第四十九話【私、感心です】
「作戦はこうだ」
ティグレさんが地図を開いて敵の迎撃ポイントを指定したわ。
山道の比較的出口……じゃなくて入り口ね。
名もなき村から少し進んだあたりよ。
「あら、敵を全て引き入れないのね」
「ああ。理由はいくつもあるんだが、まぁその方が王国軍に早くお帰り願えるだろう?」
「まぁ、そうね」
「敵の戦法はいくつも考えられるが、恐らく槍兵と弓兵の組み合わせだろう」
「そうなの?」
「敵にも魔導士はいるだろうが、数が少ない。いきなり前線に出すとは思えん」
「……ねえ、関係無い話なのかもしれないけれど、一つ質問いいかしら?」
「ん? なんだ?」
「いえ、ティグレさんて、ずっとこの地域の村落にいたのよね? それにしては色々と物知りよねと」
「え? ミレーヌ知らないの?」
応えたのはティグレさんじゃなくてプラッツ君だったわ。
「え? 何の事かしら?」
「ティグレって、合流したときからすんげぇ勉強してたじゃん」
「え? え?」
どういう事?
「おいプラッツ」
「別に隠してる訳じゃないだろ? それにあんたのそういう姿勢は……ちょっとは尊敬してる」
「ふん」
「ミレーヌ様。ティグレ様は、私どもがかき集めた書物を片端から読みあさり、それだけではなく、世間を知るためと、定期的にベルの町やその周辺まで足を運び、外の世界の知識を吸収していったのですよ」
プラッツ君だけでなくブルーまでもが擁護する。
ブルーの言う事なら間違い無いと思うけれど……初耳よ?
「別に宣伝して回ることでもねーだろ」
「それはそうだけれど、全然気がつかなかったわ」
「ティグレ様は普段、町の警備でお金を稼ぎ、そのほとんどを自分を磨くことに使っているのですよ」
「そういえばたまに全然見かけない事があったけれど……ただの偶然かと思ってたわ」
「ほら、二足トカゲの良い奴をティグレがもらったじゃんか」
「ええ。騎乗のテストもしなければならないから、ティグレさんにレポートを書いてもらってるんだったわね?」
「ああ。足の速い二足トカゲで、しょっちゅう視察にいってたんだけど……マジでミレーヌ知らなかったのかよ」
「ええ……」
「俺が口止めを頼んでたんだ」
「そうなのか?」
「だから別に言いふらして回る事じゃねーからな」
「くそ……格好いいじゃねーか……」
私、男性のそういうところよくわからないわ。
「まぁ、もともと俺はタイグー村の次期村長になるはずだったからな。読み書きも計算も出来るし、少しは外の情報も知ってたさ。もっとも外の世界に興味が持てなくて無駄な雑学だったんだがな」
てっきり、それこそ蛮族みたいなイメージを持ってたわ……。訂正しないとね。
「ふん。蛮族なのは否定しねぇよ。だがな。ミレーヌが目指すものを知って、それじゃあダメだと反省しただけだ」
「私が目指すもの?」
「お前が好きなのは、いわゆる文化って奴だろ? そしたらこのクソ狭い世界で賄えるもんじゃえねぇよ」
「それは確かに」
私は芸術が好き。
でも多彩な芸術というのは様々の文化が生み出すものよ。たしかのこのミレーヌ町……じゃなくて王国だけに固執していたら、芸術は停滞するわね。
「なら俺も外の世界を知るしかないだろ」
「どうして?」
「……ミレーヌ阿呆だな」
「え!? どういう事!? プラッツ君!?」
「いえ、今回ばっかりはプラッツ君に賛成します。言い方に問題はあると思いますが……」
「レイムさんまで!?」
ほわい!? なぜ!?
「まぁ俺の話はどうでもいい。とにかく続けるぞ」
「え、ええ」
何か釈然としないけれど、今はやることがあるものね。
「とにかく敵の前衛は恐らく槍兵と飛び道具だ。可能性として騎馬隊が出てくるかもしれんが、その時は状況4を実行するだけだ」
「槍兵と飛び道具の組み合わせが状況1ね」
「そうだ。その時は俺たちに任せろ。グオ種族を中心に、戦士団で相手をする」
グオ種族っていうのは虎獣人さんの事よ。
わかりやすくて全員名前の真ん中にグオが入るわ。
「その時の装備なんだが、頼んでいたものは用意出来そうか?」
「簡単よ」
頼まれたのは前衛用の防具。
とにかく飛び道具を無視できるような防御力の高いもの。
悲しいけれど、製造型魔導メイド人形が最も得意とするものよ。
戦争用の武具の作製は十八番なのよ。
「なら、武器は予定通り丸太と棍棒だな」
「……ごめんね」
「かまわん。できるだけ相手を殺さない為の武器ではあるが、別に無傷ですむわけじゃねぇよ。それにな。ミレーヌの使う魔法の矢。あれにヒントを得た」
「というと?」
「敵は殺すより、生かして大怪我させた方が良いってことだ」
「……」
そういえば、ティグレさんに魔法の矢が開発思想を説明したとき、妙に感心してたわね。
怪我をした兵士を見捨てることは士気に直結するわ。
だからよほどの事が無い限り普通は助けるのだけれど、重傷の味方が足手まといなのには変わりがない。本当にこのアイディアを出した人は悪魔的よね……。
「ま、まあいいわ。私、戦争は嫌いだけれど、あなた達が傷つくのはもっと辛いわ。無理はしないでね」
「ふん。俺たちをなめるな。状況4にならんかぎり、お前も出番はねぇよ」
「そう願いたいわね」
「状況3の想定をみてくれ。これが敵に魔導士が出てきた時の対処だ」
「本当にプラッツ君とレイムさんの二人で大丈夫なの?」
「お! 俺だってやるときはやる!」
「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
「たしかに今のレイムさんの魔力障壁なら、並みの
「ミレーヌ。お前と話しててわかったんだが、お前の基準と俺たちの基準はかけ離れすぎてる。安心しろ」
「そうは言うけれど……」
「心配なら王国が進軍してくるまで、二人を徹底的に鍛えてやれ。それで十分だ」
「大丈夫ですよ。いざとなれば私も出ます」
「ロドリゲス神官長……」
たしかにロドリゲス神官長は治癒と防御の魔法の覚えが早いわ。
もともと魔法に慣れている人はやっぱり違うわね。
「わかりました。二人とも、手を抜かないわよ?」
「おう! とうとう俺も攻撃魔術を……!」
「わかっていると思うけれど悪用厳禁よ? それと魔術じゃ無くて魔法よ」
「わ、わかってるって!」
いまいち信用出来ないけれど、現時点で一番伸びしろがあるのも事実ですからね。
「よし! 話はまとまったな! 状況想定は17考えておいた。全員良く資料に目を通しておいてくれ!」
こうして私たちは戦争の準備をする事になったの。
はぁ……。
どうしてこうなるのよ。
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