290 レオンとの採取仕事と訓練、襲撃察知




 王都の外壁門を過ぎると、すぐさまフェレスとブランカに分乗した。

 フェレスにはククールスとレオン、ブランカにはロトスとアントレーネだ。クロはひとり飛行だし、シウは飛行板に乗る。

 途中でシウとククールスが交代してもいいが、小一時間のことだからとそのまま進んだ。

 道中、レオンにはククールスが辺り一帯の説明をしてくれた。

 王都から数えて、一つ目の森、二つ目の森と数えることや、街道の融雪事業のこと。点在する村の場所に、魔獣が潜みやすい近くの小さな森について。

 本来、九級の冒険者は一つ目の森までしか行けないことも話していた。

 上級レベルであるククールスやシウが、ミセリコルディア方面へ行く場合は必ず見回りをしていることなども、だ。

「特に、俺たちのパーティーには騎獣がいるだろ。こういう上級パーティーは、他のやつができない仕事を受ける必要があるんだ。強制じゃないが、覚えておいてくれ」

「はい」

「まだ九級のお前さんたちを連れて行くのは、本当は気が進まないんだけどな。その代わり、級数は早く上げてやれると思う。訓練にも付き合うからな」

「はい。こちらこそ、上級パーティーに入れてもらうのは有り難いです」

「おう、そうか。あと、あれだ、敬語は要らねえぞ」

「……じゃあ、敬語は使わないことにする」

 三級冒険者と聞いて多少緊張していたようだが、ククールスの気さくな様子にレオンは力を抜いていた。


 ミセリコルディアに到着すると、すぐさま依頼の仕事をこなす。

「冬山の採取は難しいからレオンには僕が付き添うよ。見回りの方、頼んでいい?」

「おう。飛行板の練習にもなるから乗っていくわ。レーネ、競争しようぜ」

「ああ、負けないよ」

「熱中して、見回りするの忘れないでね」

「わーってるって」

 言うなり飛び出ていってしまった。フェレスたちにも訓練に行っておいでと送り出す。

 ロトスはシウと共に採取だ。

 まだ九級の彼にも依頼仕事をこなす必要がある。

「あ、雪ノ下発見!」

 慣れてきたので雪の中でも平気で進んでいるが、レオンはやはり雪深い森の中は厳しいようだった。

「うわ、っと、思った以上に足を取られるな」

「うん。ちゃんと地形を見て、どこに吹き溜まりがあるかも考えて進んでね」

「おう」

 事前に説明はしていたが、やはり想像以上のようだった。ルシエラ王都も雪が降る。だから豪雪になるとは分かっていても――石畳は温水により積もらないので――本当には分かっていなかったようだ。

「雪対策の道具も借りたけど、これじゃ確かにレベルの低い冒険者はここまで来られないな」

「今日はまだ吹雪いてないからマシだけどね」

「そうか。俺には曇ってて最悪だと思ってたけど、もっとか」

「王都は滅多に吹雪いたりしないけど、この辺りは地形的にひどくなるみたいだね」

 説明しながら進む。冬でも採取できるものはくまなく教えて回った。

 木の皮、雪に埋もれた枯れ草の根、岩の隙間に潜む虫などなど。

 池ではレンコンも採取した。

「これ、美味しいんだよ。咳にも効くから飴にするんだ」

「そういや、賄い室の棚にある飴、シウが作ってるんだよな?」

「うん。あ、食べた?」

「スサさんに教えてもらって瓶に入れてもらった。薬草飴みたいなのもあって驚いたよ。そういや、薬草も元々はシウが用意してたんだってな」

「今はリュカが管理してるけどね」

 置き薬のように簡単なものは屋敷に常備してある。最近はリュカが、師匠に教わりながら作ったものを持って帰っては期限の切れたものと取り替えているのだ。足りなくなれば作って補充している。薬飴玉もリュカが作っていた。シウが作るのは果実飴だけだ。

「こういうのが薬になるんだな。いや、分かってたけどさ。リュカが作っているところを見て改めて『学校で習ったこと』が生きてるって分かったんだ」

「……そういうの、あるよね。実際に目の当たりにしないと分からないものだよね」

「そうそう。レンコン飴も元はこれだなんて、想像もしてなかった」

 泥に塗れた姿にレオンは苦笑していた。


 いつもより時間はかかったものの、依頼分は無事採取できた。

 魔獣とは出会わなかったため狩っていないが、ククールスたちが見回りの最中に狩っているだろう。

 シウたちは少し拓けた場所を整地して昼の用意を始めた。

「レオンは水の用意ね。ロトス、竈の用意頑張って」

「うう、分かった……」

 整地もして、竈も作ってと、彼は大忙しだ。魔道具もあるしシウならパッとできてしまうのだが、これも彼の訓練である。土属性魔法の上がりが最近悪いので、猛特訓中なのだ。

「俺が手伝えたらいいんだけど。悪いな、ロトス」

「んにゃ。土属性ないんだろ。その代わり、水頼んだぞ。俺もう水まで出す元気ねえ」

 魔力はあるので、それは嘘になるのだが、ロトスもレオンに仕事を作ろうと考えているのだろう。

 シウはその間に、周囲へ結界を張ったり魔獣避け薬玉を設置したりした。罠も仕掛けている。普段はやらないことばかりだが、レオンが参加したので真面目に冒険者らしくしていた。

