378 戦利品と竜苔の成長、大陸へのお誘い
光り物の好きな希少獣たちが、光りながら動く竜を前にして興奮しないだろうか。
興奮するに決まっている。
雌のリーダーも、シウの貢物である魔素水に喜んだからか大サービスだ。
(この間、痒いから掻いて剥がれた鱗があるのよ。持っていっていいわよ)
尻尾でぽいぽいと乱暴に投げてくる。それをフェレスとブランカは喜んで受け取った。口で受け止めるのだが、怖くないのだろうか。
クロはとうとう、水晶竜の頭の上に止まってしまった。クロが一番度胸がある。
ロトスはひゃっほーいと騒いでいた。鱗がたくさんで興奮が振り切れたようだ。
最後に、赤子を見てもいいとお許しも出た。一応、母親の尻尾を境界線にして、その手前からだ。
みんなで尻尾に座って、生まれたばかりの赤ちゃん水晶竜を眺めた。キラキラしているが、まだ鱗は柔らかいそうだ。魔獣に襲われたら死んでしまうほど弱い存在である。
鱗が硬くなって、魔法を弾くようになるまではかなり時間がかかるらしい。
(大きくなるまで大変だと思うけど、頑張ってね)
(ええ。ありがとう。またおいでなさい。あなたなら歓迎するわ)
(うん)
赤子は目が見えないらしく、きょときょとと首を振っていた。やがて、母親の尻尾の先を見付けてしがみつく。
その姿はジルヴァーと変わりない。
シウの気持ちが伝わったのか、水晶竜も穏やかな視線でジルヴァーを見ていた。
戦利品を集めて回ったフェレスたちは、一度シウの前に置いた。
期待に満ちた目でシウを見るから笑いを堪えるのが大変だった。
「それぞれ一枚ずつ、自分の魔法袋にね。大事にするんだよ」
「にゃっ!」
「ぎゃぅ!」
「きゅぃ」
「きゃん!!」
「ロトスは喋ろうよ……」
呆れながら返したが、ロトスは気にせず一枚選んで収納していた。もちろん、他の子たちもだ。
シウの足にくっついていたジルヴァーが、羨ましそうに見ていたので彼女にも渡してあげる。
「ジルなら、持ってられるかな?」
「ぴゅ!」
「小さいのにしようか。はい。あとでジル用の宝物入れに仕舞おうね。今は持っててもいいよ」
「ぴゅぴゅっ!!」
嬉しかったらしい。赤子のうちでもやっぱり光り物が好きなのだ。小さめの鱗を彼女に渡すと、残りは空間庫へと仕舞った。
水晶竜の巣穴を出ると、地上に作った竜苔を栽培している温室へ向かう。
ガラスの温室は特に問題はなかった。時折《感覚転移》で視ていたし、障害になるようなものがない。
中に入ると、竜苔がみっしりと生えている。屋根が太陽を遮っているものの壁となる前後左右からは光が入っていた。乾燥もなく、適度に湿度がある。条件としてはイグの住処と似たようなものだ。
温度を調節し湿度も変えて幾つかのガラス温室を作ったが、どの部屋も大丈夫そうだ。枯れている竜苔はなかった。
鑑定しても特におかしな点はないため、ほんの少し促進魔法を掛ける。
魔素量が多い温室では、気持ち程度だが竜苔が生き生きしているように見えた。
「やっぱり魔素かなー」
様子を見て、他の温室も増やしていこうと脳内メモに書いておく。
シウが見て回っている間、フェレスたちは外で遊んでいた。まだ雪が残るため、ずぼずぼ突進して楽しんでいる。
雪がない氷だけの場所ではつるつる滑っていた。誰が先に滑り降りるのか、競争し始めていた。クロが不利だと思ったら、彼は体を垂直にして羽根を畳むや滑り降りていってしまった。やっぱりスピード狂だ。
三頭を横目に、シウとロトスは次々と温室の中を確認した。
ロトスも遊びに行くかと思ったが、温室の方が興味があるらしい。人間の姿に転変して付いてきた。
「ここ、噎せ返るほど魔素が充満してるなー」
「聖獣にとっては気持ちいい感じ?」
「うーん。ちょいと暑苦しい感じ」
「ふうん」
「どうせシウは全くワカランチンなんだろうけど」
「あるというのは分かるんだよ。でも不快ってほどじゃないかな」
「魔力庫あるやつは違うな!」
「まあね。イグとの特訓でも、かなりの量を吐き出したから。ここの魔素量でも気にならないなあ」
