第二十三話【私、買います】


「私が今出せる商品はこのくらいでしょうか?」


 アキンドーさんが広げた布の上に、商品を並べていくわ。

 鉄製のナイフ、包丁、矢尻。

 なるほど、鉄は都周辺でしか作れないと言っていたので、こちらでは高級品なのでしょう。

 毛皮や乾し肉をロバに積んだままなので、これは仕入れた物なのでしょう。


 アキンドーは一瞬悩んだ仕草を見せた後、最後に小さな魔核を並べ始めた。

 全部で三つ。


「……魔核ですね」

「はい。こちらでは価値のないものだったようなので、今までお出ししたことはありませんが」

「なるほど」


 私は一つを手に取って吟味する。

 品質は高めで小ぶり。おそらくゴブリンの魔核でしょう。


「お値段を聞いても?」

「ええもちろん」


 魔核三つの値段は、先ほど毛皮の山で受け取った金額とほぼ同額だった。

 私が生きていた時代からすると……驚くほど安値だわ。

 とにかく魔核の値段は天井知らずに上がっていたからね。


「……わかりました。三つとも購入しましょう」

「ありがとうございます。やはり鉄よりも魔核ですか」

「その様子ではお気づきのようですね」

「ええ。ミレーヌさんは恐らく魔術士なのではありませんか?」

「その通りです。もっとも未熟者ではありますが」

「ご謙遜を。魔核を加工出来る魔法使いなど、都にでも行きませんといませんよ」

「あら、そうなのですか?」

「ええ、魔核を購入するのはもっぱら貴族・・ですよ」

「……」


 貴族……まだそんな身分が残っているのね。

 それにしても貴族が魔核?

 私が暮らしていた時代と大分社会状況は変わっていそうね。


「さて、日も暮れる時間になりますし、出来ればこちらの町で休ませていただきたいのですが、もしかして宿などありますか?」

「いえ、まだ宿はありませんね」

「それならば、いつものように家に泊まっていくと良いですじゃ」

「村長……ではなくプルームさん。ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」

「いつも世話になっとりますじゃ、当然のことですじゃ」


 そう言ってアキンドーさん、それに護衛の二人もプルームさんに付いていった。


「……なぁ、ミレーヌ。さっきの取引あれで良かったのか?」

「それはどういう意味で?」

「あんたに色々教わったけど、世界には相場ってもんがあるんだろ? 毛皮の山と魔核三つが同じ価値なのかなってよ」

「うん。良い疑問よプラッツ君。とても大事なところに気付いたわね」


 プラッツ君を同席させたかいがあったわね。


「正直に言うと、適正な取引かどうかはわからないわね」

「だよな! 今からでも文句言って……」

「その必要は無いわ」

「なんでだ? インチキなんだろ?」

「インチキとは少し違うわね、もし私たちが不利な取引だったとしても悪いのはこっちよ? どうしてかわかる?」

「……わからない。騙すヤツが悪いんじゃ無いのか?」

「いいえ。相場を知らないこちらが悪いの」

「なんだよそれ! 知らないからって騙して良いのかよ!」

「騙しているのとは少し違うわね。それにそうならないために、毎日勉強しているでしょう?」

「あ……」

「それに恐らくだけど、そこまで大きく相場から離れた取引だとは思っていないわ」

「なんでだ?」

「アキンドーさんは今まで何度村に来ていたんでしょ? それがいきなり発達したこの町を見たのよ。仲良くしたいと思わない?」

「……あっそっか。急に物が一杯になったんだもんな。欲しい物も増えるよな」

「そう。それがわかれば今は充分よ」


 プラッツ君は調子に乗らなければ頭の良い子よね、基本的には。


「でもやっぱり納得いかねーなー」

「シノブが帰ってきたら、大ざっぱな相場なんかはわかると思うわ。それまでは我慢ね」

「……わかったよ」


 ちょっとずつ成長してるみたいでお姉さん嬉しいわ。

 その日の夜は、行商人一行をもてなす軽い宴会をする事になった。特に断る理由も無かったから私も参加したわ。


「なななななななんですかこの料理は!?」

「う! うめぇ!? こんなん都のレストランでも食べたことねぇぞ!?」

「凄い……、肉のうま味がスープで踊っているわ」

「お気に召したじゃろか?」

「ええ! ええ! こ、これは何か特別な調味料を使っているのですか!?」

「いえいえ。普通に岩塩と、そこらに生えちょる香草しか使っちょりはしませんじゃ」

「そ、それでこの味とは信じられません……」

「ふぁふぁふぁ! 肉の熟成のさせかた、焼き方、煮方、火加減、その全てが揃った時に初めてこの味になるんですじゃ」

「そ、そんなものですか?」

「興味があるのなら教えても良いのですじゃが……」


 プルームさんがこちらをチラリと見たので頷いておいた。

 少し聞いたくらいじゃ再現できないしね。


「それならば町一番の料理人に話を聞くとええじゃ……ゴードン!!」

「……俺、教える」

「おいおい、戦士じゃ無いのかその肉体は……」

「前は戦士でしたじゃが、今は料理人ですじゃ」

「料理人……」


 三人がゴードンの巨漢を見上げて呆れた顔になったわ。うん。その気持ちとても良くわかるわよ。

 ゴードンが片言で料理法を教えていたが、恐らく大して頭に入っていないだろう。

 ……怪我の功名ね。


「……俺、凹む……」


 大丈夫よゴードン。

 あなた良い仕事したわ!


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