304 会わなかった間の出来事




 三人からは矢継ぎ早に質問され、時々グラディウスから、

「それはどれぐらいの大きさなんだ?」

 だとか、

「剣で切り倒せるのか」

 という確認は入ったものの、おおむね説明は順調に進んだ。

 シウの活躍というよりは、結果的にキリクの武勇伝になったのだが、それでも大いに彼等の知りたいという欲求を満足させられたようだった。


 シウが話したのは、シアーナ街道近くまでやってきた大型魔獣グラキエースギガスの討伐や、角牛狩りのことだ。

 他にも隊商を助けた話題は最新ほやほやで、キアヒたちにも受けた。なにしろ得たものが得たものだ。

 シウが希少獣を三頭持っていることは知っていた彼等も、ここに来て一気に増えたことを知り呆れている。とんでもない運の持ち主だ、ということらしい。

「でも、いるのよね。そういう人」

「ああ、ティアがよく言うアレな」

 キアヒが苦笑しつつ肩を竦める。彼は、まだ昼間だと言うのにお酒を飲んでいた。今日はもう仕事にならないからと嘯いて、椅子に座るや頼んでいたのだ。

「ものすごく運の良い人。そういう人って、いろんなものを引き寄せるのよ」

「『神に愛された』って付けられるやつだね」

 キルヒがシウを見て笑う。でも、あまり笑えない話だ。シウは曖昧に笑って誤魔化した。なにしろ、実際に神様から目を付けられている。

「でもね、それは人が集まるからなのよ?」

「人が?」

「そうよ。人が集まるからこそ、物も集まるわ。自然と引き寄せちゃうのね。では何故、人が集まるのかしら?」

 シウが黙ると、キルヒが意味深に笑う。そして――

「好かれてるってことだろうね」

 そう、告げた。キアヒがニヤニヤ笑い、グラディウスはリンゴを口いっぱいに頬張りながら何度も頷く。

「シウ。あなた、人にも愛されてるのね」

 そう言われると照れてしまうシウだった。


 シウ自身は分からないのだがラエティティアに言わせると「精霊に愛されている」と思えるほど、精霊たちはシウのことを好んでいるそうだ。

 常にべったりしているわけではないらしいが、遠巻きに「あのこ、すき」と言っているらしい。

 遠巻きの理由までは分からないそうだ。

 ふと、まさかフェレスたちのせいではないかと考えたが、頭を振る。彼等のせいにしては可哀想だ。虫か何かだと思って前足で叩き落とそうとしているらしいから、もしやと思ったが。それよりも、シウは未だに幽霊を見たことがない。きっと、そういうものなのだ。そういう体質なのだと諦めるしかない。



 話は尽きず、彼等の辿ってきた旅路も教えてもらう。

 オスカリウス家の騎士たちと仲良くなり、彼等の伝手でアルウス地下迷宮へ潜っていたこと。最深部へ到達する前に、エルノワ山脈で野生の飛竜狩りの話が飛び込んできたから急遽向かったこと。

 その後はエルノワ山脈から流れ出るハルハサン大河を西に下り、レトリア領で「荒稼ぎ」したことなどだ。

 キアヒいわく「ウルティムスへも、ちょいちょい足を伸ばした」らしい。

「よく、あんな危険な国へ行ったね」

 戦闘民族とも呼ばれる国だ。黒の森に接していながら、それを良しとするような国である。もっとも、そこにお宝があると確信しているからこその動機なのだろうと、シウは推測しているのだが。

「行くつもりはなかったんだけどな。レトリア領とリスティヒ国が接しているだろう? 商人の行き来が多いんだ。その護衛でな。って、シウは、リスティヒ国のことは知ってるか?」

「商売に長けた獣人族の多い国だよね。それぐらいなら知ってるよ」

「そうか。まあ、当たってるな。あそこは小国群の中じゃあ、発展してる方だ。シュタイバーンとの取り引きを一手に引き受けているから、出入りも激しい。俺たちは、その護衛だな」

 リスティヒ国は狐人族が多く、その見た目や商人としての手腕から、狡猾だと揶揄されてきた。国名もそれが由来らしい。自分たちで付けたのか人族が決めたのかは分からないが、今まで使っているところを見ると強かである。

 このリスティヒ国の北側にウルティムス国がある。

 戦闘的なウルティムス国と接していながら、国として自立しているのだ。政治手腕が高いのだろうと言われている。

「あそこの交易路は、かなり行き来したぞ。ウルティムスへもな。ちょっくら足を伸ばしてウルティムスからオスカリウス領への道も通ったが、がっちがちの防衛線が引いてあって驚いたよ」

