319 楽しい訓練、騎獣の未来




 その後の騎乗訓練は、とても上手くいった。

 騎乗帯を付ける意味についても、スウェイは理解した。

 そして、シウを積極的に乗せて飛ぶことで何故パートナーになれば「強く」なるのかを知った。

「ぐぎゃうっ!!」

 シウの指示に従うことで、針葉樹林の中でも早く飛ぶことができる。彼の目では捉えられない部分を補ってくれると分かったのだ。

 足場をどこにおけば、楽に反転できるか。何度も指示するうちに理解力も上がった。

 思う存分、ストレスなく飛べることにスウェイは喜んだ。

 フェレスが真横を、または前を、くるりと宙返りしながら後ろを取る。そんな飛び方にも喜びが芽生えたようだった。

 希少獣は、ただの獣とは違う。光り物が好きだし楽しいことが好きだ。遊ぶことも大好きだった。

 スウェイは、これまで生きるために生きていた。飛ぶということは魔獣や獣を狩るために必要なことだった。けれども、これは違う。

 そのことに彼は気付いた。

 シウはスウェイに乗って、それを感じた。フェレスに乗っている時もそうだが、直に触れていると彼等の気持ちが伝わってくる。調教魔法だとか、そんなものではない。不思議なことだけれど同じように感じる人も多い。

「スウェイ、楽しい?」

「ぐぎゃう!」

 楽しい、という感情に言葉を当てはめて彼は鳴いた。

「ぎゃうううっ!!」



 おやつの時間もスウェイはそわそわしていた。もっと飛びたい、もっと動き回りたいと思っているようだった。

 もちろん、美味しいおやつも食べたい。だから妙な格好で食べていた。後ろ足を蹴り上げるという……。

 人間組は微笑ましそうに彼を見ていた。


 希少獣組はそんなスウェイのことを、変なのー、といった様子で見ている。

 フェレスはシウを振り落としたスウェイのことを、ちょっとだけ気に入らないらしい。嫌いだとかではなく、なんとなく程度だ。

 ブランカは「あいつ、なに」と素っ気ない。同じニクスレオパルドスなので通じるものがあるのではないかと思ったが、発情期でないためか全く感じるものはないようだ。むしろフェレスに「気に入らない」と思われていることを知り、ふふーんと謎の上から目線である。彼女にとってフェレスはずっと「格好良い兄」であり「子分の親分」なのだろう。彼が白と言えば彼女にとっても白なのだ。

 クロは、どこか同情めいた視線だった。彼はコルと話をすることもあって、パートナーを得た希少獣は幸せだと聞かされている。野良希少獣に対して冷静に考えることができる賢さもあった。シウやロトスとの会話も聞いているので、孤独に生きてきたスウェイに対して思うところがあるのだろう。

 すぐに彼等が仲良くなるのは難しい。けれど、いずれ連れ帰りたい気持ちがシウにはあった。

 こんな何もない冬山に、ひとりぼっちにさせるのは悲しい。

 彼がただの獣ならば構わない。ユキヒョウは単独で生きるものだ。

 しかし、スウェイは希少獣だ。考える生き物だ。

 コルが長い放浪の末にアリスへと辿り着いた奇跡を思うと、スウェイにも光を見せてあげたいと思う。

 相手はシウでなくてもいい。


 そんなシウの気持ちにククールスは気付いたようだ。

「あー、俺さ、しばらくここで見張り番をしようかな」

 ウインクをしてシウに告げる。念話でも良いのにと内心で笑いながら頷いた。

「そうだね。まだしばらくは、この採掘現場を知らせなくても大丈夫だろうし。見張りがいるね」

「だよなー」

「じゃあ、テントや食事も置いていくから、ククールスに頼むね」

「おう」

「スウェイもね」

「……ぎゃ?」

 あ、自分の名前か、と気付いて顔を上げる。それから意味を理解しようと彼は考えていた。スウェイの瞳は理知的に、色を変えていく。

「しばらく、ククールスと一緒に、ここで番をしてほしいんだ。『仕事』なんだけど、お願いできるかな?」

 仕事というところに、誇り高き彼等の思いを込めてみた。

 はたして彼は。

「ぎゃうう」

 分かった、と答えた。

 シウは、いや皆も微笑みながらスウェイを見た。

「その仕事の間、訓練をしよう。面白い遊びも教えてあげる。食事も用意するからね。それが報酬だよ。分かる?」

「ぎゃ……」

「うん。だから、その間、ここにいて。そして、ククールスと『仕事』をしてくれる?」

「ぎゃ」

 アントレーネが母親のような優しい目で見ている。ククールスはなんだか気恥ずかしそうだ。柄にもないことをやっちまったと小声でぼやいている。ロトスは肩を竦めていた。

 フェレスたちは我関せずだ。ふーん、そうなのーという感じで、シウは笑う。

 そのうち彼等も仲良くなるだろう。

 なにしろ彼等は素直たる希少獣なのだから。




 翌日はレオンを連れて、また週末仕事をする。

 卵石が大きくなっているのでレオンは気が気ではないようだ。《転倒防止ピンチ》のことを知らないとはいえ、シウ以上に心配性である。でも、その気持ちが「当たり前」なのだと思う。レオンを見ていると、シウはホッとする。山賊の方が間違っていたのだと感じられるからだ。


