373 訓練とシウの過去の話




「足腰を鍛えることは、速くなることに繋がるんだ。分かる?」

「にゃっ」

「ぎゃぅ?」

「きゅぃ」

 条件反射で分かると答えたのと、分かっていないの、分かっていて代わりに鳴いたのがいる。シウは苦笑しながら人差し指を立てた。

「どんどん厳しくしていくからね。流れの早いところを逆らって登るんだよ。そのまま流されて遊んじゃダメだからね」

 フェレスがほんの少し、目を逸らした。ブランカは嬉しそうな顔だ。あ、これはやるな、と思ったがシウは黙ってクロを見た。クロはこくんと頷く。任せて、と頼もしい。ふたりの監視はクロに任せることにした。

「あとで崖登りもやるからね。クロは監視係をお願い」

「きゅぃ!」

「水に潜るのはやってもいいけど、クロは小さいから流れの緩やかなところでするように」

「きゅ」

「……流されても大丈夫なように網を張るけど、無茶はしないようにね?」

「きゅぃ!!」

 クロはこれで危険なことをするのが好きだ。遊ぶのが好きなのではなく、ひやっとすることが好きらしい。実はフェレスやブランカよりも思考は危険である。

 あまり戒めても可哀想だからほどほどに許可しているが、こんなに喜ばれると困ってしまう。シウはクロにくれぐれも無茶はしないようにと釘を差した。


 三頭を放流して振り向くと、バルバルスが用意万端で待っていた。

 その後ろでロトスがそわそわしている。

「……行っておいで」

「いいの!?」

「いや、うん。だって、そんな状態で魔法の勉強できないよね?」

「へへへ」

 ロトスは勉強と聞くと「アレルギー反応」が出るらしい。えへえへ笑いながら「じゃあ!」と言うや転変して三頭のところへ向かった。

 残されたバルバルスは少しの間ロトスを見ていたが、ハッとしてシウを見た。

「よろしく、お願いします」

「うん」

 彼はロトスにかなり教育されているらしい。


 バルバルスは真面目に取り組むと物覚えは良く、ロトスよりもずっと順調に勉強が進んでいる。

「闇属性がなくても、なんとかなるみたいだね。複合魔法の理解も早いし」

「そ、そうか?」

 どことなく嬉しそうな顔で答える。勉強の成果を見せてもらったが装備変更も完璧にできているし、結界魔法も強固になっていた。

「じゃあ、結界魔法はこの調子で訓練を続けてみて。結界魔法のレベルが上がったら封印魔法をやろう。今日は追術魔法について教えるから」

「えっ」

「対応策を考えるなら、敵の能力についても知っておかないと」

「……分かった」

「魔素遮断も教えたいけど、あれは空間魔法と鑑定魔法が必要だから難しいんだ。せめて封印魔法を自在に操れていたら、ランク落ちになるけど教えられたと思う」

 シウの言葉に、バルバルスは即座に答えた。

「結界魔法の訓練を頑張る」

 真剣な表情だ。

「うん、頑張って。じゃ、追術魔法について。これは僕の推論から始まった考えなんだけど、ヒラルスさんたちにも確認しているから、おおよそ合っていると思う」

 そう前置きして追術魔法について説明した。

 人間は魔法を使えば体内の魔力を消費する。その時に、無意識に魔力量を増やそうと周囲から魔素を取り込もうとする。魔素は地中に取り込まれていることが多いため、地面からより多くを吸収するものだ。魔法を使った場合も魔力や術式の残滓といったものが地面に落ちる。

 そもそも大抵の人間は地面に足を付けて魔法を使う。魔法を使った時の名残、流れのようなものが地面に伝わるものらしい。この件に関して、シウは神様から夢を使って見せてもらったから、確かだ。過去の映像でアポストルス族のハイエルフが使っていた。彼は地面を通して、遠く離れた同胞の使う魔術式を追っていた。

 固有魔法として持っているとしても、膨大な魔力を要するはずだ。

 シウは独自に同じような魔法を考えてみたことがある。

 固有ではないため、あらゆる魔法の組み合わせになった。複合魔法を更に複合させた。探索に隠密、影身といった複合魔法から土と水と金属製を合わせたものだ。ここに生産魔法と鑑定魔法を重ねて術式の自動検出を行うデータベース検索を可能にしている。

 どれほど節約しようとも膨大な魔力量を要するため、ハイエルフと言えども一日に一度しか使えないはずだ。しかも空っぽになった魔力が元に戻るには、今の世界では数日かかる。魔力を満タンにするポーションでも、ハイエルフほどの容量を戻すには高価なものとなるだろう。おいそれと手に入れられるものではない。

