302 ロトスとプリュムと野生児たち




 水の日の生産科の授業を休んだシウは、ロトスと共にまずは養育院へ足を運んだ。

 しばらく待っていると、プリュムがお付きの人たちと共にやって来た。普通に、馬車に乗って、人型で。

「あー、そりゃそうか。聖獣姿だと目立つもんなー」

 と、ロトスがシウの横で小声で言う。

 ただ、それはおかしい。

「人型でも、あんなに真っ白だと目立つよ」

「それな。俺、マジで普通で良かった。……イケメンだけは隠せないけど」

「はいはい」

「最近のシウのスルーっぷりが、嬉しいような悲しいような」

「ほら、もう余計なこと言ってたら、笑われるよ」

(いや、その言い方はないんでない? 俺はお子様かよ。……まだ一歳ちょっとのお子様だけどさー)

 自分で言ったことに「くくく」と笑っているロトスは無視して、シウはプリュムと挨拶した。

「毎日来てくれてるんだってね。ありがとう。お疲れ様」

「ううん。楽しいよ」

「カリンは今日は来てないんだ?」

「もう、僕だけでも大丈夫だろうって。シウに、くれぐれもよろしく、って言ってた」

「そうなんだ。あ、プリュム、紹介させてくれるかな」

「うん!」

 プリュムも馬車を降りた時から、ずっとロトスが気になっているようだった。

 目が輝いている。

 今日は特に認識阻害を強めにしているが、相手は聖獣だ。何かしら感じるところがあるようだ。

「こんにちは! 僕、プリュムっていいます」

「あ、ああ。俺、ロトス。よろしくな」

「よろしく!」

(何、この人。めっちゃキラキラオーラがすごいんですけど)

 ロトスが念話で告げる。確かにプリュムは純粋オーラがすごい。まっすぐ育ったのだなと思う、聖獣らしい聖獣だ。

 ただ。

(騎獣レースでも人型の聖獣見たことあるけど、こいつ、がたいが良すぎじゃね? 何、あの筋肉モリモリっぽい感じ)

「まあまあ。そこはいいよ。それより、念話禁止ね」

「ほーい」

「念話? 念話できるの? すごいね。僕もルダとやってみたいな~」

 にこにこ笑って、こてんと首を傾げている。可愛らしい青年だ。

 しかし、ロトスは酸っぱいものを食べたような顔をしていた。

(ゴリゴリのやつが可愛いとか、誰得なんだ、おい)

 ということらしい。


 ところで、シウがそうだからか、ロトスも髪の毛は短くしている。お互いに短髪が楽なのだが、さすがに刈り上げはしていない。短すぎると、犯罪奴隷のように思われてしまうからだ。

 よって、肩につかない程度に短く整えている。

 貴族からすれば野蛮な髪型になるのだが、プリュムはシウの頭を撫でては「いいね」と褒めていた。

「そう?」

「うん。長いとね、邪魔になるんだよ。シウは短いけど綺麗にしてるね。先生たちは短い髪の人は汚いって言ってたのに。ロトスのも綺麗だね!」

 そう言って触ろうとするので、ロトスはスッと身を引いていた。プリュムが「え?」という顔で固まる。どうしたの、と首を傾げているので傷ついたわけではなさそうだ。

 けれど、そういうことはしてやるなと、ついロトスを睨んだら。

「いや、だって。プリュム、男だろー?」

「雄だよ」

 それがどうしたの、という顔である。

 プリュムには自分が聖獣だという自覚はあっても、男女の別はまだどうでもいいのだろう。シウは、二人のやり取りが面白いので黙って見ていた。

 その間も、お付きの近衛騎士や従者たちが不思議そうに遠巻きになって彼等を見ている。

「男に触られるのは普通は嫌なもんなの」

「普通はそうなの? 知らなかった。ごめんね?」

「そう、素直に謝られると俺も困るんだけど」

「どうして困るの?」

「いや、まあ、なんつうか。お前、天然ボーイだな!」

 プリュムはよく分からなかったらしく、首を傾げる。長いストレートの髪がサラリと揺れていた。



 さて。

 プリュムは、ロトスのことを気に入ったようだが彼のことを「聖獣」だとは気付かなかった。まだ二歳、もう少しで三歳というところだから成獣といえども幼い。見抜けるほどではなかったようだ。

