354 高濃度聖魔素水と出来た理由




 泉の水のことは、これも勝手に便宜上の名前を付けた。高濃度聖魔素水だ。なんだか変だが、シウの脳内でのことだ。構うまい。

 それよりも、この高濃度聖魔素水がどうやってできたのか、だ。

 この住処自体が高濃度の魔素で囲まれている。古代竜の住処なのだから当然だ。ここに長年住んでいたために山全体が高濃度の魔素で充満しているとも考えられる。水は時間を掛けて染み出してきて混ざりあった。

 よく魔獣が現れないものだと思うが、そこがミソだ。イグが普段からいるのならともかく、彼は住処をあちこちに持っている。常にいるわけではないのだ。

 人間や希少獣を好んで襲う魔獣は、肉も大事なのだろうが生き物が持つ魔素狙いだろうと考えられている。となると古代竜は彼等にとってみれば大変なご馳走になるはずだ。けれども、さすがに階位に隔たりがありすぎる。そんじょそこらの魔獣では太刀打ちできない。それこそ古代に蔓延っていたと言われる巨大魔獣などでない限りは、古代竜の住処になど近付けないはずだ。しかし、イグはここに常駐していない。

 では、何故魔獣がいないのか。

 光属性魔法に関係する何かが、あるのだ。それもかなり強いもの。ならば、聖水よりも純粋であることの理由になる。

 他の理由を考える前に、まずは調査しようとシウは地下をどんどん《鑑定》していった。探知する範囲を広げていく。同時にサナティオを採取していくが、こちらは同時進行のためいつものようにパッとはいかなかった。それでもイグからすれば早いのか、

([おぬしはまた便利に魔法を使うのう。わしは初めて見たぞ])

 と呆れていた。

([人間は細かい作業が得意と知っておったが、シウはまた特別おかしいのではないか])

 とも言って。



 シウはどんどんと深い場所を《探査》しながら《鑑定》を続けた。

 途中で気になるものを見付け、イグに断ってから《転移》する。《空間壁》で自分を囲ったままだ。

(地底湖?)

 地中深く、地底湖になった場所があった。足場がないため空間魔法で浮いたままに見下ろす。

 不思議な場所だった。卵型の穴の八分ほどまでが水で埋まっている。

 どこからか流れ落ちる水があり、抜けていく場所がある。その先を《探査》と《鑑定》で視た。

 水は普通、重力に従って下へと向かうものだが途中で急激に方向を変えている。その一部がイグの住処の泉に繋がっているようだ。

 その部分については後で調べるとして、今は地底湖である。

 シウは《空間壁》に囲まれたまま水中へと入った。

(あー、そういうことなんだ)

 薄暗い地底の中だ。光るものなど有りはしない。なのに、うっすらと光っている。

 正体は湖の底に沈んだ数々の死骸だった。それが何かは《鑑定》しなくても分かる気はした。

 それは古代竜だった。

(古代竜の墓場なんだ。しかも、これは――)

 ミイラ状態の白い古代竜が何頭も沈んでいた。

 ミイラになっているため詳細が分かる。鱗はあるようだが見た目には人工の蛇革のように滑らかだった。

 イグは黒錆色のトゲトゲした鱗を持っていたので古代竜はそんなものかと思っていたシウだが、古代竜にも種類があるらしい。

 古代竜に関しては昔の古い書籍を参考に語り継がれており、空想の存在に近かった。オーガスタ帝国時代より後にも古代竜の姿を見たという案件はあったが、なにしろ空を飛んでいるため詳細が分からない。彼等の形や飛行する姿のみが記されるだけだった。

 これほど近くで本物を見られるとは思わなかった。シウはじっくり《鑑定》しながら観察を続けた。

 そこで分かったことは、ここにいる古代竜たちのほとんどが同種族であるということだった。死骸となっているため彼等が生きていた間に備わっていた能力までは分からない。もっとも生きていたとしても階位に差がありすぎて今のシウでは視れなかっただろう。

 が、地底湖のあまりにも澄み切った様子や高純度の聖水を考えると、光属性に長けた種族だったのではと想像できた。

(すごいなあ。死んでから随分経つだろうに、こんなに美しいまま残るんだ……)

 まるで生きているかのようだ。

 中には傷がついたままの古代竜もいた。老衰だったのでないことは、傷の深さからも分かる。

(亡くなった後に同胞が連れてきたのかな)

 ここは彼等の大事な場所なのだろう。

 シウは地底湖から出た。神聖な墓場に長居すべきではない。

 何故か、彼等のことを素材とは考えなかった。不思議なものだ。竜人族の里では彼等の祖とされる古代竜カエルラマリスの鱗や、別個体の死骸から持ち出したという骨ももらった。その時は素材と考えたのに、何故だろうか。