 今回もキアヒたちと合同で仕事を受け、シアーナ街道へ向かった。見回りがてらの魔獣討伐と、今度は薬草の採取も同時に受けた。

 その間に話をしたが、キアヒたちは次の週からドレヴェス領へ行くという。

「もしかしてインセクトゥム迷宮?」

「そそ。あそこは温度が一定で、外にいるより暖かいらしいからな」

 キアヒの言葉に、シウは「ああ」と納得してラエティティアを見た。彼女は頭からすっぽりと分厚いコートに包まれている。カイロもあちこちに入れているらしいが、見た目が白いので寒々しい。

「そのコート、内側の布は羊毛?」

「いいえ。シルクよ。羊毛がいいのは分かってるけど、手触りには負けるもの」

 寒さより手触りなのか。エルフは身に着けるものにこだわりがあると聞いたこともあるので、納得しかけたのだが。

「でも、今度こそ打ち直してもらうわ」

「もしかして、元々は羊毛だった?」

「ええ。でも、ほら、シュタイバーンだとそんなに寒くないでしょう?」

 オシャレのために、わざわざ直したのだと聞いて苦笑しか出てこない。

 採取をしながら、シウはラエティティアに提案した。

「僕、ボンビクスだけの布地を持ってるんだけど」

「……高級品ね」

「あとで休憩の時に、合わせてみようか? そこに、保温の魔法を付与して――」

「お願い、やってちょうだい!」

 シウもびっくりするほどの早さで近付くと、ラエティティアは手を強く握ってきた。

「お金は払うわ。ね、いいわよね、キルヒ!」

「はいはい。お姫様」

 コートも装備品扱いらしく、パーティー全体の財布から出すらしい。

 シウから見れば、ラエティティアのコートは、どう考えても装備には見えないが。もう少し実用性に富んだものを着ればいいのにと思う。

 とはいえ、昔はシウの格好を変だとか田舎っぽいと言っていた彼女だ。お互いに相容れないところがあるだろう。


 休憩時に作業をしていると、ロトスたちも戻ってきた。

「おー、保温のやつ?」

「うん。寒そうだからね。ついでに、キアヒたちのコートにもやっとくよ」

 手触り云々を問わないのであれば、ボンビクスだけの布地じゃなくても構わない。もう少し配合の割合が低いお手頃価格のものもあるし、あるいはタグを付けて軽く温めるだけでもいい。

 が、やはり魔法が付与できるボンビクスだけの生地は違う。また、これを扱えるのはシウが高レベルの生産魔法持ちだからだ。手早く直した。

「便利だなー。一パーティーに一シウ。欲しいなー」

「やんねえから! 俺からシウを取るんじゃねえ!」

「ぶはは、なんだそれ!」

 キアヒとロトスがじゃれ合っているのを無視し、終わった服を各自に渡す。

 結界を張っているので、中は比較的暖かい。けれど、ラエティティアはコートを着たままだ。よくそんな状態で、オシャレを頑張ったなあと呆れてしまう。

 キルヒとグラディウスは共に、実用性のあるコートだったけれど、保温の付与で更に楽だと喜んでいた。キアヒはややラエティティア寄りだ。彼は女性にナンパするのが好きらしいし、オシャレにも気を遣うのだろう。

 シウたちがこんなことをしている間、昼の用意はレオンが一人でやっていた。アントレーネも手伝いはするが、彼女に料理センスはないらしく下準備だけだ。

 じゃれ合いに飽きたロトスが最終的に手伝っていたので、早めに出来上がった。

「ところで、今日はエルフの兄さんはいないのか?」

 食べながらキアヒが聞いてくるので、別件があってねと軽く答えた。

 グラディウスは相変わらずアントレーネに引っ付いている。二人とも真剣な顔をしているが、話の内容は「剣とは」「戦いとは」だ。

「ああ、そうだ。ここに戻ってくるの二週から四週ぐらいを予定してるんだけどさ。その頃に、あいつらの調教って済んでる?」

 キアヒが視線を向けたのは、今日も借り出してきた十五頭の騎獣のうちの四頭だ。

 シウがロトスを見ると、彼は頷いた。

「出来上がってるって」

「んじゃ、正式に貰い受けるってのはアリかな? もちろん正規の値段は払う」

 シウは頷いて、それから大事なことを伝えた。

「相性が合えばね? 彼等が望まないなら契約はしないよ」

 成り行きとはいえシウが引き取った騎獣たちだ。できれば幸せな獣生を歩んでほしい。

 来し方を知っているキアヒは、真面目な顔で了承した。

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