414 後始末
シウは苦笑して、それから「そうだねー」と適当な返事でフェレスを撫でた。それでも彼は嬉しいらしい。尻尾をぶんぶん振っている。
満足そうなフェレスを撫でながら、シウは三頭に視線を向けた。
「この子たち、フェレスもジルヴァーも恐くないからね? 気にしないでいいよ。それよりも――」
三頭の処遇だ。
男たちは一旦ギルド預かりになって、そこから国に突き出されるだろう。となると騎獣はギルドが保護するはずだ。
ギルドは自分のところでは面倒を見られないため、どこかに依頼する。
そうなったらまた養育員へ預けるか、シウが出資している騎獣屋も稼働しているため、オーナーのエルヴィンにお願いする手もある。
「しばらく、あちらこちらへ引き渡されると思う。けどね、決して嫌な思いはさせない。ちゃんと見てくれる人のところへ引き渡すからね」
「がぅぅ」
了承の意味で返事をしたフェンリルだったが、その鳴き声はどこか哀しげだった。
スウェイとも合流し、シウとククールスで男たちを運ぶことにした。
「(レーネ、こういう事情だから先に戻るけど、そっちは大丈夫?)」
「(問題ないよ。レオンのところへはさっきロトスをやったからね。だけど、ブランカだけじゃ心許ないから――)」
「(フェレスをそっちへ向かわせるよ)」
誰か一人が飛行板で戻るにしても、ミセリコルディアの森近くから王都へは遠い。交代で飛んだとしても疲れる。まして幼獣のエアストが一緒だ。アントレーネの要求は当然のものだった。
シウたちなら問題ない。スウェイは立派な成獣ニクスレオパルドスだ。二人どころか三人の成人男性だって乗せられる。
もっとも、シウは彼に乗るつもりはない。
「じゃ、重力魔法を掛けて王都近くまで運ぶのはククールスとスウェイでね」
「おー。でも重力魔法掛けなくも問題なさそうだけどな」
とは、男たちを載せた台車を見てだ。以前も人を載せて運んだことがある。人の目が集まるため恥ずかしいが、どのみち彼等は犯罪者だ。構うまい。
シウはフェンリル三頭を連れ、飛行板で帰るつもりだ。飛行板の制作者であり乗り慣れているシウは、誰よりも長時間の使用が可能だという自信があった。ジルヴァーが一緒でも全く気にならない。そもそも、シウは空間魔法の持ち主で、落ちることへの恐怖がなかった。意識を失う可能性もあると、魔道具だって付けている。そのため、無茶な飛び方を続けて、それに慣れてしまった。
ククールスには呆れた顔をされたものの、シウは飛行板で飛び続けた。
フェンリルたちは体力が戻ったであろうに気力がないらしく、ただただ黙ってシウの後を追うだけだった。
ギルドに引き渡して報告書を提出すると、すぐに呼び出しがかかった。
部屋に入ると、スキュイとギルド本部長が待っていた。
「早速捕まえてくれたようだが、この内容は……」
「我々が想像した以上の問題かもしれないね」
二人とも頭が痛そうだ。ククールスは伸びをしてリラックスしているので正反対である。
ここはシウの出番だろうと、写真を撮りだした。
「魔道具の《念写機》で魔獣の死骸を撮ってきました。これが、そうです」
「……他の冒険者たちの証言通りだ。ひどいものだ」
「ここが、サタフェスの跡地だということを忘れている者がいる、というのが腹立たしい」
正確にはここではないのだが、同じ「王都」という場所なので皆が勘違いしている。ここで水を差すほどシウはバカではない。黙って頷いた。ところで、「サタフェスの悲劇」と呼ばれた過去の凄惨な魔獣スタンピード災害について、ラトリシア国に住む者ならば大抵は知っている。特に冒険者なら知っているはずだった。先輩冒険者から、ものの喩えで諭されることもあれば、酒場では吟遊詩人が歌うこともある。
シュタイバーン国だと知らない人も多いが、ラトリシアでは数百年前とはいえ過去にあった出来事だから語り継がれている。しかも、この災害は、いつだってどこででも起こりうるものなのだ。
「魔獣の死骸をそのままにすれば死霊になることもある。ましてや魔獣を呼び寄せるような真似など、唾棄すべきことだ」
「即刻、国へ突き出そう。取り調べは慎重にすべきだから、同時に行う。我々だけでは危険だ」
「そうですね。それと、騎獣三頭にウェルティーゴを与えた件も――」
「もちろん、それも報告するとも。三頭はフェンリルだったかな。彼等の処遇についてだが、できれば養育院で預かってもらえないだろうか」
「構いません。先ほど通信で『お願いすることになるかも』と連絡を入れましたら、いつでも引き受け可能と言ってもらえました」
「有り難い。以前のことでもそうだが、君には本当にいつも助けられているね」
この国では騎獣を飼うことができるのは貴族以上だ。そのため、騎獣屋がないに斉しい。あるにはあるが貴族が運営する貴族専用なのだ。また騎獣の預かり所も、他国からの冒険者用にいくつか存在しているだけで、お世辞にも行き届いた世話がされているとは言えない。
貴族用の高級宿になら騎獣のための獣舎もあるが、こちらも調教師が常にいるわけではなかった。
冒険者ギルドにも預かり所はあるものの、最低限の調教師で回しているため臨時で増えるとてんてこ舞いらしい。
シウが作った養育院や騎獣屋は、冒険者ギルドにとってはちょうどいい立ち位置だった。
「かかる費用については請求してほしい。以前の分もと言いたいが――」
「あれは僕の『物』という形で受け取りましたから。大丈夫です。今回は請求します」
最終的には男たちの資産と同様に差し押さえるはずだ。罪が確定してから、になるだろうが。ギルドからもペナルティの請求が入るはずで、そこに上乗せになるだろう。
騎獣は「虐待した」ということで取り上げとなる。
しばらくは宙ぶらりんの状態だが、フェンリル三頭はたぶんシウが引き取ることになりそうだ。
「ククールス、君には再度、証人として出頭してもらう必要があるが」
「出頭って言い方止めてくれよ~」
「慣れた言葉だろうが。まあ、上級冒険者としての義務だと思ってくれ。お前さんの方が冒険者歴が長いので証人としての信用度が高いんだ」
言ってから、ギルド長がシウを見て慌てた。
「いや、シウ君に対する信用度の方が高いんだがね。ほら、なにしろ君は見た目や年齢が――」
「ギルド長、そのへんでもう。シウ君、ごめんよ。悪気はないんだ」
スキュイが苦笑でギルド長を止め、それからシウに謝る。でも気にしてなどいない。見た目や年齢についていろいろ言われるのは慣れている。
シウは笑って手を振った。
「大丈夫です。後はククールスに任せるので」
「えー」
「信用度が高い証言者なんだから、頑張りなよ」
「嫌味か! ちぇ。分かったよ。でもできるだけ早くしてくれよ。忘れるから」
三人が呆れ顔になった。
「なんだよなんだよ、エルフジョークだろ。ったく。……いやでも、マジで早くしてくれな。本当に忘れるから」
「……分かった。スキュイ、送り状に注釈を入れてくれるか」
「はい。ついでに報告書も付けておきましょう。シウ君が作ってくれるものはいつも完璧で、助かりますね」
微笑みながら答えると、スキュイはチラとシウの背中を見た。そこにはジルヴァーがくっついている。
「可愛いですねぇ。やる気が出ました。やりたくない仕事でもね」
交渉担当のスキュイは面倒な仕事ばかりしている。慣れているのかと思えば、嫌なものは嫌らしい。
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