305 ひとり行動、再会の行方





 長く話したが夕方には辞することにした。

 飲みに行こうと言われたものの、シウにも事情がある。騎獣十五頭の件を話すと、それもそうかと皆が納得してくれた。

「俺たちはしばらくルシエラにいるつもりだ。今度、見に行くよ」

「ねえ、今度こそ一緒に仕事をしましょうよ」

 キアヒとラエティティアに言われて、シウはどちらにも頷いた。シウも仲間を紹介したい。

 冬のルシエラを楽しむというので、まだ時間はたくさんある。

 シウは木漏れ日亭を出て、養育院へと向かった。



 養育院へ行くとプリュムはもう帰った後で、ロトスがぽつんと待っていた。

「ごめん、遅くなった」

「それはいいんだけどさー。俺、ひょっとして、お付きがいないと出歩けない箱入りだと思われたんじゃないかなー」

「そうなの?」

 プリュムは騎士や護衛と共に馬車で戻っていったという。ロトスを屋敷まで送っていこうかと提案もあったようだ。

「俺が、シウが来るから待ってる、って言ったばっかりに……」

 そう言うと微妙な表情になる。へこんでいるらしい。

「なーんか、生暖かい視線がこっちへ寄せられたんだよなー」

「プリュムに?」

「や、あいつは『シウと一緒に帰るんだーいいねー』ってお花畑ちゃんだった。じゃなくて、騎士とかが」

 それで何やら思うものがあったようだ。

 歩きながら、決心した! と拳を固めて宣言する。

「俺、明日から一人で養育院行くぞ!」

「うん」

「……フェレスもブランカも連れてかないぞ?」

「うん、いいんじゃないかな」

「クロもだけど?」

「え、うん」

 答えてから、隣を見て笑う。

「おとなになったんだし、ロトスは自分で思うよりずっと強いよ。しっかりしてきてる。魔法も使えるし、いざとなったら転変でもして逃げたらいい。大丈夫だって」

「……まあ、そうだよな!」

 これまで、まるで護衛のようにフェレスたちが付いていた。

 でも本当は必要ないのだ。

 もちろん経験は乏しい。

 けれど、彼は成獣であり立派な聖獣なのだから。

 そして、野良でもない。

 表立っては言えないがシウと誓約も交わしている。万が一、彼が生まれた地のウルティムス国にバレたとしても、もはや介入の余地はないのだ。

 もちろん、ウルティムスは乱暴で危険な国だし常識が通用しない国でもある。

 見つかってしまえば、どんな無理難題を言い出すかは分からない。

 でも、見つかりようがないのだ。

 幼獣のうちに逃してしまった聖獣が、黒の森の近くでどうなるかは火を見るより明らかだった。

 それぐらいの想像力は働くはずだし、彼等が捨てようとした命をシウが拾い上げたのだから文句は言わせない。ましてや、ロトスはもう成獣だ。彼が決めたことに誰も口出しはできない。

「大丈夫だよ」

「うん。まあ、ここ、王都だしな!」

「そうそう」

「んじゃ、明日からは一人で来ようっと」

 改めて宣言し、ロトスは足早に屋敷へ行ってしまった。



 そんな宣言もあったのだが翌日はシウの学校が休みであり、平日だからギルドの仕事は受けるつもりがない。

 つまり、暇だったフェレスたちを含めて一緒に養育院へ行くことになった。

「俺の昨日の宣言は一体……」

 複雑な顔をしながらも、ロトスはブランカの手綱を引いて歩く。

「まあまあ。今日は顔合わせをしときたいしさ」

「フェレスたち? そういや、プリュムが会いたがってたな」

 なんだかんだで彼は一日でプリュムと仲良くなったらしい。ロトスいわく「箱入りの天然ボーイ」らしいプリュムは、養育院では生き生きと過ごしているらしかった。

 段々と来院の時間が早まっており、その日もシウたちが到着したと同時にやって来た。

 希少獣は「仕事したがり」だ。聖獣のプリュムも例に漏れず、仕事ができて嬉しいのだろう。


 さて、そのプリュムはフェレスを見付けて文字通り飛んできた。

 門の中だったとはいえ、いきなり転変してからの飛行だったので、お付きの近衛騎士や護衛たちは呆気に取られている。御者もギョッとした顔で見ていた。

 プリュムにとって、フェレスは憧れのお兄さん的存在なのかもしれない。

 幼い頃のプリュムが逃げ惑い、茂みに隠れていた時、フェレスは立派にシウを乗せていた。その後も、フェレスはプリュムとスヴェルダたち一行を助けるように飛行を続けた。

 今は体格も逆転して見下ろす格好となっているが、プリュムにすれば恩人(獣)のひとりなのだ。

「きゅぃん、ひん、ひひん、きゅふ!」

 小さい頃は「きゅぃきゅぃ」と可愛い声だったのだが、モノケロース、つまり一角獣だけあって馬のような鳴き声に近い。プリュムは、甘い声と野太い馬の声が混ざったような独特の鳴き声をしている。