「度々、揉めるんだって。犯罪者が通ることも多いらしいし」

 シウがキリクから聞いた話をすると、キアヒとキルヒは顔を見合わせた。口を開いたのはキアヒだ。

「お前にちょっかい出していたソフィアってのも、ウルティムスへ抜けたらしいな」

「……知ってるの?」

「国境付近のギルドじゃ、指名手配の張り紙がすごいことになってるよ。向こうのギルドにゃ、ないがね」

「え、そうなんだ」

 シウが驚くと、キアヒが苦笑する。

「冒険者ギルドが大陸内で協力しあってるといっても、小国群はまた別だからな。おかげで、リスティヒではロカ貨幣を両替しないと、大変なんだ」

 ギルドでお金を預けていても、国を跨げばまた別のものになる。級数などは通用するのだが、預金については管理できないからだ。更に小国群となると、完全に組織が違うのだろう。

 貨幣も違うのだから、考えたら当然のことだ。

「そういうわけで、その女は大手を振って逃げていられるというわけだ。あ、これはオスカリウスの竜騎士にも伝言したが、そいつが抜けた道が分かったぞ」

「さっきの、オスカリウス領の道じゃないってこと?」

 キアヒは頷いて、キルヒに視線を向けた。彼が説明するらしい。

「オスカリウスとレトリアの間に、ラストっていう小さい領があるのを知ってる?」

「うん」

「あそこに道が作られてるみたいだね。ウルティムス側から。シュタイバーンの国境付近では道を隠しているけど、獣道を幾つも用意してる。戦争の準備ってほどではなさそうだけど、念のため知らせておいたよ」

 どうやら、その道をソフィアは抜けていったらしい。

 彼等が言うには、オスカリウス領から抜ける道は検問が厳しいそうだ。国境もかなり頑丈にできている。これは、黒の森が近いことから伸ばしたもので、結果的に国境を守ることになった。

「レトリア側は大きな交易路だ。大事な飯の種だから、リスティヒ国もレトリア領も、見回りはきっちりしている。厳戒態勢と言っても良い。で、ラスト領が狙われたってわけだ」

 キアヒたちによると、ラスト領は手が回っておらず、密入国のほとんどがそこではないかと断言した。

 それらも含めて、親しくなった竜騎士へ伝言したそうだ。

 シウも情報を口にした。

「噂だと、今はハントヴェルカー国を抜けて更に西へ向かっているそうだよ」

 ソフィアの情報に、キアヒが頷いた。

「案外、迂回してロキあたりに入ってるかもな」

「ロキ国か……」

 一度行ってみたい国なのだ。獣人族が多種多様に暮らす国で、フェデラル国の西にある。人族との垣根も低く、政治も合議制で上手く回っていると学校では習った。

 小国群からは南に位置するが、長く統治されてきているので、大陸内では名前を覚えられている国でもある。

 小国群は入れ替わりが早く、国境線も頻繁に変更されるため、大陸内部の大国からは認められていない。大陸会議というものが数年に一度開かれるそうだが、それに小国群が呼ばれることはないそうだ。

 ロキ国は大陸会議にも出席するので、小国群とは一線を画している。

「行ってみたいなー」

「お、冒険だな!」

 途端にキアヒが喜びだした。

 ソフィアの話題になってから皆が厳しい顔付きだったので、話題が変わって良かったのかもしれない。

「ロキ国もそうだけど、ハントヴェルカー国にも行きたいんだ」

 シウの言葉に、キアヒがまた渋い顔になる。

「あそこは入るのが難しいって聞くぞ」

「職人の国だね。確か、審査が厳しすぎるって、俺も聞いた」

「そうよねえ」

 キルヒとラエティティアも頷いている。しかし、シウには秘策があるのだ。

「大丈夫。知り合いのドワーフのお婆さんに聞いたんだけど、一行にドワーフがいると審査が早まるんだって。それに、その人が紹介状も書いてくれるって」

「おおー! そりゃあすごい!」

「シウ、あなた、着実に人脈を広げてるのね」

 褒められて、シウは照れながら頭を掻いた。


 ところで、こういう話の時にはグラディウスはあまり喋らない。

 ふんふんと皆の話を聞いているようで、たぶん、聞いていないのだ。ほぼ、何か食べている。そんなに食べて太らないのかと心配になるが、燃費が悪いか普段のカロリー消費が激しいか、なのだろう。

 以前は心配になったものだが、今となっては彼の大食いも懐かしい。

 つい、シウがジッと見ていたせいか、グラディウスが気付いて言い訳してきた。

「いや! ちゃんと野菜も食べているんだ! 今はほら、昼間だから!」

 ちゃんとシウの言葉を覚えていたようだ。

「何も言ってないのに。でも、パンだけじゃなくて肉と野菜も満遍なく食べてるんなら健康に良いよ。体を作るのはパンと肉だけじゃないからね」

「あ、ああ! 分かってる! 分かってるとも!」

「グラディウス、あなた煩いわよ。もう」

 ラエティティアに睨まれながらも、グラディウスは大きな声で続けた。

「いや、シウのおかげで体の調子も良いんだ! 野菜は大事だな! おかげで、快食快便だ!」

 はははっ、と大きく笑うので、食堂の入り口で微笑ましく見ていた執事の顔から笑みが消えていた。

 もちろん、ラエティティアの顔からもだ。


 ちなみに、キアヒとキルヒは共に大笑いである。

 シウはラエティティアの手前、苦笑するに留めたのだった。

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