337 シウ組と工作活動
少し溜めてからロトスは笑った。
「……シウってさ。懐に入れた奴のこと、すげえ大事にするよな」
口調は柔らかいがシウの頭を撫でる手が強くなる。
「え? いたた、ちょっと強くないかな」
「いいんだよ、これぐらいして。お前、反省してないだろー」
反省はしているつもりなのだが伴っていないので、シウは無言になった。
ロトスは苦笑で続けた。
「他人には線引してて、どこか冷たいとこあるじゃん。なのに身内だってなると途端に猫可愛がり」
「猫可愛がりって」
「そうだろ。ほら、あの子みたいにさ」
「あの子?」
「ガーディのことだよ。いろいろ喧嘩売られたくせにさ。俺だったら、そんな奴に手は貸さない。でもシウは助けただろ。しかも後のことまで気にしてやってさ」
「そういうの見てて嫌だった?」
「嫌っていうよりも驚いた。でも、それがシウなんだなって思った。自分のとこの子にしたら、それは過去にどんな子だったとしても自分の子なんだ。そういうことだろ。俺も拾われた。レーネだってそうだ。なんなら、ククールスもそうだし」
「ククールスは違うと思うけど」
「似たようなもんだって」
そうかな、とシウは首を傾げる。ロトスはまた続けた。
「ガル兄貴とアウルもそうだろ。レオンもそうじゃん。こいつらもそうだし。見てみろよ。ジルなんて本当なら違う誰かに渡すはずだったじゃん。でも飼うには難しい種族だと思ったから引き取った。だろ?」
背負われたまま静かにしているジルヴァーを、ロトスは優しい目で見ていた。
シウは小さく笑んだ。
「そうだね」
「シウのその線引ってどうなってんのかなって思うけど。でも、俺たちみんなシウ組なんだよな」
シウ組とはなんだと思って怪訝そうにロトスを見る。彼はシウを見下ろしてニヤニヤと笑った。
「シウっていうトップがいて、そのグループ。クランとかそういうもん。めっちゃデカくなって大所帯だ。いーんでない? そういうのもアリだと思う」
でも、と彼は続けた。
「とりあえず、もうちょい自重はしようぜー。さすがにこんだけ大幅に、しかも延々と地形が変わったら逆に気になるじゃん」
「それもそうだね」
ということで、後半は地道に岩を置くなどの工作に出た。
もちろん惑い石に魔狂石の組み合わせも置く。獣道を細工して元の道へと戻らせる道筋を付けたり、獣の水飲み場自体を移動させたりなどだ。
そんな地道な活動を続けて、なんとか擬似村より南の方面は細工が済んだ。
そして通り抜ける専用のトンネルも作った。これは岩石魔法を使って掘り進め、単純に洞窟っぽい形にしたものだ。当初、転移門を作ろうと思っていたが、これもロトスに止められた。なるべく竜人族たち、通る者のレベルに合わせようということだ。
ロトスいわく「万が一、冒険者一級レベルの者が来たらバレる」からだ。一級というと勇者クラスだが、いないわけではない。そして鑑定レベル5という人間もいないことはないのだ。常に転移門に付きっきりで保守管理できるわけではないことを考えると、ロトスの言うことはもっともだった。
擬似村は一日では作れない。
翌日も引き続き作業をしようということで、その日は野営を張って泊まった。
シウが魔法で竈を作り出すので、アンプルスたちは驚いていた。ちなみに、最初に擬似村の場所全体へ《鋲打機》で鋲を打っているので安全だ。
また、周りを囲む柵自体にも地面深くに金属杭を打っている。そこに魔術式を施しているので結界の役目も、アポストルスの「目」が届かないような工作も済ませていた。《鋲打機》の完全版のようなものだ。
とはいえアンプルスたちが、急ごしらえで作った専用靴を脱ぐことはなかった。
土の日は一日中、疑似村作りを手伝った。なるべく彼等の手で建てたような形にする。もちろん手が足りないのでシウが魔法を使う。