 そのうちレオンには、シウの能力のことを話そうかとは思っているが、もう少し慣れてからの方が良いだろうというのがロトスたちの意見だ。

 レオンがシウのことをペラペラ話すようなタイプでないことは分かっている。だが、いきなりというのは受け止めきれないと、ククールスも苦笑していた。俺でもビックリしたからと言って。

 そのため転移も禁止、むやみに結界を張ったりするのもダメということだ。

 もちろん空間庫のことも秘密だから、何もないところから物を取り出すようなこともしない。当然ながら大量の荷物を仕舞うという行為も禁止されている。

 魔法袋から昼ご飯の材料を取り出しつつ、最近気楽にやりすぎていたな、と思うシウだった。


 昼には、呼ばずとも皆戻ってきた。

 案の定、ククールスもアントレーネも岩猪を狩ってきている。フェレスたちはルプスを持って帰ってきた。魔核を取り出し、死骸を燃やすのはレオンだ。こういうのは下っ端がやるものだと本人も言っていたので任せた。

 食事を済ませると、今度は騎獣の乗り方を教えることになった。

 パーティーとして組むからには乗れないとだめだ。もちろん、レオンもロワル王都では騎獣を何度も借りて乗っていた。しかし、王都近くの森まで乗っていく「移動のための」騎乗と、魔獣を相手にしながら乗りこなす騎乗では全く違う。

 この訓練は、ククールスとアントレーネに任せた。フェレスとブランカも残る。

 その間、交代という形でシウとロトスが飛行板に乗って見回りに出た。クロも一緒だ。

 ロトスは乗り方が自由で上手い。シウも真似をしようと、互いに上空ではなく木々の合間をすり抜けていく。

 しばらくは、そうした飛び方を続けた。


 そろそろ戻ろうかと思った時に、ミセリコルディアの山中を通るシアーナ街道方面で慌ただしい気配を察知した。

 急いで《全方位探索》を強化すると、はっきりと伝わってくる。

「ロトス、街道で隊商らしき一団が襲われてるみたい」

「マジか」

「ククールスたちを待ってる暇はないから、僕らだけで先に転移する。クロ!」

 クロは呼ばれるやすぐさま飛んできてシウの肩に乗った。ロトスも慌てて飛行板を寄せる。

 触れてなくとも見える範囲ならば、まとめて転移はできる。それはフェレスとの転移でも証明できているのだが、やはりなんとなく「近くにいたい」と思うようだ。シウも分かっているため拒みはしない。

 シウはロトスに触れた瞬間に《転移》した。

 転移してすぐにククールスたちへも通信で伝える。

「(シアーナ街道、国境付近から南へ三キロメートルあたりで、隊商が山賊と交戦中。助太刀に入るので追いかけてきて。クロに場所を覚えさせたから、そちらへ向かわせる。合流して)」

「(了解! レオンを乗せて縛ったら、すぐ向かう)」

 返事を待つ間にも、交戦中の真っ只中へと降り立った。ロトスもだ。

 クロはシウの言葉を聞くや、すぐさま上空へ飛び立ち、一度旋回したら南へと飛んでいった。


 隊商は、地竜を先頭にした大規模なものだった。騎獣も数頭いるが、山賊にも騎獣がいて応戦に必死だ。

「ルシエラ冒険者ギルド本部所属のシウ=アクィラです! 見回りの最中に発見しました。助太刀します!」

 降り立つや、シウが声を張り上げると、隊商側の護衛がホッとしたようだった。

「助かる! 国境から追われて、ここでとうとう追いつかれてしまったんだ」

「人質は?」

 質問しながらも、動きは止めない。山賊側の弓矢を退け《結界》を張った。

「いない!」

「分かりました。隊商側の人は今から馬車より四メートル、外へは出ないように! 結界を張ります!」

「俺たちは後方に行くから――」

「護衛の人は出てください。ロトス、そっち大丈夫?」

「任せとけってなもんだ!」

 ロトスは騎獣に乗った男たちのところへ飛んでいっていた。隊商側と山賊側、人相はどちらも悪いが、見てすぐに分かるほど違いがある。やはり山賊は身奇麗にしていないのだ。

 ロトスは飛行板に乗って二つを分断するように飛ぶと、山賊側の騎獣に唸り声を上げた。

 人型でやっても通じるのか? と思ったが、相手のフェンリルは怯んだ。

「お、おい、なんだ」

「行けっ、この野郎!」

 叫ぶ山賊たちに向かって、

「騎獣を蹴るんじゃねえっ! おらぁぁぁっ!!」

 ロトスの怒鳴り声は、相手のフェンリルたちを畏れさせた。彼等は騎乗者の言葉に従わず、地面に落ちるように降りてしまった。

 あれなら、もう大丈夫だろう。地面に降りれば残った護衛たちでもなんとかなる。ロトスにも魔法は使えるし相手はただの騎獣乗りだ。

 ここはロトスに任せて、シウは隊の後方へと向かった。







**********



yui先生の描く、コミカライズ版「魔法使いで引きこもり?」の二話が公開されました。

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02200433010000_68/

赤ちゃんフェレスが可愛い!!よろしくです!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る