438 顔の特徴、飛竜大会の会場、懐かしい二頭
おじさんによると、東の方のシャイターン人の顔は全体的に小作りなのだそうだ。特に鼻が低くて愛嬌のある顔らしい。
そもそもシャイターン人は凹凸の少ない顔付きだ。更に凹凸が少ないのがアドリアナ国になる。寒さが厳しいため出っ張りの少ない人種が多く残ったのだろう。
シャイターンの西側は鼻が横に広いらしい。王都のある中央は間を取って「普通」。
またおでこが平たく広めなのもシャイターン人の特徴だとか。それは知らなかったため、シウは心の中でメモを取った。
言われてみると、他の国の人はおでこが丸い。フェデラル人はおでこの狭い人もいた気がする。といって一概に決めつけられない。なにしろ国境を越えて旅をする人は案外多いのだ。気に入った土地に根を下ろす冒険者だって多い。王族からして他国へ嫁ぐのだ。徐々に多種多様な人が出来上がっていくのは当然だ。
とにかく面白い地元の人の話が聞けて良かった。シウはお礼を言って屋台を離れた。
皆と合流すると、すでに共用のテーブル席に座って食べ始めている。ククールスもアントレーネもお酒を片手に美味しそうだ。ロトスはチビチビと飲んでいる。
彼等はフェレスとブランカにも飲み物を買ってきてくれたようだ。ジュースらしきものをスウェイと一緒に飲んでいた。
「シウは何を買ったんだ?」
「コメドン」
「……は?」
「コメドンだって。はい、ロトスにも」
ジルヴァーに食べさせていたため、ロトスには新しい袋で渡した。中を覗いたロトスは(婆ちゃんの好きだったお菓子だ)と念話で語った。
シウも念話で返す。
(ポン菓子って言ったよね? ここではコメドンって言うんだって)
(へぇ……)
ロトスは懐かしそうな顔で、一口食べた。
(あの味だ。でもちょっと味が薄いかな)
(砂糖が少ないんだろうね)
(あ、そうか)
「でもま、ありがと」
「うん」
ロトスは祖母を思い出したのか、味が薄いと言いながらも食べ続けた。
その後、リンゴ飴は見付けられなかったが貝焼きを買ったり、射的モドキをしたりで夜の街を堪能したシウたちである。
翌日は朝から会場入りし、無事に登録完了となった。
日時の調整はまだ可能というから相談した上でアントレーネが決めた。
第一予選が風の日の午後、勝てば第二予選レースを光の日の午後にする。連戦になるが、アントレーネもブランカも平気らしい。当然、勝つ気でいる。
シウは口出しせず、アントレーネたちのやりたいように任せた。
シウとフェレスにはシード権があるし、準備運動で予選に出るつもりはない。登録だけ済ませて本戦から出ると申告してある。
それらが終わると、デジレの案内でオスカリウス家が押さえている観覧席へと向かった。
「相変わらず特等席をドドーンと取ってるな~」
ククールスが苦笑いでボックス席を見渡す。広いボックス席を、オスカリウス家だけで七つも押さえているそうだ。並々ならぬ気合いが入っている。
どうやらアマリアのためにと確保していたようだ。ところが、嬉しい誤算で彼女が妊娠した。大事を取って屋敷に置いてきたが、だからといってキャンセルするのは貴族らしからぬ行為なのだそうだ。
シウにはよく分からないが、おかげでカスパルたちも席を取らずに遊びに来られるというわけだった。他にも多くの知り合いがボックス席を使うそうだが、分けられている。シウたちとカスパルらはまとめて一つ、専用席として使っていい。
「シウ様、さっきサビーネさんから通信があったんだけど、到着は火の日の朝になるってさ」
「分かった。朝なら迎えに行けるかな」
「それなんだけどね。若様が『火の日から皆の本戦が始まるのだから迎えは結構』だってさ」
何故か口調を真似してアントレーネが言う。その言い方が面白くて、シウはつい笑ってしまった。笑いながら、肩を竦める。
「本戦は午後なんだけどなー」
「あたしもそう言ったんだけどね。サビーネさんが『お母様の勇姿を子供たちに見せたくないのですかー!』だって。いやー、そう言われちゃうとあたしも頑張らないと!」
