第五十話【私、出番です】


 魔導部隊、ガラディーン辺境伯を除いて全滅。

 ガラディーンが残ったのは偶然だろう。

 こちらの伝説級の魔術は防がれ、逆に敵の一撃でこちらはほぼ全滅。

 いや、軍の消耗率を考えたら、三割も減ったら全滅という扱いだ。つまり魔導部隊は壊滅した。


「……負傷者を回収! 魔導士は最優先だぞ! ガラディーンも下がらせろ!」

「はっ!」


 茫然自失となっていたガラディーン辺境伯を始め、魔導部隊を回収。幸い死者はいなかった。もっとも全員が内臓をシェイクされ数日は使い物にならない。


「……槍隊を下がらせろ。敵が合わせて追撃してくるようなら防衛戦。止まるならば、そのまま下がらせろ」

「は……しかしそうすると前面が……」

「トカゲ騎を出す」

「は……?」

「トカゲ騎だ。前面整列が完了次第、突撃させる」

「わっ! わかりました!」


 この様な狭い場所では使いたくない戦術だったが、もはや手段を選んでいられない。こちらの被害も相当なものになると思うが、トカゲ騎300騎による突撃を指示した。

 馬よりも大きく強い。

 しかも足下に敵味方の死体が転がっていてもその強靱な足腰で乗り越え突撃出来るのがトカゲ騎の最大の魅力だ。

 精鋭たるトカゲ騎の損耗は避けたかったが、勝つことがなにより肝要。


 もっとも恐れていた、崖上からの投石だが、偵察凧による入念なチェックでそれは無い事を確認している。

 仮に一人二人見落としたところでやれることに限度がある。


「これは戦争だ。辺境の部族争いと違うと言うところを見せてやる」

「将軍! トカゲ騎の大隊長が一言あると!」

「む? よかろう。呼べ」

「はっ!」


 伝達を終えた兵士がすぐに銀に輝く甲冑の偉丈夫を連れてきた。


「失礼! 二足トカゲ騎士隊大隊長のラガルト・レザールです!」

「久しぶりだなラガルト」

「オーコーゼ将軍。今回わたくしどもの隊に命令ありがとうございます!」

「お前たちは温存しておきたかったが……、危険な任務だぞ?」

「承知しております! しかしご安心下さい! 王国最強の部隊と言われながら、今まで実戦投入されたことはごく稀。隊員全員がこたびの任務に喜びで打ち震えております!」

「そうか……よろしく頼む」

「とんでもありません! これでもうお飾り部隊などとは言わせませんとも! 士気も高く敵の蹂躙をお約束いたします!」

「わかった。任せたぞ!」

「はっ!」


 ラガルト大隊長がすでに整列を終えた部隊の中央へと陣取ると、トカゲ騎部隊が鬨の声を上げた。

 なるほど、本当に士気は高いようだ。

 損害を恐れぬ狭い山道でのトカゲ騎突撃。もはや勝敗は決した。


 それが証拠に見ろ!

 今まで微動だにしなかった敵前衛が慌てて下がって行くでは無いか!

 流石にトカゲ騎の隊列を見れば冷静でいられないだろう。


 だが割と秩序立った後退なのだけが騎に食わない。


 後方の治癒術士は用意してあった馬車に飛び乗り、あっと言う間に視界外へ。忌々しい虎種族の前衛は、丸太をその場に放り投げると、一目散に下がっていった。

 それなりに組織立ってはいるがやはり戦争の素人だろう。

 トカゲ騎や騎馬にとって、逃げる敵を追うことは、その機動力と攻撃力を、もっとも発揮する場面なのだ。

 騎馬による追撃戦。


 どうやら敵は全滅したいらしい。

 オーコーゼ将軍がニヤリと笑い、突撃の命令を出そうとしたとき、それに気付いた。


 引き上げる敵の中、四人だけが取り残されているのだ。

 初めは逃げ遅れかとも思ったが、違う。


 敵軍が下がりきると、突出して残されたのは三人の女とグオ種族だった。

 オーコーゼ将軍はその四人ともに見覚えがあった。


 虎種族の偉丈夫は、今までこちらを苦しめてくれたティグレ・グオ・タイグーに間違いが無い。

 こいつが残るのはまだわかる。

 だが……。


 真っ赤な巨大な片刃剣を背中に何本も刺して仁王立ちする赤髪の……メイド。

 済ました顔で銀の盆を持つ青髪の……メイド。


 そしてその二人に挟まれたドレス姿の女こそが。


「ミレーヌ……ミレーヌ・ソルシエだと!?」


 敵の首魁がそこにいた。

 信じられないとオーコーゼ将軍は何度もその姿を確認してしまったほどだ。

 そしてミレーヌ・ソルシエの後ろに控えていたティグレがゆっくりと前に出てきて吠えた。


「告げる! ベルーア王国軍は今すぐこの地より退去せよ! さすれば追撃しないと約束する! また政治的要求もしないことを約束しよう!」


 今あの虎野郎は何と言った?

 退去?

 この状況で我が軍に退けと言ったのか!?


「馬鹿が……たかだか戦術レベルで勝利した程度で慢心か?」


 オーコーゼは呟いたがもちろん相手に聞こえるはずも無い。

 ティグレは同じセリフを三度繰り返していた。


「しょ、将軍。敵兵が退去勧告を発しております……」


 伝令に来た将兵も困惑気味だった。彼とて任務でなければ、見ればわかることを報告などしたくもないだろう。


「……ラガルトに伝えよ……突撃。突撃だ! 敵首魁とて生け捕りにする必要無し! その首討ち取って来い!」

「はっ!!!」


 その知らせは瞬時に正確にラガルトに伝わり、奴はもう一度叫んだ。


「突撃! 蹂躙せよ!」

「「「「「うををををををを!!!!!!!」」」」」


 地煙を巻き上げて、強靱な二足トカゲ騎が突っ込んでいった。

 ブラフだとでも思ったのだろうか?

 もはや奴らに生き残る可能性は0だった。


 ◆


 退去勧告を三度行ったティグレはミレーヌに向かって肩をすくませた。


「ま、ここで退く軍隊はありゃしねぇわな。すまんがミレーヌの出番だ」

「わかったわ」

「すまねぇな。状況4……敵騎馬兵による、消耗を恐れない突撃。これを最小限の被害で・・・・・・・追い返す方法が他に見つからなかった」

「良いわよ。それにしてもよくこんな戦法を考えついたわね」

「たまたまだ。それにこんな地形でも無きゃ使えんしな」

「そうね……。やっぱり敵は突撃してくるみたい」

「最悪はアンタを抱えて逃げるから安心してくれ」

「それは私が請け負います。その時あなたとレッドは死ぬ気で敵をとどめおきなさい」

「へいへい」

「もう、ブルーったら」

「最悪の場合は常に考えるべきです」

「まぁそうだけれどね。おしゃべりしてる暇は無かったわ。やるわ」


 ミレーヌはブルーからいくつもの魔石を受け取った。

 流石のミレーヌですら、これから行う術は、己の魔力だけで賄えるものではないのだ。


 ミレーヌは小さく息を吐くと、ゆっくりと、確実に魔力を練り上げた。


造水クリエイトウォーター


 それは、攻撃呪文とはほど遠い魔法であった。


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