434 大会開催地のファルケに到着
ファルケ街に到着したのは土の日の朝だった。
街の外にある専用の飛竜発着場へ降り立つと全員がよれよれで、迎えに来ていた前乗りの担当者たちが苦笑で待っている。
「うちはいつもこんな感じだなぁ」
と呆れ半分で言い放つと、一部が竜騎士の手伝いに向かった。飛竜を休ませるなど、やることがまだあるからだ。
残りは馬車に案内してくれた。服装などから文官だと分かる。今回もオスカリウス家は交代で来ているらしい。その代わり仕事もこなしている。オスカリウスの領地からだと、自国の王都よりもシャイターンの王都シャワネが近い。そのため領地からも飛竜を飛ばしてピストン輸送している。
「相変わらずですね」
シウが笑えば、
「うちは上が上ですから」
と、前乗りで宿の手配をしてくれた文官が言う。シウとの雑談が済むと、今度はデジレと打ち合わせを始めた。
必要な情報をまとめて説明している。優秀な人らしく、デジレも信頼しているようだった。渡された資料を確認しながら気になる箇所について話し合っている。
「どうでしょう。騎士団側とも調整を兼ねて作ったのですが」
「今回は宿が分散になってしまいましたから大変ですよね。うーん、ですがやはり、護衛騎士の巡回場所をもう少し増やしましょう。配置と交代時間については適宜対応、これには僕も賛成です。ただし、秘書全員を連絡網の優先側に入れてください」
「そうですね。デジレ様はシウ様付きですしね。今回は上の方々の別行動が多いので、連絡系統を少し変更しましょう。サラ様にはこちらから伝えておきます」
「お願いします。今回、会計担当はどなたですか」
「リベラータです」
文官が恥ずかしそうにして頭を掻いた。シウは彼等の会話を聞かないように遠慮していたのだが、つい見てしまった。するとデジレがシウに笑いながら教えてくれた。
「彼、ブラジェイというのですが、奥様がリベラータという優秀な会計担当官なんですよ。夫婦で参加されるのは珍しいんです。お子さんのことがあるため大抵交代になっちゃうんですよね」
その説明に、ブラジェイが更に追加した。
「両親が子供たちを見てくれるというので久々に夫婦二人で楽しもうと思いまして。いや、お恥ずかしい」
何故それが恥ずかしいのだろうとシウが内心で首を傾げていたら、気付いたらしいブラジェイがニヤリと笑った。
「なにしろ今は、オスカリウス家総出で蜜月強化と申しますか推奨しておりまして……」
その話は聞いている。結婚ラッシュだとも聞いていた。でもブラジェイたちは今の話を聞く限り、すでに結婚しているはずだ。
シウがなんとなくで頷いていると、横からロトスが小声で口を挟んだ。
「あのな、夫婦水入らずでイチャイチャしようと思って子供を置いてきた、って話をしてるんだよ」
「あー」
「って、分かってんのかよ」
「うん、たぶん」
(ベビーラッシュに乗っかろうとしてるんだろ、この人)
「えっ」
思わず声を上げると、念話が聞こえなかったデジレとブラジェイが同時にシウを見た。
シウは横に座るロトスをジロッと睨んでから、笑って誤魔化す羽目になった。
「いえ、あの、良かったですね」
けれどどうやら二人は気付いたらしい。顔を見合わせて「若いですねぇ」「からかっちゃダメですよ」とこそこそ話し合っていた。
シウたちに用意された宿は、キリクが泊まる宿の隣にあった。隣といっても宿の広い庭やら整備された道路によって距離はあるが。
「ここに入っていいの? 本当だったら騎士で埋めた方がいいんじゃないのかなあ」
「キリク様の指定だから問題ないよ。本当は同じ宿にしようって仰っていたぐらいでね。でも今回は、シャイターンの貴族との会食が多く入っていて、父やイェルド補佐官が止めたんだ」
シウが目を付けられても大変だ。何より、キリク一人の我が儘で融通を利かせようとするのは良くないと、止めてくれたらしい。
結局、キリクの宿には騎士を詰め込んだそうだ。もちろん、シウが泊まる宿にも騎士が泊まっている。更に周辺の宿も軒並み押さえているとか。
