第五十八話【私、精霊魔法見ます】


 リンファさんが精霊魔法を見せてくれるんだって!

 嬉しいわ!


「それでは僭越にゃがら……」

「お願いね」


 リンファさんが、小さく知らない言語で小さく呟いたわ。

 エルフ語って奴かしら?

 かなり集中して見てたけれど、魔術式はかなり独特で解析出来なかったわ。

 でも、これで精霊魔法も、一種の魔術か魔法というのは判明したわね。

 おそらく種族特性と環境特性を組み込んだ、かなり高度な術式ね。

 ただ、複雑な割りには……。


「光の精霊よ、暖かき灯火を我らにもたらせ」


 淡い光を放つ球体がフワリと頭上に浮き上がったわ。

 ゆっくりと私たちを回ると、リンファさんの近くに滞空を始めたわ。

 なるほど、疑似生命に見えるように、術式レベルで組み込まれてるわね。

 まだ日があるから、弱々しい光に感じるけれど、夜であれば、本を読むくらいには充分な光量ね。


「これが私の使える唯一の精霊魔法です。噂に聞く大魔導師であるミレーヌ様にはお目汚しでしたとおみょいますが」

「大魔導師はやめて……私は普通の魔導士よ」

「話では三万六千の兵を、魔術でなぎ倒したと聞いていますが」

「もの凄い尾ひれが付いてるわ! 地の利を生かした戦法を、ウチの軍事担当が思いついただけよ。それに戦闘のほとんどはその軍事担当が受け持ったのよ」

「そうなのですか? 噂ですと、なんでも三万六千の兵を、大量の水で押し流したと聞きましたが」

「誤解よ、誤解」

「まぁこの国と王国は距離がありゅますからね。大げさに伝わったのでしょう。ですがそれだけの兵を押し返したのは事実。しょんけいいたします」

「ありがとう。あなたの精霊魔法も良かったわよ」

「そんな……」

「難しい術式ですからね。それを組めるだけでも凄いと思うわよ?」

「……え?」

「ん? 何か変な事を言ったかしら?」

「いえ……精霊魔法は、一般的な魔法、魔術とは別の術ですから、術式というのは存在しないはずなのでちゅが……」

「え?」


 もしかして、まずかったかしら?


「えーと、特に深い意味は無いのよ」

「はあ」

「それより、おかわりはどう? まだあるわよね?」

「もちろんご用意しております。良ければ別のメニューの用意も出来ますが?」

「じゃあそれを持って来て!」

「かしこまりました」

「よ、よろしいのでつか?」

「良いのよ。折角ですからお友達なりたいわ」

「国家元首と友達!?」

「あら、女王だって人間よ? それともエルフさんは、人間のお友達はいや?」

「滅相もありまちぇん!」


 そんなこんなで、お茶会は続いたわ。

 なんとか誤魔化せたみたいね。


 それにしても、王国の話を少し聞いたのだけれど、かなり大きな国みたいね。

 現在、この大陸で最大の国家の可能性が高いわ。

 留意しておきましょう。


「それでは失礼いたしましゅる!」


 リンファさんは凜々しく、びしりと敬礼をすると、部屋に戻っていったわ。

 ……。

 定期的に噛んでいたことに突っ込むべきだったかしら?


 ◆


 次の日は、大使館の設立や、今後の協議体制についての話合いをしたわ。

 使節団はかなりの資金を持たされていたので、大使館はこちらで建築したものを、賃貸する形になったわ。

 すぐに、ラナンキュラス(オレンジの部下の製造メイドよ)に建築指示を出したわ。

 

 そんなこんなであっと言う間に時間は過ぎていったわ。


「い……忙しいわ」

「お疲れ様です。明日は帝国の使節団が訪問予定です」

「そうだったわ……いっそティグレさんに丸投げしちゃおうかしら」

「そうなさいますか?」

「ちゃんと相手するわよぅ……」


 実は今、ティグレさん、滅茶苦茶忙しいのよね。

 ベルーア王国との折衝をほとんど任せてあるのよ。

 だから今回も同席出来なかったほどよ。


 そして、それを取り纏めてくるのだから、本当に優秀よね。

 もっともその分、決裁書類が山のように送られてくるのだけれど……とほほ。


 へ……平和の為よミレーヌ!

 頑張るのよミレーヌ!


「冷たい物でもいかがですか?」

「お願いするわ」


 ブルーが出してくれたのは、アイスクリームよ!

 バニラはまだ手に入っていないけれど、流通で砂糖が入るようになったので、作れるようになったみたいね。


「美味しいわぁ」

「冷却の魔法が必要なので、私では量が作れないのが口惜しいです」

「魔石を使っちゃえば?」

「さすがにデザートの為に魔石を使うのは……」

「数はあるのよね?」


 冒険者さんたちが凄い勢いで、魔核を集めてくれるのよね。

 ジャイアントアントの魔核は、かなり数があるわ。


「ベルーア王国との戦争で、かなり消耗しましたからね。無駄使いはいけません」

「まぁ、そうよね」


 おかげで死者が出なかったんだから良かったわ。


「今、オレンジが魔法を使わずに作る方法を考案中です」

「それは良いわね」

「そうすれば、またこのミレーヌ神聖王国の名物が増える事でしょう」

「……仕事だったのね」


 比較的平和な世界だけれど、もうちょっとゆっくりしたいわ……。

 とほほ。


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