292 事情説明と卵石の行方




 ククールスとアントレーネが手伝いから戻ってくると、全員で食事だ。

「お、なかなか美味いじゃないか」

「そうだね。あたしより、ずっと上手だ」

 二人に褒められて、レオンは面映ゆそうだった。

 ロトスは急いで食べ終えると、また騎獣たちのところへと戻っていった。

 というわけで、ロトス抜きで山賊のアジトについて説明する。

 アジトの場所の巧妙さなどについても、だ。

 ククールスは、

「国境近くにアジトを作っていたのか。だから、ここまで大きな組織になったんだな」

 と、渋い顔になる。シウは頷いて続けた。

「国境を超えて逃げられると、追跡の手を緩めるだろうからね」

「頭の良い奴らだぜ。しかも騎獣が十五頭だと?」

「どちらで拾ったのかは分からないけど、純粋に拾ったとは思えないしね。盗まれた可能性もある」

 シウが懸念を口にすると、ククールスが腕を組んで苦々しい顔になった。

「……いや、シアン国の人間が売ったのかもしれない」

「どういうことだい?」

 アントレーネが問うと、ククールスは苦い顔のままで答える。

「シアンじゃ、卵石を見付けても拾わないヤツが多いんだ。ラトリシアと違って、買い取りをやるような店は、大きな街にしかない。だから、売りに行くのも金がかかるってなもんでな。でもたとえば定期的に村々を回るやつがいたらどうだ? 行商人でもいい。そいつらが卵石を安く買い叩いて山賊どもに売りつける、って手もある」

「ああ……」

 アントレーネもシウも、唸り声になった。

「国が卵石を拾うよう通達を出しても、田舎の村人じゃ通じやしねえよ。保護するための金銭を割り当ててんならともかく。……割り当てても今のシアンじゃ、人間様の食料分として横流ししてるかもしれんがな」

 そうだね、と頷いていたら、レオンが突いてきた。

「どういうことだ?」

 というので、彼にシアン国の事情を教える。昨年からの不漁続きで、今冬は例年以上に食糧事情が乏しいこと。そもそもシアン国は主食を輸入に頼っているため、希少獣を拾い育てる人は少ないということなどだ。

