330 セキュリティと再会の喜び




 翌日の光の日も朝はゆっくりで、昼を過ぎてからゲハイムニスドルフ近くの森へと転移した。少し離れた場所へと転移したのは工作のためだったが、竜人族と違ってハイエルフたちに気付かれることはなかった。

 さすがに山を降りて門へ向かう頃には周辺を見回りする兵たちも気付いたようだった。彼等は身構えていたが、姿が見えてシウたちだと分かるとあからさまに安堵していた。

 これまでも冒険者が彷徨い込んで来たことがあるらしいから、警戒心が強いのは分かる。

 その時の彼等は、ハイエルフとバレるような能力者レベルの高い者を隠していたらしい。鑑定してもハイエルフとは出ないような立場の者だけで接したようだ。そして、契約魔法を用いて「村のことは話さない」ことを条件に迎え入れていたという。

 契約魔法と言っても、たぶん誓約魔法を使ったのではないかとシウは思っている。

 ゲハイムニスドルフは袂を分かった同じ血を引くアポストルスの追跡を恐れている。彼等に少しでも居場所を知られるような真似はしないはずだ。必ず、強力な「保険」を掛けているはずだった。

 ゲハイムニスドルフの恐怖心は理解できるので、シウはもちろん言及するつもりはない。


 さて、これほど臆病に過ごしている彼等だ。シウの姿を見てもすぐには中へ入れてくれなかった。案内人の竜人族もいないので「念のため」本人かどうか確認したいと言うのだ。

 水晶に手をかざすという、ギルドでも経験のある簡易鑑定を受ける。

 ロトスが何か言いたげだったが黙って従った。ロトスも受ける。

 この水晶は精霊魂合水晶とも呼ばれている。実はシウもロトスも水晶の能力を騙すことができた。自分たちの状態ステータスを誤魔化せるのだ。

 案の定、表示は隠蔽されたもので出ててきた。けれど、門兵たちは「シウ=アクィラ」と表示されたものを見て安心している。

(なあ。俺、めっちゃ不安しかないんだけど。セキュリティがガバガバじゃん)

(そうだね)

(前の時も、キルクルスの顔パスだったじゃん。問題あるよな)

(竜人族を真似る人はいないって思ってるのかも。それとも管理門のようなものがあったりして)

(そんな魔法あったか?)

(……ないね)

 念話で話していると、門兵は中との連絡を終えてシウたちを村に迎え入れてくれた。

 門を抜けてもやはり何も感じない。

 以前来た時も思ったことだが、ひょっとすると彼等のアポストルス対策についてシウは過大評価しすぎているのかもしれない。

 これは一度要相談だなと考える。ロトスも渋い顔だ。

「精霊チェックとかできねえのかな」

「何それ」

「えー。この人セーフ、あいつアウト、みたいな」

 意味が分からない。シウはロトスを薄く見て、それから肩を竦めた。そもそもだ。

「精霊に細かい頼みごとはできないんじゃなかったっけ」

「あ、そうだったな」

「すぐに飽きそうだし」

「そうだったわ。クロと一緒に遊んでたな」

「きゅ?」

 クロが「なあに」と首を傾げる。ロトスはなんでもないよと笑って答え、クロを撫でていた。村の中では騎乗せず歩いているのだがクロは相変わらずブランカの上にロデオ状態だ。

「セキュリティゲート、作った方がいいんでね」

「ここまで来たら、もうそんな問題じゃないような気もするけどね」

「……まあ、ここ辺境も辺境だもんな。第一、見つかったら最後って感じだし」

「それより対策用の魔道具を渡した方が良さそう」

「あー、それな」

 話しているうちに、先に中央へ走って連絡に行った兵が戻ってきた。

「まず長老に会っていただけますか?」

「分かりました」

「あの……」

 鑑定しても人族としか出てこないレベルの兵がシウへ話しかけようとする。戸惑う素振りなので目を見ると、彼は目を伏せた。

「前に、来てもらった時に……。いろいろ失礼なことしてすみませんでした」

「あ、はい」

「あの、みんな後悔してて。あれから話し合って。高レベル者だけじゃなくて、わたしたち一般レベルの者も。考え違いとか、その。とにかく、また来ていただけて感謝してます。ありがとうございます!」