ロトスは、うへえという顔をする。
「チートめ」
「はいはい」
適当に答えながら竜苔の様子を次々と見ていく。ロトスは竜苔を見に来たはずだが、空間内の魔素やら様子が気になるようだ。天井を見たりガラスの強度を確かめたりしている。
「俺も真面目に特訓しないとー」
「ロトスは思い出したように真面目になるね」
「おー。長続きしないんだわ」
「でもほら、バルに教えてると自分も成長しない?」
「するする」
「教えるっていいことだもんね」
でもたまには刺激的なことがあってもいい。
「週末さ、またクレアーレ大陸へ行くんだ」
「あっちで特訓って楽しいのか?」
「それもあるけど。知り合った魔人族の集落に行ってみたいし。面白い魔獣もいるから研究したい」
「……シウってば」
呆れ声だが、どこかに諦めも籠もっていた。シウは笑って続けた。
「魔法の特訓をするのに向いている場所も多いんだ。こっちの大陸はどこに人の目があるか分からないし」
「どうせ、おかしな威力の魔法をぶっ放すんだろ」
「そうそう」
「この人、否定しない!!」
シウは大笑いした。
温室を出ると、走り回って遊んでいるフェレスたちを眺めながら、ロトスに言った。
「一緒に行く?」
「は?」
「クレアーレ大陸」
「……うっそ、マジか」
「最初はフェレスだけ連れて行こうと思ってたんだけど」
「おー、そうか」
「ブランカが拗ねるかもしれないし」
「……うん?」
「クロも一緒に、となるとジルヴァーだって一緒にいたいよね。最近留守番ばかりだから可哀想だしさ」
「おぅ」
ロトスがいやーな顔をしてシウを見下ろす。それほど差が出なくなってきたのは、シウの背が伸びているからだ。確実に、ぐんぐんと伸びている。
シウは笑顔で告げた。
「一緒に遊びに行こう。特訓も楽しいよ」
ロトスは苦いものでも食べたみたいな顔で、ブーと口に出して不満を顕にしたのだった。
ロトスの言い分はこうだ。
「どうせ、俺をお守り役にってことなんだろ」
それもある。シウは正直に頷いたが、それだけではない。
「だって一人置いていったら寂しくない?」
「うわ、俺を可哀想扱いした!」
「仲間だからだよ。レオンにはまだ転移のことは話してないしさ」
どのみち今は幼獣を育てるので精一杯だ。余裕のない状態だから、彼をいきなりクレアーレ大陸に連れて行くわけにはいかない。しかも仕事でもないのだ。
「レーネも連れて行くつもりはないんだけどね。一応、本人に聞いてみるけど仕事じゃないからさ。今、一人でギルドの仕事を受けて実績を作ってるところだし。邪魔しちゃ悪いかなと思ってるんだ」
アントレーネは早く階級を上げて、シウと同じかそれ以上になりたいという。シウの騎士でいるからには目に見える形が欲しいのだそうだ。冒険者ギルドの階級は実力を測るのにちょうどいい。
どこかへ行くのにフェレスたちを連れて行くのは当然として、その中にロトスも入っている。それは彼が聖獣でもあるからだ。誓約した相手である。
もちろん個人の意志は尊重するが。
何よりも――。
「バルの教育ばかりで疲れてない? 息抜きで思いっきり動き回りたくない?」
聖獣で動いていても誰も見咎めない場所だ。
ノウェムのエルフ族にチラリと見られたことを少々気にしていたロトスにとって、そういう意味でなら安心安全の場所だった。
魔人族のルールがどうなっているのかは知らないが、クレアーレ大陸はロワイエ大陸ほど人間が広がって住んでいない。
元の姿で思う存分いられるのは貴重ではないだろうか。
はたして。
「うー、行く! 行って、俺様の真の姿を見せてやる!!」
やる気になったらしい。魔人族がどんなものか分からないまでも――たとえばいきなり攻撃するようなタイプでも――こちらにはイグがいる。
その安心感が、後押ししたようだ。
「イグ様の威を借る狐ー! その名はウルペースレクス! わはは!!」
楽しそうで何よりだ。
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