 そうした説明をすると、バルバルスは唖然とした顔になった。

「そんな、そんな魔法を考えたのか?」

「うん?」

「だって、魔道具に……。魔術遮断の道具を渡してくれたじゃないか。あんた、シウが作ったんだろう?」

「そうだよ。僕が考えて作った。追術魔法も複合魔法としてだけど、考えた。実際に使ってみた。でないと対策グッズなんて作れないからね」

「……何故だ」

「何故って、相手は問答無用で襲ってくるような――」

「そうじゃない」

 シウが首を傾げると、バルバルスは怯えた表情でシウを見た。

「それだけ魔力が必要な魔法を、どうやって考えたんだよ。どうやって、使えた《・・・》んだ」

「あ」

「さっき言ったよな。『ハイエルフと言えども一日に一度しか使えないはずだ』って。それなのに、先祖返りでもない、俺よりもずっとハイエルフの血を引いてないあんたがどうやって気軽に使えるんだよ」

「あー。あはは」

 シウは苦笑して、頭を掻いた。

「大体、あんた、黒の森でもべらぼうな魔法を使っていたな」

「うん」

「どうせ秘密なんだろ。それはいい。でも、あんたに使えるものをアポストルスが使えないなんて言えないだろ」

 それはそうだ。

 でも、もしもシウのように魔法を存分に使える者がいるのだとしたら。

「……そんな人がいるなら、ゲハイムニスドルフの人たちだけでなく、僕もすでにこの世にはいないよ」

 赤子のうちに死んでいただろう。

 シウはほんのりと笑って告げた。

「アポストルス族に追われていた僕の両親は、深い森の奥へ追い込まれて亡くなった。その時に、父親は生まれたばかりの僕を岩の隙間に押し込んで隠したんだ。岩の間なら見付からないと思ったのかな?」

 バルバルスはシウを真正面から見つめた。

「たまたま通りかかった元冒険者の爺様が僕を拾って助けてくれた。両親は間に合わなかった。強い魔獣の多い森だったからね」

 シウが助かったのは爺様のおかげでもあるが、追術魔法を使って追っていたハイエルフが見逃してくれたからだ。

「もしも、ハイエルフにもっと魔力量があったなら追ってきただろうと思う。偶然、奇跡的に僕は助かった。彼等に次の一手を与える『魔力』がない間に、爺様は両親の遺骸を魔獣に荒らされないようにと『処理』した」

 処理という言い方はしたくないが、そうしたのだろうと思っている。アンデッドにならないよう燃やしたに違いない。

 爺様は「墓はないんだよ」と言った。でも、見回りの時に、家から遠く離れた山中を墓のようなものだとシウに伝えた。

 死に対して、爺様はどこか冷めたところがあった。シウも実感がなく、どこか他人事のような思いでいた。

 山の中では死は常に隣り合わせで、どこか達観した世界だった。

 外に出て、情というものを知った気がする。

「過信しているわけじゃないんだ。むしろ警戒している。僕は臆病だから、ギリギリの戦いなんてしたくない。死にたくないし、大事に思うものを失いたくもない。だから、あらゆることを想定して対処している。アポストルスのことも」

 今も、魔法の勉強を続けている。それは怖いからだ。失いたくないものがあるからだ。

「僕には無尽蔵に使える魔力がある」

「……は!?」

「でも、それに頼ってばかりじゃダメだと思っていて」

 そのセリフに、バルバルスは今度は声を無くした。意味が分からないと首を振っている。

 シウは笑った。

「だって、昔あったことが、今起こらないなんて言えないよね?」

 先ほどのバルバルスの言葉を真似たように告げた。








**********


「魔法使いで引きこもり?」のコミカライズ版二巻が

  7月23日 に発売されます


魔法使いで引きこもり? 02 ~モフモフ以外とも心を通わせよう物語~

(MFコミックス アライブシリーズ)

著:YUI先生

ISBN-13: 978-4040658063


チビっこフェレスの可愛さはもちろんのこと、キアヒ・キルヒ・ラエティティア・グラディウスのパーティーメンバーと出会うシーンなど盛りだくさんです

かわゆいルコたんの姿も出てまいります

どうぞよろしくお願い申し上げます~




そして、原作五巻も7月30日に発売です!!


魔法使いで引きこもり?5 ~モフモフと楽しむ異国の文化~

ISBN-13: 978-4047354982

イラスト:戸部淑 先生


四巻は怒濤の大事件→かわって五巻は小さな事件とマイペース観光

シウとフェレスの相変わらずな闘技大会編です


プリュムの可愛い姿を堪能してください

人間姿も聖獣姿も最高にきゅんきゅんです!


原作五巻もどうぞよろしくお願いいたします!!









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます