第15話 ヒロインが二人以上の場合は危険信号 15



「いやまあ……頑張りましたよね?」

「無理に褒めなくていいぞ」


余計に虚しさが増すだけだ。そう思いながら、競技を終えた俺と有菜は遠くの壇上で表彰されてる二組のペアを見つめていた。

  結果としてはゴール直前で足をつまづき、その場で転倒。後続に抜かれ、最下位から二番目となんの面白みもない結果になってしまったのだ。


「悪かったな」

「へ? 何がです?」

「お題の時だよ。あれで動揺しなきゃもっと早くゴール出来たかもしれないし」

「そんなの可能性の話じゃないですか。ま、蒼君にしては頑張ってくれた方だと思うのでいいですよ。あ、という事でご褒美はなしで」

「別にいいよ」


むしろこちらが謝罪の意味で何か奢らなきゃいけないくらいだ。なんて事を一ミリでも考えると女って生き物はすぐに本性を現す。


「というわけで蒼君にはきちんと説明してもらうからね」

「はい? 何を?」

「お姉ちゃんとの事。負けたら、教えてくれる約束じゃん」

「……クーリングオフはまだ」

「あいにく口頭契約でも契約は契約ですからねー! あ、無視してもいいけど果たしてそうなった場合、蒼君の居場所がこの学校にあるでしょうかねぇ」


意地悪そうな笑みを浮かべた有菜に腹を立てる余力もない。というより忘れてた俺にも責任はあるので一概に責めづらい。

しかし遅かれ早かれ、人づてに聞くだろう。ならば、俺の口から聞いたところで同じか。


「わかったよ。暇な日に連絡よこせ」

「りょーかい。さーてそれじゃあ私達に代わって、めでたく告白出来るあの人達がどんな事をぶちまけるのかをこの耳でしかと聞いてあげますか」


 と、話を区切って、改めて告白タイムに入る選ばれた入賞者達に視線を移す。

 今更ながらだがこの企画で告白する事なんて大体が恋沙汰絡みだ。それ以外の事なんて余程の事でない限り、言う意味がない。


「バトミントン部所属の今井さん! ずっと前から好きでした! 俺と付き合って下さい!」


 そう、この台詞もこのギャラリーの前だと言わざるを得ない空気になっているので自然と口に出来る。そして言われた相手も本当に嫌いな相手じゃなければ、断るのは中々勇気がいる。言葉はなく、首を縦に振るだけでいい。それで観客は盛り上がる。


「真宮先輩! この間の告白の返事を今日こそ聞かせてください!」


 こんな風なやつもあったりね。皆、考える事は同じといった所。


「あ、あの人振られましたね。ざーんねん」

「全然思ってないだろ」

「声に出すのと出さないとじゃ違うんですよ」

「心で感じてない時点で変わらない気するんだけど……」

「蒼君わかってないなぁ。こういう所で女の子を晒そうとしてる時点でもう負けなんですよ。一人じゃ勝てないからって数の力を借りようなんて浅はか過ぎますよ、そりゃあ」


 得意げにそう語る有菜だったが同意せざるを得ない。言ってる事に間違いはないのだから。

 そう思っていた時、次の入賞者の出番だ。俺はその子には少々見覚えがあるし、実は名前も知っている。確か島張一華しまばりいちかさん。前にちょこっとだけ五日市との会話中に名が上がり、先程その姿を確認した。そういえば俺達の前にマイ・ギャンブルで勝っていたんだっけ。


「え、えーと本当なら私は今日ここで先輩に告白しようと思ってました。というよりついさっきまでは」


 えへへと苦笑いしながら話す彼女を全校生徒が固唾をのんで、見守っている。

 何を語るのか。そんな他人の私事に興味を持つのは下衆い事だがそれが人間だ。


「でも辞めました。というより実は入賞した後にその先輩が彼女さんらしき人と仲良さそうに話してるのを見かけたので。という訳でせっかく入賞しましたが私からの告白はすいません、なしです」


 と、言葉を締めると颯爽と退場口へと走り、姿を消した。会場からは反応しづらいのか、少々ざわめいているだけ。まあ本人がああいうのであれば、仕方はないだろう。


「参加した他の選手からしたらちょっと文句言いたいやつですね」

「勝ったのは彼女だ。不正してないなら文句なしって事でいいだろ」

「そういいますけど、皆さん不満顔ですよ」


 と、参加者の待機列に目をやるとその通りでみんな表情からやりきれない様子が滲み出ている。自分が言いたかったのだから、いくら事情があっても、中々整理出来ないものか。

 さて。いよいよ問題のあの人だ。


「何を言うんでしょうね。生徒会長は」

「少なくとも嫌な予感しかしないのは確かなんだよなぁ」

「どうしてですか?」

「色々と事情があるのとさっきのお題だ」


 絶対に避けられない状況で伝えてくるとは間違いなく問題発言が待っていると俺は確信していた。

 それほどまでに先程の二つ目のお題―――生徒会長、雪村真一からの伝言。


『これから私がやる告白を必ず見る事。去年のあのような事を二度と繰り返さない為に』


 再び目を入賞者の方へ戻すと、設置されたマイクスタンドの前に生徒会長はやってきた。ただそれだけではない。彼の横にはもう一人、入賞者が立っていた。二人同時でやるという事か。


「あれ? あの人って確か生徒会長の彼女の」

「海風サナ」

「そうそう。でも二人同時なんていいんですか?」

「いいんじゃねえの」


 五日市が心配していた通り、学校行事に関して、生徒会はほぼ関与している。更に言えば、今回の実行委員長とも交流が深そうだ。ルールなんて都合いいように変えれるだろう。


「生徒会長の雪村真一です。まず告白する前に今回は私一人ではなく、同じ入賞者である海風サナさんと一緒に行うものとします」


 先程よりも騒がしくなり、教師側もどうやら怪しいと思ったのか、実行委員長の紀和場に確認しに行ってる。

 しかしもうあの場所にいる時点で彼のシナリオ通りだろう。


「今回、私達が告白するのは去年の文化祭であったある事件についての真相を打ち明けたいと思っています」


 後に俺はこう考えた。

 きっとこれがまでに続く事件の始まりだと。


 

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