 むしろ、養育院で暮らしている老獣たちの方が何やら感じている。このへんは年の功といったところだろうか。

 そんなふたりは、微妙な距離感ながら養育院の中庭へと向かった。

 急遽引き取った山奥育ちの騎獣十五頭は、夜は併設している通常の厩舎、昼の間は中庭で過ごしている。

 雪が降っても、へっちゃらだ。気にせず遊び回っていた。老獣たちはそれを微笑ましそうに近くの温室の中から眺めている。彼等の横には職員が付き添い世話を焼いていた。

「ここ、良いよね。カリンは粗野だって言ってたけど、僕は好きだなぁ」

 プリュムの言葉にロトスが返す。

「カリンって聖獣か?」

「そうだよ。レーヴェなんだ。ラトリシア国の聖獣管理をしてるの。いろいろ教えてくれて優しいんだよ」

「ふーん」

(でも、そいつ、素っ裸で転変したおバカのことだよな。シウ?)

(ロトス?)

(うへ。お口チャックね、ラジャー!)

 ロトスは、プリュムと一緒に中庭に立った。

 すると、てんでバラバラに遊び回っていた騎獣十五頭がやって来た。

 がうがう、ぎゃーぎゃーと大声で叫ぶかのように話している。

 内容はほとんどが「兄貴が来た!」だとか「遅いよ」などで、ロトスに宛てたものだ。後半に「あっ、坊っちゃんがまた来てる」みたいなニュアンスのもある。

 言葉として成立していないのでシウではちょっと理解し難いものもあるが、ロトスもプリュムも分かっているようだ。

「お前らなぁ。もうちっと躾られとけよー」

「ぎゃぅぎゃぅ!」

 そんなぁ、という抗議めいた声に、ロトスは呆れ顔だ。

 プリュムはにこにこと笑って、彼等を眺めている。

「ここのみんな、ロトスのことばっかり話していたよ。好きなんだろうね~」

「おい、やめろ。そういうの、恥ずかしいだろ」

「え、そう? あ、シウのことも好きって言ってたよ~」

「そうなんだ。ありがとうね、みんな」

 シウがお礼を言うと、騎獣たちはシウに集まってきた。

 がうがうと鳴いているが、訳してもらわずとも分かる。が、プリュムは律儀に教えてくれた。

「特製ジャーキーまた欲しいんだって。ね、シウ、僕も食べてみたい。すっごく美味しいんだってね!」

「あ、うん」

「シュヴィークザーム様も、美味しいって言ってたんだ」

 と言うから、可哀想になってきた。散々シュヴィークザームに自慢されたのだろう。

「じゃあ、あとでプリュムにもあげるよ。皆にもおやつの時にね。先にお勉強するんでしょう?」

「わぁ、ありがとう、シウ。みんな、お勉強頑張ったらくれるんだって。良かったね!」

 プリュムの台詞に、騎獣たちの尻尾が力なく垂れていた。今すぐ貰えないと分かったからだ。しかし、プリュムが意外と頑固なのも分かっているらしく、しおしおと従っている。

「今日は、おしゃべりのマナーだよ。それから、伏せの時の格好もやろうね!」

「ヴヴヴヴ……」

 嫌なのか、皆しおしおすぎる。シウは笑って、頑張ってと応援しておいた。ジャーキーは袋に入れた状態で取り出しておく。匂いをさせると可哀想なので、そうした。

 ただ、それを見た騎獣たちは途端にやる気になったらしく、尻尾がばっさばっさと揺れたのだった。


 ロトスもプリュムの授業を聞きながら騎獣の面倒を見るというので、彼等はここに残していくことにした。

 シウは、別行動だ。

 キアヒたちの宿へ行くつもりだった。


 ちなみに、フェレスたちはしばらく遊んでいなかったこともあり、アントレーネに任せた。

 彼女も留守番で体が鈍っていたというから、ククールスと共に依頼を受けて王都外へ出ている。

 プリュムに合わせるのはまた次回だ。

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