363 バルバルスに騎乗と魔法の勉強を、の前に




 シウはまずフェレスに乗って、後ろにバルバルスを乗せた。ブランカはイグと一緒に宝石の見せあいをしている。イグは賢く上位の存在なのだが、たまに大人げないところがあってブランカと妙な言い合いをしていた。まあ、どちらの宝石が綺麗かで揉めているだけなのでシウは気にしていない。

 さて、フェレスに二人して乗り、自由に飛んでもらう。

「うわっ」

「ちゃんと掴まってて。落ちても知らないよ」

「あ、ああ、わあ!」

 後部に乗る人のために騎乗帯を工夫して持ち手を付けているのだが、彼はそこではなくシウに掴まった。騎獣に乗る経験がないため、速さにも高度にも慣れていない。体ががちこちに固くなっている。

「僕を掴んでも安定しないだろうに。ほら、間に引き出し型の持ち手があるでしょう? それを持って」

 バルバルスは涙目で片手を離して二人の間にある騎乗帯を見下ろし、今は収納されている持ち手を手探りする。それを見付けて持つと、もう片方の手をシウから離した。

 持ち手の方がよほど安定して、安心もする。案の定、彼はホッとしたようだ。シウのような、自分よりも小さい人間を持つよりは安全である。

「本来なら安全帯を腰帯に繋げるんだ。あるいは落下しても大丈夫な魔道具を付けるか、だね」

「俺は付けてない」

「僕がいるから」

「ど、どういう――」

「魔法で、なんとでもなるよ。フェレスも自由に飛んでいるように見えて、乗せている人間のレベルについては考えてる。落ちても大丈夫な高さしか飛んでない」

 打ちどころが悪ければ怪我をするだろうが、そこは黙っておく。

 フェレスはスピードを上げて急旋回を繰り返したり、木々の間を飛び回ったりしているが、危険な旋回後の軌道については目を光らせている。もし乗っている人間が吹っ飛ばされても尻尾で勢いを抑えるか、自身が再度ぐるりと旋回して前足で引っ掛けるなどの方法はある。吹っ飛んだ人間の体を完全に捉えることはできないが、勢いを弱めることは可能だ。フェレスにはそうしたことが本能的に分かっていた。

 繰り返し山の中で誰かを乗せて遊んでいるフェレスは、何度もヒヤッとした経験がある。それらの積み重ねと本能が合わされば、怖いものなどない。

 彼の経験則により、どれだけのスピードまでなら人間は吹っ飛ばないか理解しているのだ。

 バルバルスは速いと恐れているが、実際はそうでもない。

「騎獣に合わせて飛べば、振り落とされることなんてないんだよ」

 騎乗帯も付けずに裸の状態で何度も乗ったシウは、フェレスにぴったり張り付いて乗っていれば問題ないことを知っている。たまに落とされることもあったが、それは本当に若い頃のことだ。まだ成獣になったばかりの。逸るばかりで体がついて行かずに失敗をした。その失敗は心に残っている。

 騎獣は乗せている人間を落とすことを心から恐れている。特にあるじと決めた人間を、彼等は落としはしない。まして主が命じて乗せる誰かたちを、落とすことは決してないのだ。

 そういう意味でもフェレスは優秀なのだった。まあ、たまに「えー、この人乗せるのー?」といったことは言うけれど。

「ほら、フェレスに寄り添って乗ってみて。任せてしまうといいんだ」

「……分かった」

 そのうちに段々と体が自然に右へ傾き左へ傾き、どうすれば騎獣が飛びやすくなるかが分かってくる。体に染み込んでくるのだ。

「風属性魔法で制御してくれてるの、分かる?」

「あ、もしかして今のは右の?」

「そう。フェレスは自然と風属性魔法で守ってくれてるんだ。落ちないでしょ?」

「本当だ……」

「早く飛びたい時はこっちも合わせてあげないとダメだし、こう体を密着させてね」

「そうなのか」

「慣れたら魔法の連携もできるようになるね」

「魔法の連携って、練り合わせるのか? そんな難しい技を?」

 封印魔法も複数人で練り合わせると聞いている。とても難しいため長い時間、訓練するそうだ。バルバルスはまだそこまでに達していない。

「騎乗の訓練は、そうしたことも学べるよ」

 シウの言葉にバルバルスは俄然やる気になったようだ。

 もっとも、シウとフェレスの場合は練り合わせるようなことはしていない。本当に自然と重なっているだけだ。干渉しないようにシウは考えているが、フェレスはたぶん考えていない。

