317 今度は全員で




 まだ採掘したいというロトスを宥めてイェーダーへ戻り、鉱山ギルドに下山届けを出した。

 何も見付けられなかっただろうと職員に笑われたので、

「また明後日来ます」

 と告げたら、物好きだなと大笑いだ。金貨二枚も払ってまた来るのかと、大いに楽しそうだった。


 それから急いで宿を取った。

 騎獣と共に泊まれる離れで一軒家に近い。宿の者には誰も入らないよう告げた。そうした客は多いらしく「食事の用意も自分たちで済ます」という言葉に疑うことなく了承された。

 多少、勿体無い気がしないでもないが何度も出入りするのに宿を取っていないのは不自然だ。これも必要経費と思うしかない。

「シウは金持ちなのに変なところでケチくさいよな」

「何度も言わなくてもいいんだよ?」

「ぶはは。ま、俺も分かるけどさ。使ってない部屋の宿泊料払うの、嫌だわ」

「だったら、ここに残る?」

「……や、ほら、俺も子分の勉強を見てやるっつう仕事があってだな」

 ロトスはまだ少し、一人行動が怖いようだった。




 金の日は授業があるため、その翌日にまたシアン国へ行く。

 この日はアントレーネとククールスも一緒だった。

 野良希少獣がどんなものか、見てみたいということだ。

 シアン国で活動していれば、同じようなことに出会う可能性も高い。特にククールスは護衛仕事でシアンへ来ることが多いので気になったようだ。


 アントレーネたちをイェーダーの外へ一旦転移で下ろすと、シウたちは宿の離れへ直接転移した。

 そこから宿を出て鉱山ギルドの前で待ち合わせる。

 ギルドの職員は「物好きがまた来た」と言い、しかも仲間を連れてきたのかと呆れ顔だ。

「あんたら、付き添いかね? 可哀想になぁ。こんな冬の鉱山へ連れてこられるなんざ」

 どうやら若様とそのお付き、という想像が出来上がっているようだ。アントレーネもククールスも見るからに冒険者姿なので、護衛だと思ったのだろう。

 シウは苦笑しつつ入山許可をもらった。

「あまり無茶するんじゃないぞ。帰りが遅いと一応迎えを寄越すこともできるが、温度が下がりすぎると救助隊は出せないからな?」

「はい。ありがとう。でも、迎えは結構です。こちらにはそれなりの装備もありますし騎獣持ちですから」

 職員は「そうかい」と納得いかないような顔をしながら、受け付けてくれた。


 土の家へ到着すると、スウェイがのそりと顔を出した。

 一昨日よりも随分と元気になっている。栄養たっぷりの食事を摂ったからだろう。

「ぎゃうっ」

 新たに増えた人間二人を警戒しているようだったが、シウが紹介すると渋々受け入れていた。

「とりあえず、採掘にはロトスたちだけで行く?」

 物足りなかっただろうと思って聞いてみたのだが、ロトスは首を横に振った。

「あー、俺もこっちにいる。兄貴もいるだろ」

「そうだなぁ。野良希少獣がどんなもんか、まずは見たいしな」

「じゃあ、あたしはこの子らと一緒に行ってるよ。採掘なんてやったことないから楽しそうだしね」

 アントレーネはピックやハンマーを手に、何やら嬉しそうだ。薬草類の採取は嫌いなのに採掘は楽しいのだろうか。不思議に思いながら、シウは皆を見送った。

「さて、と。食事はちゃんと分けて食べた?」

 スウェイに向かって聞くと、

「……ぎゃ」

 目を逸らしたので、シウは笑った。希少獣に限らず、頭の良い獣は意外とこうした顔をする。面白いものだ。

「じゃあ、今朝はお腹が空いたんじゃない?」

「ぎゃ」

「先に朝ご飯にしようか」

「ぎゃうっ!!」

 美味しいご飯には逆らえないようだった。


 朝ご飯の後すぐに動くのもどうかと思い、少しだけ話をする。

 ククールスはエルフという素養があるせいか、なんだかんだで希少獣の言葉を理解してきており、黙って聞き耳を立てていた。

 会話は主にシウが行うが、時折ニュアンスが通じない時など、ロトスが間に入った。聖獣である彼に話を振られると、スウェイは少し萎縮するような雰囲気が見られた。けれども、先日のような伏せをするほどではなくなっている。かなりロトスに慣れてきたようだ。

「じゃあ、やっぱりそれは盗賊だったんだ。射掛けられて、よく逃げられたね」

「ぎゃう」

「鑑定してみたけど、後遺症というほどの怪我はなくて良かったよ」

「ぎゃ?」

 意味が分からなかったらしいスウェイに、ロトスが助けを入れる。

「あー、ほら、怪我した後はちゃんと歩けなかっただろ? それが長く続くことだよ」

「ぎゃ」

(うちの奴等にも尻尾を切り落とされたのがいるしなー。ほんと、あいつら、ろくなことしねえ)

 ロトスが念話で告げる。奴等とは、騎獣十五頭を所持していた山賊たちのことだ。

 スウェイは、どうやらこの山賊に攫われかけた経験があるようだった。

「なあ、シウよ。そいつ、スウェイにさ、聞いてくれよ。奴等が卵石も持っていたのかって」

 ククールスの言葉に、スウェイはほぼ理解を示して、シウの通訳なしに答えてくれた。

「ぎゃうぎゃうぎゃううう」

 ククールスにも伝わったろうが、シウはスウェイの言葉を告げた。

「分からないみたいだね。大勢で取り囲んで、嫌な匂いを撒いていたそうだからそれどころじゃなかったらしいけど」

「嫌な匂いってなんだ?」

 ククールスの言葉にシウは頷いた。

「前にルシエラ王都の薬師ギルドでも問題になったんだけど、騎獣が嫌う薬草っていうのがあるんだ。それかもしれない」

「そんなものが出回ってるのか」

 以前、アイスベルクで一緒に活動した冒険者が、持っていたこともある。彼は魔獣避けの薬草と言われて知らずに買っていた。

 後々、その売った店は営業停止処分になったようだが、薬は持ち込みだったと判明している。薬師ギルドでは数が少なかったこともあって、ただのミスとして処理したようだ。

 しかし、どうやら違うらしい。

「ウェルティーゴって薬草なんだ。それ自体は麻酔薬の一種だったんだけど、今はほとんど使われてない。特にラトリシアでは劇物指定にされてるね。希少獣が嫌がるから」

「そうなのか」

 他の国でも、希少獣に関する取り決めとして使用禁止指定になっている。

 つまり、廃れているウェルティーゴという植物に目を付けて、わざわざ使う必要はない。麻酔薬用の植物は他にいくらでも存在している。これでないといけない理由はなかった。

「これ、燃やすと特に危険なんだ。臭いもきついけど目眩を起こして吐き気を催す。薬師ギルドに提出したものを鑑定したけど、一見魔獣避けになりそうなところがまた、厭らしいんだよね」

「手の込んだことをしやがるな」

「誰か、希少獣に詳しい研究者が作って盗賊なんかに売りつけてるのかな」

「この間の山賊どもは使ってなかったよな?」

「うん。没収した中にも、それらしいものはなかったね」

 ということは、彼等が作ったわけではない。やはり買ったのだ。

「そういうものを使って、卵石以外の騎獣は手に入れてたのかも。スウェイはニクスレオパルドスだから、逃げられたんだろうね」

 スウェイはシウたちの会話のほとんどは理解できなかったようだが、最後の台詞だけには反応していた。ニクスレオパルドスという言葉に込めた「上位騎獣」という意味に気付いたからだ。

 山賊の持つ騎獣にフェンリルが多かったのも、そのためだろう。

 騎獣の上位種であるティグリスの姿がなかったことも頷ける。

「卵石も村人から奪った可能性あるよね」

「そんな薬を使うぐらいだからな。でもって、村人も役人には言えんだろう。何故すぐに提出しなかったんだ、ってことになるもんな」

「シアンって、思った以上に卵石の保護がされてないね」

「な。こんな格好良いのが生まれてくるのによ」

 そう言うと、ククールスは眩しそうにスウェイを見た。左目の横に斜めに付けられた傷跡がある。それが彼を厳つく見せているようだ。シウからすれば、可愛いニクスレオパルドスだけれど。

「スウェイ、格好良いんだって。分かる?」

「……ぐぎゃ」

 分からないと答えたが、感覚的には分かっているはずだ。その証拠に、どこかそわそわしている。

 彼が生き残ったのは、強かったからだ。そのことに自負もある。その強かったということこそ、格好良いということである。

 生き様を褒められたことに、彼は初めての感情を抱いた。

 そんな気がする。

 シウは、スウェイが成長していく様を見られて良かったと思った。





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コミカライズ版が、27日に公開されます。

yui先生の描く可愛いシウとフェレスをどうぞよろしくおねがいします。

 ニコニコ静画→http://seiga.nicovideo.jp/comic/35332?track=list

 コミックウォーカー→https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02200433010000_68/


ふっふっふ!

(ネタバレしたら読者様に悪いのでぐっと我慢の子であります)






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