 飛竜大会やシュタイバーン国で見たモノケロースと比べると、じゃっかん可愛い喋りをするようだ。個体差があると聞いたこともあるので、シウは面白いなと思うだけだったが――。

(なあ、なんでプリュムって聖獣姿でもあんな感じなんだ?)

 と、ロトスから突っ込みが入る。

 しようがないのでシウも念話で返す。

(何が?)

(シウには分かんないのかもしんないけどさ。きゅふ、って、めっちゃ可愛い言葉だから『雄』が鳴いてるのは奇妙なんだぞ?)

(あー、うん。ニュアンスは分かる)

(やべえな。小さい頃は、これで良かったんだろうけど)

(いいんじゃない? 聖獣なんだし)

(なんだそりゃ。聖獣ってのは、なんでもありなんか! 万国博覧会!)

(ごめん、それ、意味わかんない)

(俺も分かんねえよ!)

 何やら楽しげに伝えてくると、ロトスは希少獣たちの会話に交ざった。

 微妙なやり取りでプリュムが困惑しかけていたからだろう。基本的にロトスは優しい子なのだ。

「あのな、フェレス。お前、こんだけ好き好き言われてんだから『ふぇれも~』ぐらい言ってやれ」

「にゃ?」

「それとな、ブランカ。お前はややこしいから交ざるんじゃない。賢くお座りして待ってろ。いいな?」

「ぎゃぅぅ」

「クロを見習え。クロ、お前はもっとはっちゃけろ。あ、いや、踊れって言ってんじゃない。躍るのは面白いけど、それは今じゃないんだ」

「きゅぃ」

「で、最後にプリュム。お前は、相手が騎獣だってことを思い出せ。それも、野良騎獣十五頭をだ。あいつら、いまだにお前の名前を覚えてないだろ? 普通はそういうもんだ。つまりな? 数年前に一度しか会ってない相手のことを覚えていると思うんじゃねえ、ってことよ」

「きゅひぃぃん」

「だって、じゃない。フェレスの頭の中は、八割がシウのことだけだ。いや、七割かな? 待てよ、六割かもしんないけど。まあとにかく、それぐらいでな。残りが食べ物のことと宝物で占められているんだ。一割ぐらいは子分も占めてるかな? そんなわけで、過去に何があったかとか、どうでもいいの」

 何やら、ひどい言い草だが、当たらずといえども遠からずだと思ってシウは黙って頷いた。

 すると、プリュムが衝撃を受けたかのように一歩二歩後退る。そして転変するや、身なりを整えた。きちんと服も着ていて偉い。

「ま、そんなショック受けるなよ。助けてもらって嬉しかったって気持ちは、プリュムの中で大事に持ってりゃいいもんじゃん。な?」

「う、うん。そうする」

「フェレスに悪気はないんだからさ。たまーに覚えてることもあるぞ。食べ物が絡んでると覚えてる確率高いわ」

 それもひどい言われようだが、やっぱり当たっている気がする。

 ちなみに、フェレスは自分の話題だというのに他人事だ。相手が聖獣だろうと気にしない。こういうところは大物というのか、いや天然だと言えばいいのか。

 もっと大物なのはブランカで、話まだー? という顔をして彼等を見ている。

 さすがにだらけた格好をしないのは、ここが外だからだ。

 調教訓練の甲斐あって、しっかりとお座りしている。ただ尻尾が「つまらないなー」と言っているかのようにピコピコ動いていた。

 クロが時折巻き込まれかけて飛び上がるぐらいで、見ていて面白いのでシウはジッと黙って待っている。


 後になって、本来はシウがプリュムを慰めるのが筋だろうとロトスに言われてしまった。

 でも、何か言う前にロトスがシウへ念話を送ってきたのではないか。そう思ったが、彼の言うことももっともなので、素直に謝ったのだった。




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