 フェレスはある意味天才肌で、どうしてそれが必要なのか、何故できているのかは頭で理解していない。

 でもそれらは彼が何度も失敗してきて体で覚えてきたことでもある。つまり努力の結果でもあるのだ。

 それはシウが知っていればいいことで、一々バルバルスに言うことでもない。

 シウはフェレスによくやったねと毎日褒めることで彼の努力を労っているのだった。





 この日は泊まり、翌日もバルバルスを鍛えた。

 ロトスは、彼いわく「ヒャッハー状態」らしい。フェレスとブランカとクロのうち誰かを引き連れて山中を飛び回っていた。人型で飛行板に乗ったり、あるいはフェレスかブランカに乗ったりしてだ。聖獣姿は昨日満喫したのでもういいらしい。

 いや、遠出をしてエルフの――この地ならおそらくノウェム族だろう――男に見られたかもしれないと言っていたので気にしているのだ。

 ロトスの聖獣姿は真っ白い。人型の時が黒交じりのため忘れがちだが、誰が見ても聖獣と分かる姿をしている。

 昨夜は帰ってきてしばらく挙動不審だったため、シウは様子見していた。結局耐えきれず、居間でごろ寝していたシウのところへやって来て告白した。

「なんだ、そんなこと? 大丈夫だよ。聖獣を見たからってノウェム族が一々ラトリシア国に報告すると思う? 第一、どこかの貴族が下賜された聖獣を連れて山へ入ってきたと思って、むしろ避けてくれるんじゃないかな」

「そ、そう?」

「ノウェム族は引きこもりらしいし、大丈夫だよ。その人、ロトスを追うような仕草を見せた?」

「うんにゃ。なんか、反対側へ走ってった。てっきり仲間を引き連れてくるとか思ったけど、来なかったな、そういや」

「ほら。たぶん、厄介事はごめんだって逃げたんだと思うよ。ノウェム族は問題が起こるとすぐ住処へ戻っちゃうし。水晶竜が大繁殖期に入った時も遠くからチラチラ見ていただけで、近くまで確認に来ることは全くなかったからね」

 水晶竜の騒ぎの時に、シウはしばらく感覚転移で様子を視ていた。その間にノウェム族が近付いた形跡はなかった。あくまでも遠くからの確認だ。

 そこまで説明してようやくロトスは大きな溜息を吐いて、安堵したようだ。

 で、気分も一新された。はずなのだが、多少は気にしているのか人型をしているというわけだった。


 さて、バルバルスの魔法の訓練だ。

「基礎属性は闇以外全部揃ってるんだね。で、封印魔法がレベル5と。強圧魔法がレベル3か」

 バルバルスはシウが《鑑定》したことで丸裸にされた気分なのか、居心地悪そうにもぞもぞと座っている。野外に作ったテーブルと椅子で、近くにはイグが居残り組と共にやっぱり宝物の見せあいっこだ。

「強圧魔法のレベル上げはロトスとイグとでできるね。じゃあ、僕は装備変更や認識阻害を教えようか」

「え」

「最終的に街へ行くつもりだから。ハイエルフに見つかっても問題ないぐらい、やってみよう」

「は?」

「大丈夫、念のために魔道具も渡すよ。ロトスもそれで街中を大手を振って歩いてるから」

「いや、あいつは聖獣だから問題ない――」

「ロトスの生い立ちについては聞いてないんだ? 言っておくけど、ロトスのことを誰かにバラしたら僕が承知しないからね?」

 シウなりに軽く睨んでみた。怖いと言われたことは一切ないが、めっ、と睨んでみることが大事なのである。







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次も4日後っす

読み直しのペースちょっぴり早まったけど、しょせん一度しか見直しできてないヤバみ

いつか、まとめてやり直します……( ꒪⌓꒪)



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