それじゃあ行くわよ! 帝国へ!」
「「「おおー!!!」」」
こうして4台の2足トカゲ車が、土煙を上げて出発したのよ。
どんな新しい芸術に出会えるかしら?
楽しみね!
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