(イグと知り合ったからかな)

 自分よりも遙か高みにいる存在。崇高な存在に尊敬と畏怖を覚えた。神様に感じた畏怖に近いものだ。

 それに、墓場を荒らしてまで得るものではない。

 こんなにも静謐な場所を穢すことは、シウの本意ではなかった。

(イグのところに戻ろう)

 ただその前に、気になることがある。卵型の巨大な空間に水が溜まっているのは分かる。岩の裂け目のような穴があり、その川から流れ落ちてきた。

 けれど、では、どうやって白の古代竜たちは墓場へと入ったのか。

 誰かが転移させたのかもしれないが、もっと簡単な方法がある。

 シウは天井に近付いて、入念に《探査》した。

(やっぱり、繋ぎ目がある。かなり古い、もう密着してしまってるけど……)

 昔、オーガスタ帝国が滅亡した時に、古代竜をも巻き込んだ大災害があった。

 その前までにももちろん争い事の果てに死んだものもいるのだろう。地底湖の中の白の古代竜たちは鑑定すれば、ハッキリと時代が分かれて積み重なっていた。

 ここは滅多に使われない墓場だった。けれど、世界を巻き込む大きな災害が起こった。生き残った誰かが、遺骸を集めて納め、この大事な墓場を守ろうとしたのではないか。上部にあった穴を巨大な岩で塞いだのだ。

 そんな気がした。


 シウは最後に地底湖に向かって一礼すると、また《転移》でイグの住処へと戻った。



 イグは寝ていたようだったが、シウが戻ってきたことに気付いてのっそりと近付いてきた。

([どこまで行っておった? 気配がまるで感じられなかったぞ])

「あー、もっと南の、地底に」

([南というと、あちらか。……わしでもどうかと思うような険しい山が続いておるところだな。その先は海だ])

 そう言われて、《俯瞰》で視たが到底見渡せるものではなかった。でも微かに感じる。

「《全方位探索》の条件を変えて視ても……きついなあ。クレアーレ大陸はすごい」

 ロワイエ大陸とは違う厳しさがある。

 けれど微かに感じた。地底湖のあったと思われる場所の上、ずっと上に。途轍もない高さの山頂に何かがいる。

「……古代竜が住んで、寝ている?」

([そう言えば、あそこには同胞が寝ておったかな。随分前のことよ。呑気な一族だったのでまだ眠ったままのようだ])

 シウは笑った。イグものんびりしていると思うのだが、それは口にしない。

 代わりに。

「白い鱗の古代竜だよね? 彼等は光属性魔法が得意だった?」

 イグは動きを止めて、じぃっとシウを見つめた。しばらくして、前足を屈伸させた。

([さようか。なるほど。確かに、あれらは光魔法を得意としておった。わしが闇に優れているのは見た目からしても分かるか?])

 まさか表皮の色で得意な魔法があるとは思っていなかったが、そうかもしれないという仮説は立てていた。シウは頷いて、答えた。

「古代竜は基本レベルが高いから誰も気付かなかったのかもしれないけど、そうは言っても得意分野はあるだろうし。人間だって同じ。種族特性というのは、やっぱりあるよ」

 イグはふむふむと頷いて、右前足を上げた。

([人と繋がりを持った青いのは水が得意であったな])

 カエルラマリスのことだ。竜人族の祖である。シウが竜人族の里へ行くという話はイグにもしているため、話題にしたのだろう。

([赤いのは火が得意よ])

「それってフルヒトヴルカーンに住んでる古代竜のことかな?」

([場所は分からん])

 でも、たぶん、そうなのだろう。

([おぬしがよく言っておる、古代の大事件のあと眠りに就いた同胞は多い。こっちに来ていたものもな。元より、群れる我らではないので詳しくは知らぬが。……白いのが珍しいのよ。あれらは仲間意識が強かった])

「だから墓守をしてるのかな」

([墓があったか。そうか。あの上を飛ぶと威嚇されることもあったが、なるほど、そういうことだったか])

 イグも大概のんびりしているよ、とシウは思ったが、やっぱり口にすることはなかった。

 群れないと言うイグだが、どこか寂しそうに見えたからかもしれない。









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以前も書いたかもしれませんが、最近は読み直しが一度しかできてませんで(つまり書いてすぐの状態に近い)かなりまずい状況です

どういうことかと言うと、誤字脱字どころか大幅に修正すべき部分も多うございますってことで

時間ができたらちょいちょい直していきますので、かるーい気持ちで見てくださると助かります


読み直し修正やるよりも新たに書いていく方がどうしても楽しくて、ついつい後回しにして……改稿作業に逃げて……新作に逃げて……な感じです!!えへ!!(笑って誤魔化すスタイル




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