291 山賊退治、騎獣の存在




 後方へ進みながら、馬車ごとに結界を張っていく。シウのあとを走ってついてくる護衛たちには、隊の人間が外へ出ないよう伝えてもらった。

 途中、幾度か山賊とも応戦した。長く伸びる隊商を分断するかのように、横からも襲撃したようだ。

 後方でも騎獣同士が交戦していたが、相手側に網をかけて落とし終わらせた。

 まさか騎獣にも乗らず、飛行板だけで動き回れるとは思っていなかった山賊側は、あっさりと白旗を挙げた。

 山賊を縛っていくのは護衛に任せ、シウは更に後方へと急いだ。

 そこではかなりの怪我人が出ていた。幸いというとおかしいが、隊商側に死人はまだ出ていないようだ。

 シウが上空からゲルを撒いたり網を落としていったので、ほどなくして山賊の捕縛は終わった。

 山賊に強い魔法使いがいなかったことも幸いした。

 強力な魔法を使われていたら隊商側にも死人が出ていただろう。山賊は人数は多かったが、彼等の武器は主に機動力のための「騎獣」だけだった。


 その騎獣も、交戦で怪我をしていた。数えると全部で十二頭にもなり、全てが怪我を負っている。彼等に罪はないので、シウが治癒魔法を施した。

 山賊は縛ったまま放置だ。

「いや、助かった」

 隊商の護衛頭が汗だくでやって来て、シウに頭を下げた。

「いえ、これもルシエラ冒険者ギルド会員の役目ですから」

「いやいや。ここまでの大掛かりな山賊相手に、できることじゃねえよ。後で隊商頭からも挨拶したいんだが、なにしろこの状態だ。すまないが、もう少しここにいてくれるか?」

「はい。残党もいますし」

「……やっぱり、まだいるか」

「気配はあります。幾人か、住処へ戻っているような動きも」

 言葉を濁したものの、《全方位探索》ではハッキリと分かっている。

 護衛頭は、

「くそ、仲間を呼びに行ってるのか」

 と、舌打ちした。それも仕方ない。馬車がかなり破損しているのだ。修理するにしても隊を纏め直すのには時間がかかる。大掛かりな隊であればあるほど、再起動には時間が必要なのだ。すぐに動けない彼等にとって住処へ戻ったという残党のことは気がかりだろう。

「隊商頭に報告してくる。悪いがもう少し手伝ってもらえるか?」

「はい。あ、でも僕の仲間がそろそろ到着します。彼等にここを任せて、僕は住処を追います」

「……は?」

「もう、そろそろ――」

 話しているうちに視認できるところまでやって来た。シウが指差すと、護衛頭も気付いたようだった。

「騎獣……。あんた、騎獣持ちのパーティーか」

「はい。三級の冒険者もいますよ。残りは級数は低いけれど対人戦は得意なのが一人いますし、山賊程度は問題ないです」

 護衛頭の男はぽかんと口を開け、近付いてくる姿を呆然と見ていた。


 シウはククールスたちをその場へ残すと、フェレスに乗って山中へと入っていった。

 国境を越えて、シアン側へと進む。ちょうど国境付近を行ったり来たりするような形で進みながら、やがて、複雑な形の岩場が続く場所へと到着した。どうやら山賊たちは、自然の要塞を利用して住処としているようだ。たくさんの洞穴が見えるが、《全方位探索》で視ると、奥で繋がっているのが分かった。

 そのまま《全方位探索》で山賊の位置を確認すると、漏れがないよう、辺り一帯を空間壁でまとめた。空間壁は、結界と同じような作用をするので、物体があろうとなかろうと関係ない。

 結界よりもむしろ柔軟性は高いとシウなどは思っている。なんといっても、相手側に壁があることが知れないのだ。結界の場合は「結界外し」の魔法を用いることもできるが、空間魔法の解除は空間魔法持ちの高レベル者でないとほとんど無理だと言われている。

 念のため、そうやって囲んだものの、中に入って鑑定してみても山賊に高レベルの魔法使いはいないようだった。

 唯一、ボスらしき男は魔力も高めで固有魔法も持っていた。しかし鑑定のレベル三だ。敵として戦うには脅威でない。

 実際、狭い洞穴内では一対一の戦いとなるため無力化するのは簡単だった。

「抵抗すればするだけ怪我をするから投降した方が良いよ」

 と言うのだが、シウの見た目は相手にやる気を出させるらしい。皆が皆、ニヤニヤ笑って剣を振るってきた。仕方ないので旋棍警棒で跳ね返し、気絶させてから魔法で縛るという作業を繰り返した。


 全員の捕縛が済むと、シウは、ううむと考え込んだ。

 この場所自体はシアン国になる。国境ギリギリとはいえ、間違いない。となると、山賊を突き出すのは、シアン国側になるのかもしれない。しかし、隊商が襲われたのはラトリシア国側だ。そこから逆襲し追いかけてきて一味の仲間を一網打尽にしたとも言える。

