318 スウェイの訓練




 希少獣の嫌う禁止薬草については後で考えるとして、先にスウェイの教育だ。

「今日は飛び方の訓練と、騎乗もやってみよう」

「ぐぎゃ」

 人間を乗せるのは嫌らしい。即座に返事が来た。すると、ロトスが、

「お前、人間乗せると足手まといだと思ってんだろ。とんでもねーぞ」

「ぎゃ……」

 萎縮まではいかないものの、スウェイは少し顎を落として構えた。上目遣いに見えて、どこか可愛い。

 シウとククールスは黙って見ている。

「的確に指示してくれるから、こっちは全力で動ける。自分がどう動けばいいのか分かる。安心して任せられるんだぜ。自分の実力以上のものを引き出してくれるんだ。それって、強くなるってことだぞ」

「ぎゃ」

「俺、まだ生まれて一年と少しだけどな」

「ぎゃ!」

「おう、そうだよ。まだヒヨッコ、卵石の殻がついてる? それはいっか。とにかく、お前からすりゃガキもいいとこだ。でも、俺のが強い。それは聖獣だからだと思うか? 種族が違うからって諦めんのか?」

「ぐぎゃ」

「言っとくが、俺よりフェレスが強いからな?」

「ぐぎゃう!!」

「この間シウにあんだけ負けといて、まだ言うか。このやろ」

 威圧を強めたのか、スウェイが座ったまま後退る。尻尾がぺたんとなって少々可哀想だ。けれども、シウは黙っていた。

「お前も男だろ。一度やるっつったんだから、最後まで訓練頑張れや!」

「ぐぎゅう……」

「よっしゃ。んじゃ、やるぞ。そんな嫌々な顔すんな。どこの世界に得もないのに手助けしてくれる奴がいるんだよ。ったく。シウの天然さに感謝しろよ」

 え、それは褒め言葉ではないよね?

 シウは突っ込みたかったが、ふたりの様子に我慢した。

「シウに任せてたらいいんだよ。お前も素直に拾われたらいいのに、ったくよー」

「いや、それは――」

「シウも問答無用で連れ帰ったらいいんだよ。倒したんだからさー」

「……なんか怒ってる?」

(べっつにー)

 と返事が来て、ああそうか、と気付いた。彼は自分が拾われて良かったと告白したわけだ。それが照れ臭い。

 ククールスも気付いたらしい。シウと二人、顔を見合わせて笑う。

 シウは笑いながらロトスに告げた。

「飛び方の訓練は早めに終わらせて後は人間組とスウェイで頑張るよ。だから、午後から採掘してきて」

「……うん」

 どうやら真面目に語ったことで、ちょっと恥ずかしくなったらしい。ロトスは耳を赤くして頷いていた。


 ロトスは聖獣の中でも小型の方で、しかもまだ若いからスウェイと並ぶと子供と大人だ。

 けれど、同じ四足型なのでシウよりはずっと飛び方指南ができる。シウも飛行板を使いながら彼等を追いかけ追い抜き見ていたが、羨ましいぐらい自在に飛べていた。

 騎獣は聖獣ほど魔法を明確に使えない。本能で飛行を可能にしているところがある。身体強化も本能でやっている。だから理論的には理解していない。それでも上手く戦えるのは彼等の魔力が膨大だからだ。

 しかし、そこに少しでも考える力が加わればどうだろう。

 飛び方にも影響してくる。

 まっすぐ素直に飛ぶだけの動きだったものに、フェイントや急な方向転換などが増えるのだ。

 緩急をつけた飛行、丸く飛ぶ、斜めに移動する。足場を利用した反転方法だけでなく、フェレスが得意の風属性魔法による足場作りもロトスは見せていた。彼はまだ上手ではないが、スウェイからすれば目からウロコらしかった。