尻尾がぼふんぼふんとソファに当たって、興奮しているのが分かる。サビーネはアントレーネの扱い方を心得ているようだ。
それにしても。
「レーネ、その言い方似てるね」
シウが笑うと、アントレーネはきょとんとなった。どうやら本人に真似しているという自覚はなかったようだ。
後ろでロトスが口を押さえて笑っている。それからジェスチャーでシウに「黙っておけ」と示す。シウは下手くそながら誤魔化すことにした。
「あー。じゃあ、迎えは止めて、本戦頑張ろうか」
「そうだね! ブランカ、一緒に勝ち抜いて、子供たちに格好良いところ見せようじゃないか!」
「ぎゃぅっ!!」
ブランカまで尻尾を振り回すので、ソファが可哀想なことになっていた。
そのままシウたちは飛竜の予選を見たあと、昼を会場内の貴族向けテラス席で簡単に摂ってから小型希少獣がいる別棟へ向かった。
恒例になっている、小さな子たちの可愛いレースを堪能し、目当てのコーナーがどこにあるのかと探してみれば――。
「あったー!!」
ロトスが真っ先に走り出す。ククールスが慌てて手を伸ばすが、すぐに引っ込めた。
「そっか、もう手を繋がなくても良かったんだっけ」
「分かるよ。あたしもついつい小さい頃のままで接してたけど、考えりゃ、あの子はもう大人だ」
「そうだよなぁ。いつの間にか大きくなっちまって。魔法も、今じゃ俺より使える」
「この間はあたしを飛び越えて魔獣を倒してたよ」
「あれな! すっげぇ速くてびっくりしたぜ」
二人がロトスの背中を頼もしそうに眺めている。シウがいなかった依頼の時の話だろう。ロトスが随分と活躍したらしい。彼の報告だと「俺が格好良く片付けた」で終わってしまって、どう戦ったのか分からなかった。けれど、今の話を聞くと、本当に
シウは笑いながら彼等の後を追った。目指す先にはポンゴとウルススがいる。
去年と同じだ。
「ロトス、早速並んでるんだ」
「シウ、お前も並べって。早く早く!」
彼の後ろに数人挟んでククールスとアントレーネが、更に数人が並んでいる。シウは最後尾に並んだ。ここではポンゴとウルススに一回五分で抱っこしてもらえる。
怖がって遠巻きにしている子も多いけれど、勇気のある子供と、それから欲望に忠実な大人たちが抱っこしてもらおうと待っているのだ。
フェレスとブランカもシウと一緒に並ぶので、抱っこしてもらうつもりらしい。この大きさになると人間では抱っこができないので楽しみなのだろう。
やがて順番が回ってくると、覚えていてくれた商人の男性がシウの傍にやって来た。
「去年もお目に掛かりましたね?」
「はい。今年も抱っこしてもらいに来ました」
「嬉しいことです。ところで、そちらの子はもしや?」
シウが腕に抱いているジルヴァーに視線を向けた。彼もきっと分かっているのだろう。ワクワクとした表情だ。
「はい、アトルムマグヌスです。縁あって僕のところに。名前はジルヴァーです」
「やはり! いやぁ、なんとも可愛らしい」
「そうでしょう? 良かったね、ジル。可愛いって」
「ぷぎゅ!」
「おお、おお。本当に可愛いものです。うちの子たちも本当に可愛かったんですよ。おっと、今ももちろん可愛いですがね」
おどけて話すと、彼は二頭のところへ戻っていった。他にも数人の世話係がいるけれど、目を離したくないようだ。
近付くと、その理由に気付いた。もちろん、二頭が可愛いというのもあっただろう。
「お気づきになりましたか? ええ、急激に老けましてねぇ」
商人も初老といっていい年齢だ。いくら大型種が長生きするとはいえ、二頭と同じように育ったと彼は語っていた。つまり、二頭とも十分に年を取っている。
「希少獣にも白髪が生えるんですねぇ。この歳になっても新しい発見がございますよ」
そう言って見上げる男の瞳は、慈愛に満ちていた。
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