 噛みながらも一気に話し終えると、彼は「じゃあっ」と走り去ってしまった。

 シウがぽかんとしていたら、

「なんだ、あいつ。良い奴じゃん。な、シウ」

 と、ロトスが笑う。

「うん」

「いい感じになってきてんのかな」

「そうだといいね」

「へっへー。俺たちのお手柄じゃね?」

「そうだね」

「いや、そこは『僕のお手柄だよ!』とか言わないと」

「え、なんでさ。ロトスも頑張ったよね。水路とか」

「……へーい。分かったブラザー。オッケー。じゃあ、長老に会いに行こうか」

 よく分からないが、ロトスはいつもこうだ。シウは苦笑して彼の後に続いた。


 長老のいる中央の大きな屋敷へ入る頃には、数十人が集まっていた。

 嬉しそうな顔や緊張した顔がある。中には不安そうな顔もあって、一度や二度では信頼されないようだと感じた。それでも親しく話してくる者もいる。

 たとえばアンプルスなどだ。

「シウ様、よく来てくれました!」

 何故か「様付け」になっていた。シウは、やめてくれと手を振った。

「様は要らないから」

「いや、ですけど」

「竜人族からはソキウスと呼ばれてるんだ。つまり竜人族の仲間、同志ってことだよ。アンプルスたちは竜人族にそこまで畏まってる?」

 アンプルスや近くにいた兵たちが顔を見合わせ、曖昧に笑った。

「……シウ、でも俺たちは感謝してるんだ。そのことは覚えていてほしい」

 言い直したアンプルスの気持ちは十分伝わっている。シウは相手にも返した。

「うん。僕もあなたたちには感謝してる」

 巨大な魔獣を今でも封じ込めている、その作業を続けていることについてだ。

 アンプルスはまた笑って、それからシウを中へ案内してくれた。


 事前に連絡を入れられたら良いのだが、通信魔法は使えない。

 万が一、アポストルス側に傍受されたら怖いからだ。シウの考えた最上位の通信魔法超高性能通信を使うことも考えたが、前回いろいろやりすぎて突然すぎたので渡せなかった。彼等にとってシウたちは台風の目のようなものだっただろう。

 徐々に慣れてもらい、いずれは渡したいと考えている。ただ、今は――。

「突然お邪魔してすみません」

 いきなり来たことを謝るべきだ。彼等にとって突然の来訪者はストレスにしかならない。たとえゲハイムニスドルフのために行うことでも、過ぎた親切心というのは迷惑になる。

 だからこそ、徐々に親しくなっていく必要があった。

 彼等の活動を尊いと思っているからこそ、シウは手助けしたいと思う。

「竜人族へはガルエラドを通じて連絡は入れてましたが、こちらには難しかったので」

「ええ、分かっております。それに春頃に来てくださると聞いておりましたのでな。そろそろではないかと皆で話してました」

「そうですか」

 ヒラルスはにこりと笑うと、隣に立つグラキリスとプリスクスを見た。彼等も笑顔だ。最初に出会った時とは全く違う力の抜き方だった。それが何やら嬉しい。

「聞いてもらいたいこともありますし、お願いしたいこともあるのです」

「もちろん、一方的に頼むつもりはありません」

 グラキリスの言葉にプリスクスが被せるように早口で言う。シウは分かってると、頷いた。

 彼等がこれまで竜人族に対してどこか「やってもらって当たり前」だと思っていた部分は、きっと薄れているだろうと思っていた。シウとの会話でプリスクスは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。シウたちが辞する時にも決心をしていたようだった。そんな彼女だ。きっと、一方的に搾取するような物の考え方は改めていただろう。

 それをシウにも伝えたい。だからこそ慌てて告げたのだ。

 彼女の言葉だけで、この村で改革が進んでいることが理解できる。

「いろいろお話を聞いてみたいです」

 シウが告げると二人とも、いや長老を入れて三人が頷いた。


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