第八話【私、引っ越します】


 あれからさらにひと月ほどが過ぎた。


「とうとう完成したわね」

「おう! 凄いだろ!」


 自慢げに胸を張るのは、製造型メイド人形のオレンジだ。

 うんうん。自慢するだけのことはあるわね。


 その日私は報告だけ受けていた新居に移動したのだ。

 今までの拠点からは見えない位置だったので、今日までその全容を全く知らなかった。

 途中見学に行こうとも思ったが、折角なので完成までいかない事にしていた。


「ええ。本当に凄いわね。家……というかほとんど神殿ね」

「ああ、石組みの基礎は神殿を参考にしてるからな。地震でも崩れにくいんだ」

「そうなのね」


 目の前にそびえるのは、ちょっとした神殿だった。

 報告では聞いていたが、近くに丁度良い巨大岩があって、それを切り出して作製したそうだ。

 一人で作れるレベルでは無いと思うが、当然他のメイドたちも、手すきの時間に手伝った結果だ。

 オレンジの作り出す様々な便利器具、例えば滑車や一輪車。青銅製品も大活躍だ。

 青銅を作れるようになったので、生活用品や武具に関しても大幅に改善された。


 まあ細かい話はどうでもいいわ。今は新しい我が家を探索しましょう!


 まずは正面の大きな門。

 左右に縦のラインが美しい中太りの太い柱。全体的に白が基調だが、これは石の色だという。

 良いわね。美しいわ。


 金属で補強された大きな木製の扉を開く。こんなに大きくする必要があるのかしらと疑問におもったけれど、観音開きの扉を開け放って、その理由を理解した。

 正面は広いホールになっていて、ミサでも開けそうな荘厳な雰囲気が漂っている。

 理由は、天井に細かく細工された採光窓が、部屋の中で反射して神秘的な雰囲気を作り出しているからだ。

 神秘的な雰囲気の理由はそれだけでは無い。


 正面奥に飾られた巨大な……。


「私ね」


 そう。私の姿をした石像だった。薄い衣を羽織った神秘的な像だった。

 でもちょっと胸の辺りのボリュームが足り無くないかしら?


「へへへ良い出来だろ?」


 誇らしげに語られると、文句も言えなくなってしまう。その一点を除けば大変に良く出来ているからだ。彼女の愛情を感じる。


「うん。素晴らしいわ。でもね、一つ聞いて言い?」

「おう、何でも聞いてくれよ!」

「石像の前にある妙に偉そうな席は何?」

「もちろんミレーヌ様専用の王座だぜ!」

「……」


 私、王様になった覚えはないんだけどな。

 ただ、やたらに嬉しそうに宣言するオレンジに、これはいらないとは言いづらかった。


「あ、ありがとうね」

「おう! 良いって事よ! 早速座ってみてくれ!」


 私は石造りの巨大な椅子の前に立つ。

 その場所自体がフロアより高くなっているので、本当に偉そうだ。

 よく見ると椅子の盤面には植物を編んだマットが置かれている辺り、私のお尻のこともよく考えている。

 石に直接座ったら腰を冷やしちゃうものね。


 私が王座に腰を下ろすと、きっと打ち合わせでもしていたのだろう、4人がずらりと片膝を付いた。


「わたくしブルーは未来永劫ミレーヌ様に忠誠を尽くすと改めて誓います」

「私もぉ、ミレーヌ様のために、頑張って美味しいものを育てるですー」

「俺もミレーヌ様の為に、あらゆる便利な道具を作り続けるって約束するぜ!」

「……ミレーヌ様万歳」


 う……。

 急にわざとらしいと思ったけど……、なんかちょっと感動で泣きそうになっちゃったわ。

 貴女達ちょっと卑怯よ。


「えっと。うん。これからもよろしくね」

「「「「はい!」」」」


 私は王座でちょっと涙ぐんでしまった。

 葉っぱのビキニで……。


 毛皮の完成はもうすぐらしいので、我慢しましょう。


 その後、私の部屋を案内してもらう。

 まだまだ造りは甘いが、ベッドにテーブルが置かれた広めの空間だ。きっと近いうちに物で埋まっていくだろう。

 彼女たちの部屋は大部屋で二段ベッドが並んでいた。

 いつ仲間が増えても良いようになっているらしい。


 他にも食堂や調理場。食料庫などが作られていた。

 いくら魔法が使えるとは言っても、想像以上の出来に私は素直に感心した。


「建築も芸術よね。なんていうか、原始的な中に芽生えた芸術の走りって感じでとても良いわ」


 私は久々に触れた芸術の空気に喜んでいた。


「それではー、私は畑を見てきますー」

「そう、魔石はいる?」

「もう、大丈夫ですー。ミレーヌ様のおかげですー」

「ならいいわ。正直もう魔核も魔石もほとんど無いしね」

「頑張りますー」


 グリーンはほわほわと、農機具を抱えて畑に仕事へ出た。


 魔石。

 それは魔力を秘めた力ある石の事よ。

 魔核との最大の違いは、魔石は直接魔力として使用出来ることなの。


 グリーンは土壌改良魔法というちょっと特殊な魔法がつかえるんだけど、メイド人形の魔力ではあまり広い範囲に魔法をかけられない。

 そこで私が魔核を魔術で魔石に変換したのだ。

 高品質な魔核から作製された魔石は、戦争中なら涎が出るほどの魔力を持った高品質の魔石になった。

 それを大量に消費して、グリーンは畑を作り出したのだ。


 ブルーからは少々使い方に対して反論も出たが、却下した。

 だって……。

 美味し物が食べたかったんだもん。


 おかげで最近は大量のお芋が収穫された。もちろん品種改良魔法のおかげで味もばっちりだ。

 さすが農業型!

 素晴らしいわ!

 野生の芋をあっと言う間に改良してそれを量産するには……大量の魔石を必要とした。

 おかげでほとんどの魔核を消費してしまった。


 ま、美味しい物が食べられるんだから良いわよね!


 その日の夜は、引越祝いを兼ねたご馳走だった。

 わーい★


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