 訓練を終える頃にはロトスのことを神様か何かのように尊敬の念を抱いていたようだ。


 食後、ロトスとフェレスが交代し、スウェイと騎乗の訓練を始めた。

 フェレスにはククールスが乗る。それを見本にシウがスウェイに乗るのだが――。

「にゃー。にゃにゃにゃにゃ」

 えー、ふぇれにのらないのー、とフェレスが嫉妬を見せた。

 ブランカに乗っても、十五頭の騎獣たちに乗っても言わなかったのに。

「嫌なの?」

「に」

「どうしたの? 一の子分はフェレスだって言ってるよね?」

「に」

 ぷん、と横を向く。尻尾はゆらゆら揺れており、耳はこちらに向いている。本気で怒っているわけではない。彼のこれは甘えだ。

 スウェイは何やら驚いたような気配を見せていたが、そちらは気にせずフェレスに向き合う。

「僕のパートナーはフェレスだよ。大好きだからね」

 顔をもみもみして、首から顎にかけてのクルクル毛をわしゃわしゃと撫でる。

「フェレスのすごいところを、あの子に教えてあげようとしただけなんだけどなー」

「にゃ?」

「そうだよ。ククールスだとフェレスのすごさを教えられないでしょ? 僕が一番知ってるよね?」

「にゃ」

 むふ、と鼻息が荒い。機嫌が治ってきた証拠だ。

「スウェイが上手に人を乗せられるようになったら、それはフェレスのおかげだねえ」

「にゃ!」

「フェレス、早いもんね。あの子に教えてあげたくない?」

「にゃにゃ! にゃにゃにゃ!!」

 やる気になってくれたようだ。

 何故か、フェレスに乗っていたククールスが呆れた顔だが。

「にゃん!」

 張り切って、いくよ! と言い出したので、シウはスウェイに飛び乗った。ビクッとしたスウェイだったが振り落とすことはない。

 裸のまま、騎乗帯も付けずに乗ったのは、まずは人を乗せた感覚を感じてもらうためだ。落とす可能性もある、ということを知ってもらう。

 スウェイはわけもわからないまま、フェレスの「ついてこい」という偉そうな命令に従い飛んだ。

 勢いよく飛び上がったため、シウでなければ反動で落とされただろう。けれど足で固定し、首に掴まって密着した。

 スウェイは気持ち悪そうだった。苦しいわけではないようだが、首元を掴まれて本能的に嫌がっている。

 また、先を行くフェレスが意外にも早いと気付いて焦っているようだった。

 上にシウを乗せているということをすぐ忘れてしまったほどだ。

 フェレスが針葉樹林の間をすり抜けようと変化球のように曲がって飛んでいく。その後を追っていたスウェイはもちろん騎乗者のことなど考えず飛ぶ。おかげでシウは吹っ飛んだ。

 さすがに本獣も「しまった」と思ったらしい。慌てて止まろうとしたものの、フェレスのようにピタリとは止まれなかった。反動があり、雪の積もった地面に激突する。

 フェレスはといえば、振り返って「にゃ!!」と驚いていた。彼の驚きはスウェイにではない。シウが落ちたことに対してだ。フェレスは「シウが落ちる」ということに敏感だ。

 以前、落下防止用安全対策として作った、その名も《落下用安全球材》の魔道具作りの実験では大変だった。実験なので高い場所からシウ自身が落ちようとしたのだが、何度やっても彼に止められるのだ。それももちろん主への愛ゆえだから叱るに叱れない。

 この時の件ではキリクにも十分叱られたので、反省はしている。

 今回は不可抗力だ。飛ばされるだろうと思っていたし落ちるつもりではいたが。

「にゃーっ」

 慌てて飛んできてシウの様子を確認するフェレスに、シウはなんとも言えない顔になる。あまりに真剣なので、嬉しいと思ってしまう顔を見せられない。

 我慢して渋い顔付きを作ったものの、フェレスの上に乗っていたククールスにはバレていたようだ。

「さっさと立ち上がってやれって。人が悪いなー」

「ごめんごめん」

 どちらにともなく謝って、シウは雪をかき分け起き上がった。ふっ飛ばされた場所が雪の深い場所だったこともあり怪我はない。シウはこれで頑丈だし、ギフトのおかげで怪我をしてもすぐに治る。痛いのが好きなわけではないから、いつも防御はしているが、今回は雪だったこともあって突っ込んだ。

「フェレス、大丈夫だからね」

「にゃーにゃー」

「うんうん、ありがとね」

 フェレスもそれほど心配だったわけではない。シウが怪我をしていないことはすぐ理解した。ただ、やはり「落ちた」ということがショックだったのだ。シウは罪悪感で困ってしまった。

 ククールスは、そんなことも分かっていて「あーあ」とからかう調子だ。

「大丈夫なんだよー。ちょっとね、雪に突っ込みたかっただけなんだ」

「にゃ?」

 そうなの? と半信半疑っぽい。シウはフェレスの顔をぐしゃぐしゃと撫で回して丸め込むことにした。

「そうそう。雪に突っ込むの、楽しいよね~? ね?」

「にゃん!」

 たのしい! と言い始めたのでシウはホッとした。


 さて、スウェイはどうなったかというと。

 彼なりに反省しているようだった。

 シウ自身のことは「大事な主」だなんて思っていないが、ロトスから散々「命の恩人」だと聞かされている。しかも目の前で自分と同じ騎獣のフェレスが、スウェイにも分かるほど慌てていた。心配で不安、という気持ちをひしひしを感じ、その原因が自分だと分かり――。

 スウェイは悄然と目の前にやって来るや、シウとフェレスに「すまない」と告げたのだった。




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予約投稿の日時間違えてました……



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