第二十八話【私、日和ります】
「……レイムー。神官様ー」
誰か怪我でもしたのだろう、レイムさんを呼び出す声がする。
「神官殿、最近咳き込んでのぅ……」
治療から戻って来たレイムさんを、町の老人が捕まえる。
「レイムさん、うちの弟が熱を出して……」
老人から解放されたレイムさんが、彼女を捜し歩いていた女性に捕まった。
「うーん。やっぱり教会とか必要よねぇ」
「そうですね。現状ではレイム様の負担が大きいように思えます」
「彼女の手が空いたら連れてきてくれる?」
「わかりました」
しばらくするとレイムさんが飛んできた。
「ミレーヌ様どうしましたか? 風邪ですか?」
「いえ、そういうわけじゃないの。レイムさんはルーシェ教っていう所の神官なのよね」
「それなのですが、正式な神官というわけでは無いんです」
「というと?」
「一応ですが、地方神官や放浪神官になる資格は持っているのですが、任命されたわけではありませんので……」
「ああそうよね。神官って言ったら求められる魔法も魔術レベルになりそうだし……」
「いえ、それは大丈夫じゃないかと思います」
「え? なんで?」
「都の神官と地方の神官は別物だと思っていただいて良いと思います。基本的には地方に女神ルーシェの教えを広める事が主な役目になりますから」
「ああ、なるほどね。伝道師の意味合いの方が強いのね」
「はい。そうなると思います」
「なら余計に必要よね?」
「はい? 何がでしょう?」
「教会」
「……は?」
どうやら理解の範疇外だったようだ。
◆
「元々教会用の用地は確保してあるのよ」
「ここですか!? 町の一等地じゃないですか!」
「そりゃそうよ。教会ってそう言うものだし」
私の自宅である神殿もどきに比べれば、予定地の面積は小さいのだが、都市計画によって、扇状に広がり始めた町のほぼ中心に確保する面積としては破格の広さだろう。
同じ面積を持つ建物は公民館くらいだ。
「わっ! わたしは今まで通りでも……」
「ダメよ。ただでさえ神官は一人しかいないのに、常に所在不明の状態じゃあ」
「それでは私の自宅を、拠点として……」
「それもダメよ。もしルーシェ教の偉い人に、この町では邪険にされているなんて噂でも立ったら……いい? 宗教だけは敵に回しちゃいけないの」
「そんな……ルーシェ教はそのような……」
「どんな組織も一枚岩と言うことは無いし、良くも悪くも、裏と表があるのが組織という物よ」
「……」
もしかして少しは思い当たるところがあるのか、言葉を続けられないレイムさん。
「もしレイムさんにとって肩の荷が重いようなら、一時的な教会代表者と言うことにしておいて、教会の本部なり総本山なりに頼んで、正規の神官を派遣してもらっても良いわ」
「そうしていただけると助かるのですが……ただ」
「ただ、なに?」
「この何も無い地方に来てくれる神官様がいるかどうか、そもそも私が地方神官の資格に合格したのも条件付きで、この
「なるほどね」
そのルーシェ教としては色んな所に布教したいが、こんな
実際の所はわからないけれどね。
「そうねぇ……やはり教会は必要ね。ルーシェ教の造りにするけれど……レイムさんはわからないわよね」
「はい。さっぱりです」
そりゃ教会に通ったからと言ってその教会を作れるようになったらびっくりだものね。
「やはりルーシェ教に一度コンタクトを取らないとダメね。どうしましょう? 私が行くか、レイムさんが行くか、手紙で大丈夫ならばそれが一番ですけれど」
「それでは一度手紙を出してその返事を待つというのは……あ。でも届けられる人がいませんね……」
「それは使者を出すしか無いわね」
「私が直接行った方が良いのでしょうか?」
「うーん。いえ、手紙は私が書きますから、その口添えの手紙を書いてください。やはり村の住民で、外の町まで行ったことのある人に頼みましょう」
「ブルー。長老会に頼んで人選を」
「わかりました」
「じゃあ私たちは手紙を作りましょう」
「わかりました。お手伝いします」
こうして書いたわ。
教会さん、仲良くしましょ?
それにしてもルーシェ教ねぇ。
私の時代には無かった宗教ね。
どんな宗教かにはさして興味は無かったが、宗教の生み出す芸術には興味がある。
賛美歌、宗教画、宗教建築に、彫刻の類い。
宗教と仲良くして損することは無いのよ。覚えておきましょうね。
私は教会へのプレゼントの選定に入った。
嵩張らずに価値のあるもの……うーん。難しいわね。
……この適当に決めたプレゼントが、後日問題を引き起こす事になる。
それを知っていたら……とほほ。
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