「それに、ここには騎獣を入れてもいい一等室が使えるからね。キリク様がお泊まりになる宿では残念ながら、シウに用意できるのが二等室になるんだ。そちらでは一緒に泊まれないから」
と、シウの周囲でわいわい騒いでいるフェレスたちを見る。デジレの視線は柔らかい。シウやフェレスたちのことを考えての配置のようだ。
「ありがとう、デジレ」
「ううん。うちは騎獣に専用の獣舎があって、パートナーといえども別々に暮らしているから、どの宿でも問題はないんだ。でも、中には一緒に過ごすパートナーもいるから、なるべく配慮するようにしているんだよ。だから気にしないで」
聞けば、ルコのところは一緒に暮らしているらしい。彼等ももうすぐ到着する予定だという。彼等が泊まる宿はキリクたちの宿から離れてしまうが、一緒の部屋に泊まれる方がいいだろうと手配したそうだ。
ちなみにルコの相棒はカナルという男性で、まだ独り身らしい。デジレが何故かそんなことまで笑って聞かせる。
「婚活が上手く行かなかったのかー。確か、こじらせてた人だよな? なぁ、シウ」
「ロトス?」
「へーい」
ロトスは急いでブランカたちを連れ、宿に入ってしまった。アントレーネも一緒だ。残されたククールスがスウェイとふたりでぽつんと立っている。
シウは笑って、彼等を促し宿に入った。
一等室にもなると、中に部屋が幾つもある。そのうちの一番大きな部屋が騎獣を入れてもいい部屋だ。この一等室が一階にあるのは、騎獣を窓側から入れるようにしたためだ。大型の騎獣の場合は宿の玄関や廊下を通せない。圧迫感があって他のお客さんがびっくりするからだ。
「ちょっと殺風景だけど、広くていいね」
「おー。床も頑丈に作られてるみたいだ。飛び跳ねても問題なさそう」
先に部屋へ入っていたロトスが教えてくれる。コンコンと壁を叩いているが、確かにしっかりしていた。
シウは自前の絨毯やソファを取り出して部屋を居心地良く作った。
「玩具は各自持っているよね? 取り出して遊んでもいいけど、ちゃんと自分で管理すること。あとで無くしたって言っても知らないからね?」
「にゃっ」
「ぎゃぅぎゃぅ!」
「きゅぃ」
それぞれに鳴いて答えるけれど、フェレスとブランカの調子の良い返事でがっくりとくる。今もそうだが、夢中になるとすぐに忘れるからだ。ふたりは早速、新しい場所に興奮して見回りを始めてしまった。
クロは監督係のつもりか、ふたりの後を追っていった。チラリとシウを見たのは「任せて」という意味だろう。
「ジルは真似しないようにね」
「大丈夫だろ。ジルは賢いもんな~?」
ロトスがジルの頬をさわさわ撫でると「ぷぎゅぷぎゅっ」と喜んで鳴いた。
シウの後ろにいたククールスとスウェイは呆れた様子だ。
「まあ、相変わらずスゲー宿だぜ。大将のところより格が落ちるって言ってたけど、どこがだよ」
「謙遜したのかな?」
「さあて。昼に挨拶行くんだろ。そん時、確かめてこいよ」
そう言うと、居間に戻った。スウェイも一緒に付いていく。
デジレに説明されていたが、調度品を壊すなどしなければ人間用の部屋にも入っていいそうだ。ここにいる希少獣たちは全員が人間の部屋での行動に慣れているため問題ない。
スウェイもシウたちの屋敷内で過ごすうちに、最小で動くことを覚えた。当初は度々尻尾が部屋の壁や戸を打っていたけれど、現在ではブランカよりもおとなしくしている。
ブランカは遊びに夢中になると未だに家具に当たってしまって、その上に飾っていた小物を落としてしまう。彼女が出入りする部屋には割れ物は置かないか、割れないよう保護していた。
ちなみに小物はあえて置いている。そうすることでブランカの教育をしているわけだが、割れない小物ばかりのせいか効果はあまりない。
豪快なのが彼女のいいところだが、そろそろ繊細さも身に着けてほしいところだ。
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