 シウは少し考え、これはラトリシア側の案件だなと判断した。

 今のシアンに犯罪者を養うような余裕はない。もしかすると死罪になるかもしれないが、それまでの期間の食料も惜しいはずだ。

 ということで、襲われたのはラトリシア国ということもあり、彼等を連れて行くことにした。

 歩かせていくには大変なので、アジトに残っていた騎獣たちで運んでもらうこととする。人数が多いので、その場で木を切り倒してソリを作った。

 ところで、騎獣はアジトにも三頭いたが、うち二頭は怪我をしているため残っていたらしい。二頭には治癒魔法を使った。怪我をして時間が経っていなかったため治すことができた。

 最後の一頭はボス専用らしく、荷物を載せられたままだった。いつでも逃げられるようにしていたのかもしれない。その騎獣にはポーションを飲ませて元気になってもらった。


 出発前には、住処にあった彼等の財産を根こそぎ回収する。

 盗まれたというような話があれば返すし、持ち主不明ならシウがもらうことになる。大半はラトリシア国に提出するつもりだ。これ以上、シウが財貨を受け取ってもしようがない。

 そのつもりで、新たな魔法袋に放り込んでいったが、ボスの部屋でとんでもないものを見付けてしまった。

「卵石だ……」

 考えたら、そういうことだ。当たり前の事実にシウは頭が痛くなるのを感じた。

 山賊たちはシアン国で卵石を集め、ここで孵らせ育てていたのだ。だからこそ全部で十五頭もの騎獣を要していた。

 十五頭の騎獣を使えるほどの大きな組織となって。

「山賊なんかに使われる運命なんて、要らないよね」

 シウは悲しくなって、卵石を布でくるんで胸に入れた。

「にゃぁぁ」

「フェレスも悲しい?」

「にゃ」

 山賊と争った時にフェレスもまた騎獣たちと交戦しかけた。シウがゲルで足止めし山賊を無力化したから戦わずに済んだが、騎獣同士で争うのは嫌なことだ。

 フェレスは彼等に同情しているのだ。

「大丈夫だよ。騎獣に罪はない。ちゃんとラトリシアが保護してくれる」

 シウの説明に、フェレスはふしゅんと鼻を鳴らして頷いていた。



 ソリに乗せた山賊たちを連れ、襲われた地点まで戻った時にはもう闇夜となっていた。

 途中で通信による連絡を入れていたものの、隊商の人たちはシウを心配してくれていたようだ。顔を見てホッと安堵の様子だった。

「こっちは大丈夫?」

 シウがククールスに聞くと、彼はにやりと笑って頷いた。

「残党狩りもやったが、全員集めたぞ。相手のビビることビビること」

「ビビる? え、なんで?」

 シウが首を傾げると、ロトスが笑った。教えてくれたのはククールスだ。

「だって、レーネがすっげえ形相で追いかけるんだぜ。そりゃあ、相手は怖いだろ」

「ああ……」

 山中での対人戦は得意中の得意だ。アントレーネは張り切って追いかけたらしい。

 護衛頭の男も苦笑していた。

「いやあ、こっちは助かったけどな。あんたらが残党狩りをしてくれたおかげで、おれたちは馬車をなんとか立て直せたよ。今日はここで野営になるが明日の昼には出発できそうだ。本当に助かった」

 そう言うとシウたちを野営へと誘ってくれた。

 レオンがいるので転移ができない手前、シウたちもここで野営をすることになる。


 山賊らは、ロトスの作った土製の丸いかまくらに放り込まれた。凍死させるつもりはないので、温度が下がらないよう調整して空間壁で囲んだ。傍目には結界を張っていると見せた。

 彼等の騎獣はシウが作った土製の建物に入れる。地面には板を敷いてあげ、藁を敷き詰めたので少しはマシだろう。もちろん、寒くないよう暖かくしてある。

 それから、こっそりと空間庫から取り出した使い道のない魔獣を取り出し食べさせてあげた。お腹が空いていたのか皆がっついている。

 一緒に見ていたロトスは可哀想になったのか、ここでこいつらの面倒見てるわ、と残った。フェレスとブランカもついててあげるということで、騎獣は彼等に任せる。


 シウがクロを連れて皆のところへ戻ると、レオンが食事の用意を始めていた。

 隊商からの誘いもあったが、片付けしながらの慌ただしさがあって断っていたのだ。

 冒険者パーティーというのは大体において一番下っ端が食事を作る。レオンもそれに倣っているらしい。見ればシウがロトスに渡していた魔法袋を使っているので、ロトスが頼んだのだろう。

「レオン、ごめんね」

「いや。それより、そっちは大丈夫だったのか?」

「僕はね」

 言外に何かあったのだと知って、レオンは眉を顰めた。けれど、そのことには触れず料理について相談してきた。

「これ、勝手に使ってるけど良いんだよな? それにしても葉野菜とか新鮮過ぎるだろ。どんだけ性能が良いんだ、この魔法袋」

「あはは。まあ、中に入ってるのは何でも使って。それ、パーティー専用のだから」

「……って、聞いてもな。大体、各自で魔法袋持ってるパーティーなんて普通ないからな? ったく」

 最初に、全員が(騎獣三頭組も含めて)魔法袋を所持していると知って、レオンは唖然としていた。

 しかも、パーティー専用のものも用意している。

 最近は冒険者たちにも魔法袋所持者が増えてきていたが、各個人が持っているのはやはりまだ珍しいのだった。

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