ハイエルフの血を引く彼等だとて魔法は得意だ。一般の冒険者よりもずっと能力は高い。けれどシウほどに細かな魔法は使えないし、そもそも大掛かりに使うことを恐れていた。いくら、擬似村の周囲を安全にしたと言っても、生まれた時から染み付いた「恐れ」は払拭できないようだった。
よって、シウとロトスの指示で動くという程度だ。
ロトスの方が彼等よりも繊細に魔法を使えている。まして魔力の高い聖獣だ。ゲハイムニスドルフの人たちよりずっと手早く役に立っていた。
この作業の間、フェレスたちはやっぱり森へ行っていた。見張りを頼むと言えば喜んで飛び出ていった。
ジルヴァーは背負ったままだが、相変わらず彼女は泣きもせずに静かなものだった。
たまに「ぷぎゅ」と鳴いているが、シウの魔法を喜んでのことだ。彼女もフェレスたちと同様に神経の太い子になりそうである。
擬似村は三十人ほどが暮らしていることを想定し、隠れ住んでいるという体で作られた。
「すっげー、ワクワクするな、シウ!」
ロトスは何やら秘密基地の大型版を作ってる気になっているらしく楽しんでいた。彼がそうなものだから、引きずられてアンプルスたちもやる気になっている。当初、能力者レベル一の擬似村作成担当たちは乗り気ではなかった。
自分たちのためだから、嫌だというわけではない。ただただ村の外へ出るということが怖いのだ。それが一日以上かかるとなれば不安しかない。
けれど、シウとロトスがわいわい楽しげに作っているものだから気も紛れてきたようだ。
シウが提供した《鋲打機》などの魔道具についても、どんな魔術式なのか詳細に説明していると理解してきた。完全に分かるわけではないが「何も知らない」状態と「説明されてなんとなく意味が伝わる」のとでは全く違う。
なんとなく理解すると、それは安心感へと繋がる。
午後には、積極的に動き回っていた。
夜になるとフェレスたちが狩ってきた魔獣でバーベキューを行う。
シウの作る料理に慣れてきたアンプルスたちは喜んで手伝った。覚えようと手元を見る者や、調理が苦手だという者は後片付けに名乗りを上げるなどしていた。
シウがあれこれしている間、ジルヴァーの面倒を見たいと手を挙げる者もいた。
「卵石、見付けたら絶対に連れて帰ろう」
「そうだな。今の俺たちなら育てられるよ」
「可愛がろうな」
「こんな可愛いもんな」
役に立つと言われる騎獣に対して言うのではなく、アトルムマグヌスのジルヴァーを見て言う。それが何やら嬉しい。シウは自然と笑みになって料理を続けた。
ゲハイムニスドルフのハイエルフたちは、きっと聖獣以外の卵石もこれまで見付けてきたのだろう。
けれど育てられないと判断し、見て見ぬふりをしてきた。
かつて村で育てられていたという聖獣も、役に立つから拾ったのだ。
そんな村の人間が、卵石なら拾って育てようと言い出した。
それだけ心に余裕が出てきたということだ。
この余裕がいつまでも続くように、シウも援助を続けたいと思った。
その日も泊まり「どうやって擬似村に生活感を出すか」の方法を皆で語り合いながら雑魚寝した。
雑魚寝した家は木組みで作った。基礎も作っており、一日で作ったとは思えないほどしっかりしている。擬似村とはいえ彼等が交代で住む場所だ。不便がないようにと話し合って作り上げた。そのため意外と過ごしやすいと、上々のようだった。
翌日も周辺を通り抜けられないように工作をしたり、村で過ごしやすいよう施設を増やしたりした。
井戸も二つ掘り、一つは飲水用で一つはお風呂用とした。風呂と言っても魔法で温めるだけのものだが、ないよりはずっと良いと喜ばれた。ここで温泉を引くと他所から来た人間に目を付けられる。これが精一杯だ。
村長の家は大きめにして、客人を泊まらせる造りだ。その部屋を監視できるような仕組みにもした。
このあたりはロトスが張り切っていた。「忍者屋敷だー!」と楽しそうだった。釣られた男たちも「ニンジャだー」と一緒になって作業していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます