UMAとUFO

人鳥暖炉

UMAとUFO

「で、お前は自分が何の動物か分からないというのですね」

「ああ」

 俺は首肯しゅこうする。俺には、自分がフレンズ化する前の記憶が無いのだ。

「ここに来たら、教えてもらえるんだろ?」

 そのためにわざわざ図書館まで足を運んだのである。

「当然なのです。我々は賢いので」


 しかし自信満々でうなずいたわりに、博士達はなかなか答えをよこしてはくれなかった。

 そして、『何だコノヤロー、賢いんじゃなかったのか』と怒鳴りつけてやりたくなるのを堪えながらまる一日待った俺に与えられた答えは、なんとも微妙なものだった。

「お前は多分、ツチノコなのです」

「多分?」

「爬虫類っぽいとは思うのですが、特徴が合致する動物がどの本にも載っていないのです。つまり恐らく未確認の爬虫類なのです」

「そこからツチノコと判断したのです」


「ツチノコ、ねぇ……」

 いまいちしっくりこなかったが、このまま正体不明でい続けるよりは、仮でも名前があった方が良いような気がした。

 だから、この日から俺は、初対面の相手にはこう名乗ることにしたのだ。

「見てわかんねーのか、ツチノコだよ!」


 それから、月日が流れた。


 大型セルリアン騒動の終結後、俺は一人で火山に向かった。せっかく住み慣れた遺跡を出てきたのだから、帰る前に見ておきたいものがあったのだ。

「これは飛行機といってだな、重そうに見えるが空を……って誰も聞いてないか」

 かばん救出の際に協力して以来、他のフレンズといっしょにいることが多くなったためか、すっかり解説をする癖がついてしまっていた。


 地に堕ち、土埃にまみれてしまった飛行機の表面を撫でる。

 どういうわけか、俺は文明の気配が感じられる物に心をひかれるのだ。懐かしさの様なものを感じるとでも言えば良いのか。

 ツチノコと文明なんて、関係しているとも思えないのだが。


「にしてもこの飛行機、他のと随分ずいぶん形が違うな……ん?」

 俺は、さっき手で撫でた跡、土埃が取れた機体の表面に、何か文字が書かれていることに気がついた。図書館にあるどの本でも使われていない文字。

 だが、俺にはその文字が読める。

 それを認識した途端とたん、様々な情景が脳裏のうりを駆け巡った。


 そうか、思い出した。俺は――


「認証解除、****」

 機体表面の生体認証デバイスにてのひらをぴったりとつけ、俺は自分の真の名を口にする。

 もう壊れているかもしれないと思ったが、機体はかすかな光を放ち始め、やがて返答があった。

ようやく連絡をくれましたか、****。予定より大幅に遅かったので心配していました」

「……色々あってな」

「その姿、あなた自身がフレンズ化してしまったのですか。確かに色々あったようですが、それはまあ良いでしょう。重要なのは、愚か者どものフレンズ計画とやらを白紙に戻すことです」


 そう、俺はフレンズ達を元の動物に戻すために、この星にやってきたのだ。


 ヒトという種によって絶滅させられつつある地球生物の扱いについて、俺の星では二つのグループの間で意見が対立していた。

 一方は、武力に頼らないかたちで干渉し、これ以上の生物資源の減少を抑制するべきだと主張した。

 もう一方は、ヒトによって多くの種が絶滅するとしてもそれは地球における自然の摂理であり、異星人である我々が干渉すべきではないと主張した。


 議論は平行線を辿り、前者は後者の承諾しょうだくを得ることなくフレンズ計画を実行に移した。これは、動物あるいは動物だった物から情報を取り込んだナノマシンの群れスウォームにヒトの形をとらせるというものだ。元々はヒト以外の動物であった者達がヒトの姿をとり、ヒトと会話をする友達フレンズとなることで、ヒトに他種を攻撃させづらくするというのがその狙いである。

 この計画のために送り込まれたナノマシンが、つまりこちらでサンドスターと呼ばれている物だ。

 また、ヒトは同種の中でも特に年若い雌に対し庇護欲ひごよくをそそられるという情報に基づき、フレンズ化後の姿はそのようになるよう設定されたらしい。


 もう一方のグループ、つまり俺達の側はこの計画に怒り、フレンズ化された動物を元に戻すためのナノマシン――こちらで言うところのサンドスターρロー――を送り込んだ。

 当初の予定では、ナノマシンの群れスウォームにより構成されるセルリアンの自律的な行動だけで全フレンズを元に戻せると踏んでいたが、思わぬ抵抗に遭う。

 そこで、メンバーの一人である俺が現地でセルリアン達の指揮をとり、効率的にフレンズ化解除作戦を実行することにしたのだ。

 だが、乗ってきた宇宙船は運悪くヒトとセルリアンの戦いに巻き込まれて墜落、俺は記憶を失い、更にサンドスターを浴びてフレンズ化までしてしまったというわけである。



「では、すぐに作戦を実行してください、****。この星の動物達を本来あるべき姿に戻すのです」

 そう、それが正しい。

 元に戻れば、今頃きっと遊園地でドッタンバッタン大騒ぎしているであろうあいつらは、もうお互いに喋ることも高らかに笑い合うことも無い。

 しかし、そうあることが正しいのだ。


 正しい、が……。

 たーのしー、とは言えないな。


「悪いけど、その命令は聞けねーな。だって、俺はもう****じゃねーから」

「は? では何だと言うのです?」

 俺は、宣言する。逃げも隠れもせず、これまでより自信を持って。



「見てわかんねーのか、ツチノコだよ」



「……言っていることが理解不能ですが、反逆の意志ありと判断しました。あなたにはこちらに帰還してもらいます」

 半分埋もれていた宇宙船が土を落としながらその全貌ぜんぼうを現し、俺を捕らえようとアームを延ばす。俺はそれを、上へと跳んで回避した。だが、下ではもう別のアームが待ち構えている。このまま落ちれば、確実に捕まる。

 だが、そうはならなかった。

 俺が空中を、からだ。


「何っ?!」

「言っただろ、もう****じゃねーって」


 鳥のフレンズが航空力学的に飛べないヒトの形状になっても何故飛べるのか。

 それは、フレンズを構成する個々のナノマシンに飛行能力があるからだ。

 では何故他のフレンズは飛べないのかと言えば、自分が飛べるものだとは思っていないからだ。

 服が脱げるものだと認識した時に脱げるようになるのと同じく、飛べると認識することによって飛べるようになるのだ。元々がナノマシンの群れスウォームなのだから、認識次第では腕だけ飛ばしたり体を変形させたりもできるはずだ。

 もっとも、口で言うだけなら簡単だが、これまで一度も飛んだ経験の無い者が空を飛ぶ自分をイメージすることは難しい。


 だが、俺は違う。

 この星に辿たどり着くまで、さんざん無重力状態を経験したのだ。宙に浮く自分なんて、いくらでもイメージできる。


 ぐんぐん上昇し、もう十分かなと思ったところでぴたりと空中に静止する。位置は、宇宙船のコアの真上だ。そこからそのまま、勢いをつけて落下する。慌てて宇宙船がこちらにアームを延ばすが、所詮しょせんは遠隔操作だ。判断に遅れがある。


 これ壊したら、もうあっちには戻れないかもな。

 衝突の直前、そんな考えが頭をよぎる。

 ま、そうだとしても――

「お前はいらん」

 下駄の歯がコアを粉砕し、宇宙船は完全に沈黙した。



「あー、ツチノコこんな所にいた。もうみんな集まってるよ。早く早くー」

 サーバルが山道を駆け上がりながら、俺に手を振るのが見えた。

 俺は肩をすくめて壊れた宇宙船を一瞥いちべつすると、友達フレンズのもとへと向かう。

「何でこんな所に?」

 何でかって?

 そんなの、決まってる。

「落ち着くんだよ、ジャパリパークここが」






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