 自分たちの口を養うことで手一杯なのに、余計な分は出せない、ということである。

 特に希少獣は「おとな」になるまでは手もかかる。たった一年のことだが、お金も手間もかかるとあっては大変だ。

 レオンは複雑そうな顔で頷いた。

「……でも俺なら、俺が拾ったら、無理してでも育ててやりたい」

 真剣な顔で呟く彼は、養護施設育ちだ。

 シウはレオンの生い立ちを詳しく聞いたことはない。ただ、シウ同様に孤児だということは知っている。

 両親から捨て置かれ、人に拾われることもなく、たったひとりで生きていく。そんな希少獣の姿に、自分を重ね合わせたのかもしれない。

 アントレーネも気付いたのか、無言でレオンの肩を撫でた。やや強い力だったせいでレオンの体がぐらいついたけれど、おかげで彼の顔は明るくなった。

「まあ、俺が拾うことはないだろうけどな」

 肩を竦めて言うので、シウは先ほど思いついたことを口にしていた。

「でも、預けられる可能性は、あるよね」

「は?」

「……卵石、見付けちゃったし」


 レオン、そしてククールスとアントレーネがシウをジッと見る。

 シウはそろりと、胸元から布の塊を取り出した。布を解きながら、続ける。

「アジトの、山賊頭の部屋で見付けたんだ」

 布の中から現れた卵石に、皆の視線が釘付けとなった。

「マジか。卵石かよ」

 最初に口を開いたのはククールスで、次いでアントレーネが、

「すごい、卵石だね」

 呆れたような口調で告げた。レオンはと言えば。

「卵石……」

 自分でも呟いたことに気付かないのか、唖然としている。

 シウは苦笑しつつ、卵石を皆が見えるように前へ出した。

「見付けたのは、正確にはシアン国側で、山賊の持ち物だった。一応ラトリシア国へ報告するけど十中八九、僕のものになると思う」

「だろうなー」

 ククールスがのんびりと相槌を打った。一流冒険者でもある彼は、この手のことに詳しい。

「鑑定したら、『聖獣』ではないことは分かってる」

 本当は種族も分かっているのだが、そこは口にしない。問題は「聖獣」かどうかだ。

 はたして、アントレーネもそれを聞いて安堵していた。

 聖獣であれば、たとえどんな事情であろうとも国――王族――へ献上しなくてはならない。この場合は、シアン国へだ。

「僕は冒険者だし、まず間違いなく引き取れる。でも、僕にはすでに三頭の希少獣がいるからね。なんやかやと横紙破りがないとも言い切れない」

「だな。特に、ラトリシアは騎獣でさえ取り上げる国だ」

 そう言うと、ククールスはレオンにラトリシアの希少獣事情について掻い摘んで説明していた。シウから元々聞いていたレオンは、なるほどと頷いている。

 彼等の話が終わるのを待って、シウはまた続けた。

「で、僕は今、パーティーを組んでいるよね?」

「パーティー財産にするわけだな」

「うん。と言っても、主は必要だからね。かと言って、僕が面倒を見るのは良くないから他のパーティーメンバーに託すことになる。で――」

 そこで、レオンを見る。

「……えっ、俺!?」

「うん。だって、ククールスに幼獣のお世話ができると思う?」

 レオンが答える前に、ククールスがゲラゲラ笑って手を振った。

「俺ができるわけ、ねーじゃん!」

「そうだね、あんたには無理だとあたしも思うよ」

「レーネに言われたくないなー」

「あたしは子供を三人も育てている母親だよ?」

「ほとんど、サビーネさんやメイドに任せてるじゃねえか」

「うぐっ」

 二人が言い合いに発展しそうなので慌てて止め、シウはレオンに向いた。

「この通り、二人に任せるのは難しいんだ」

「……でも、ロトスがいるじゃないか」

 レオンが何かに耐えるように、食い縛る。唇が横にぐいと伸ばされて、どうしたのだろうと思ったが、シウは答えを口にした。

「ロトスが事情のある種族だって前に話したよね? 一年で成人になる、とても珍しい種族だって」

「あ、ああ……」

 ジッとレオンの緑色の瞳を見つめる。

 シウに真剣な表情で見つめられたレオンは、少し気圧されたようだ。俯き加減になって、肩が少し後ろへ引かれた。

 それでもシウが黙って見ていると彼は徐々に眉を寄せ、そしてハッとした顔になった。

「まさか……」

「その先は口にしないでね? とにかく、とても深い事情があって彼を矢面に出すことはできない。どのみち、まだ一歳を過ぎた彼に幼獣を育てさせるのもどうかと思うし」

「あ、ああ、そうか」

 納得してくれた彼に、シウはにこりと微笑んだ。

「だから、この子の主はレオンがいいと、僕は思ってる」

 レオンはシウの勢いに負け、頷いた。何度も何度も頷いていた。



 後になって聞いたら、レオンは本当は卵石を拾うことに憧れがあったらしい。

 シウから話を振られて、内心ではワクワクしていたようだ。

 しかし、ぬか喜びになってはいけない。

 だから必死で我慢していたため、変な顔になったそうだ。

 笑い出しそうになる頬を、歯をグッと噛むことで我慢した。

 そんなレオンを、シウは可愛いなと思った。彼も年相応の、希少獣に憧れる青年なのだ。


 これをぬか喜びにさせぬよう、シウも最後まで気を抜かないで交渉しなければならない。冒険者ギルドには交渉担当もいるので安心しているが、いざとなればシウ自身が引き取るつもりだ。

 国へ預けても良いのだが、そうなると拾った場所のことが問題になる。後々、シアン国に突かれる案件だから、ここはシウたちが引き取るのが一番良い。

 だから、そうした方向へ持っていくつもりでいる。

 皆にもそう説明して、シウたちは隊商の野営手伝いに戻った。

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