第十五話【私、卒業します】


「おはようございます、ミレーヌ様」

「ん……おはよ……」


 寝惚け眼でベッドから起き上がる。

 徹底的になめされた毛皮のベッドは、以外と寝やすい。

 何種類もの動物から選び抜かれた最上級の毛皮だ。実は元の時代でこれを購入しようとしたら一財産になっていた。戦争で、野生生物も激減していたのだ。

 戦争許すまじ。


 2000年という年月が大地を癒やしてくれたのだろう。


 ふと、思った。


 あれ?

 って事はこの2000年の間に戦争は終わったって事?

 何百年も飽きもせずに続けてた戦争が?


 もしかして時間凍結の選択って誤った?

 ……よし!

 考えないことにしよう!


 朝の思考はこのように適当だ。

 ブルーの差し出してくれた水桶で顔を洗い、微風ブリーズで乾かす。この時代のお水は最高よね。


 ブルーが服を着せてくれる。

 と言っても葉っぱのビキニだけ……え?

 葉っぱじゃない!


 私は途端に目が覚めた!


「鏡! 鏡はある!?」

「銅鏡でよろしければ」

「いいわ! 見せて頂戴!」


 磨き上げられた小さな銅鏡に写る私。うん美しい。

 それは極限まで薄い動物の皮を使ったドレスだった。もちろん毛皮なんて無粋な物は無い。

 羊皮紙よりも薄い皮……ううん。革のドレスだった!


 ちゃらりらーん!

 ミレーヌは、革のドレスを手に入れた!


 素晴らしいわ!

 ベースは気候を考慮して、ビキニとパレオに近い感じだ。

 しかし肩周りにデザイン性を取り入れて、ボリューム感を演出。野性味と気品さを兼ね揃えた、私大満足の一品だった!


「今すぐオレンジを呼んで!」

「かしこまりました」


 ブルーは一度部屋の外に出ると、すぐにオレンジを連れて戻って来た。


「おはよー! ミレーヌ様!」

「はい、おはよう。それよりすごいわ! やったわね! オレンジ!」

「おっ。さっそく着てくれたのか! どう? 着やすい?」

「ええ! とてもいいわ! どうして服だけなかなか完成しないのかと思ったけど、こういう事だったのね!」

「おう! ミレーヌ様にダーク用の無粋な服を着せられる訳無いもんな!」

「偉いわ! オレンジ! ありがとう!」

「へへへ……ミレーヌ様が喜んでくれたら一番だよ」


 照れくさそうに鼻を擦る製造型魔導メイドのオレンジ。

 うんうん。良い仕事ね。


「ミレーヌ様。ちょうど皆が朝の挨拶に来ているのでお披露目なさってはいかがでしょう?」

「そうね。……あ、そうだ。メイドたちの分もお願いね」

「了解だぜ!」


 私は神殿や教会建築独特の、採光に照らされながらゆっくりと、壇上の偉そう椅子に着座する。

 ……こういう椅子の事なんて言うのかしらね? 王座??


「おはようみんな」

「「「……」」」


 あら? なんかみんな無言だわ?

 何かあったのかしら?


「女神さま?」

「どうしたのかしら?」

「葉っぱが取れてますのじゃ」

「好きで葉っぱだった訳じゃ無いのよ!!!」


 なんで朝から漫才しなきゃいけないのよ!


 ◆


 今日から村人強化計画だ。

 食料は問題無い。グリーンとダークが優秀だからだ。

 私は村に行ってその様子をのんびりと眺める事にした。

 ブルーは私から離れない程度に、料理を料理人に仕込んでいる。


 グリーンは酪農家と農家を連れて畑に行ってしまった。

 そうそう! 前の村から生き残ったニワトリが数羽やって来たわ! 手の空いた人が探しに行ってきたらしい。

 ニワトリはこの辺りには生息していない生き物らしく、行商人から手に入れたらしい。

 大事に育てていたので、生き残りがいて良かったとみんなで喜んだ。


 オレンジは現在手一杯の状態だ。

 作らなければならない物が多すぎる。鍛冶希望の村人には悪いが後回しにしてもらった。

 現在オレンジはコテージを減らして、新しくしっかりした木造の家を建て始めている。


 こんな調子で村は再出発したわけだけれど……。


「も、もう覚えたのか?」

「うん。良かったわ。そこまで文字に変化が無くて」


 私は村はずれでプラッツ君からこの時代の文字や記号などを教わっていたのだけれど、お昼前には全て覚えてしまった。


「俺……これを覚えるのに数年……くそっ」

「ああほら、プラッツ君の教え方が上手かったから」

「そ、そうか? そうだよな! そうに違いない!」


 なんでフォローしてるんだろう?

 まぁ教えてもらってるんだから、このくらいの配慮は普通かな?


「じゃあ代わりに魔法の勉強でもしましょうか?」

「え!? 教えてくれるのか!?」

「ええ、とりあえず、プラッツ君が使える魔法と魔術を教えて欲しいわね」

「……?」

「ん? 何か変な事言ったかしら?」

「いや、魔法と魔術って同じものだろ?」


 あら?

 この時代ではそうなのかしら?


「えっと、私流の区別ね。気にしないで使える魔法を教えて?」

「お、おう。俺が使えるのは、着火イグニッションファイア洗浄ウォッシュ造水クリエイトウォーター操水マニピュレイトウォーター微風ブリーズだぜ! 凄いだろう!」

「う、うんそうね」


 想像以上に少なかったわ。

 私の時代だとこのくらいはほぼ誰でも使えるレベルだったから、随分と魔法文明は退化してしまったか、地域格差が酷いのか。

 その辺は慎重に判断しないといけないわね。


「でも基礎は出来てるようだから、軽・治癒マイナー・ヒールを覚えていきましょうか」

「え?」

「ん? また何か変な事言ったかしら?」

「いや、治癒魔法って神官しか使えないんだろ?」


 あんですとー!?


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