285 魔術士ギルド薬師ギルド、夜の店




 水の日は午前中に生産科へ顔出しし、午後はロトスを連れて魔術士ギルドへ赴いた。

「会員登録ですね。それと新しい魔術式の登録と。はい、こちらが書類です」

 シウも付き添ったのは、魔術士ギルドの水晶を気にしてのことだ。それでなくとも魔法使いがわんさかいる――だろうと思っていたがいなかったけれど――とにかく心配だったので付いてきた。

 幸い、冒険者ギルドに登録していると申告すれば、そのカードを利用し魔術士ギルドカードを発行してくれた。

「血抜き魔法ですか。ああ、なるほど。冒険者などに便利ですね」

 受付の男性は書類を読んで何度も頷いていた。

「おや、使用に関しては縛りを付けないのですね」

「あ、うん。だって、便利な魔法だろうから」

 ロトスが当たり前のように答える。すると。

「素晴らしい。志の高い方ですね。そうした方にはパトロンも付きやすいんですよ。こちらでもお話があった場合、紹介させていただきましょう」

「あ、いや、俺はそこまで――」

 ロトスがじゃっかん引いているものの、受付男性はにこやかに褒め続けていた。


 以前ロトスが酔っ払いながらシウに見せてくれた「血抜き」の魔法は、簡単なだけに個人で使うのは勿体無いと感じた。

 ただ、広めるためには理解を深めるための魔術式も必要だ。口伝でイメージを伝えても覚えられるだろうが、広く伝えるには基本となるものが必須だった。

 そのため、シウが魔術式に起こし直すよう本を渡して勉強させていた。

 簡略化を叩き込んでいたので、一生懸命頑張ったロトスはようやく完成させたというわけだ。

 利用料はタダ。アイデアだけの登録だ。ロトスが決めたことだが、シウも同意見である。

 お金は入ってこないが、その代わり「新しい技術の発見者」として名が残るし他の誰かに独占されなくて済む。

 こういう作業を魔術士ギルドは推奨し、受け入れていた。

 そうすることで魔法の技術が発展するからだ。

 もちろん、秘匿すべき内容のものもある。魔術士ギルドはそれらを守る組織でもある。

 ようは発展に繋がる基本の、簡単なものは無償で公開し、開発に時間もお金もかかった貴重なものは大事にするのだ。国に掛け合うこともしてくれるため、魔術式を開発するような魔法使いは会員登録している。

「シウは登録しねえの?」

「うーん、僕は商人ギルドで提出するか、しないものは公表自体をしないと決めてるからなー」

 話していると、聞こえたらしい受付男性が身を乗り出してきた。

「もしや、シウ=アクィラ様では!?」

「あ、はい」

「ぜひ! ぜひ、我がギルドでも登録をっ!!」

「えー?」

「いや、そんな顔してやるなよ。可哀想じゃん」

「だって」

「お願いします! おい、シウ様が来られてるぞ! 応接室をっ」

 なんだか大騒ぎになってきて、シウだけでなくロトスもドン引きになっていた。


 一応、ギルド会員の登録はしておいた。

 何故か年会費などは不要だと言われてしまったが、術式の登録もしないまま幽霊会員だと会費が必要なはずだ。念のため口座登録をし、そこに幾らか預けることにした。勝手に差っ引いてくださいねと頼んでロトスとギルドを出たら、時間がかなり経っていた。

「……どうしよ。薬師ギルドにも寄ろうと思ってたけど、また今度にしよっか?」

「いや、一度に済まそうぜ。明日は冒険者ギルドだろ」

「うん。じゃあ、行こうか」

 雪が降る中、シウたちはてくてく歩いて薬師ギルドに向かった。


 一冬草の納品をサッと済ませたシウは、ロトスの会員登録を待つことになった。彼は虹石の納品もついでに行う。

 その間、シウはドワーフのお婆さんと世間話をしていた。彼女はシーカーにいる薬草の専門家と知り合いで、直談判して図書館に入ったと自慢げだ。

「よく入れましたね」

「その代わり、あたしの大事なレシピをひとつ教えることになってしまったわい」

「それはそれは」

「だが、あそこは宝の山だねぇ。それを活かしきれていないのが残念だよ」

「辞書が圧倒的に足りないのが原因かも」

「ほほう。おぬし、古代語だけでなく、辺境語も学んでおるのかい?」

 貴重な薬の素材の中には辺境だけで生まれるものもある。当然、辺境に暮らす人々とのコミュニケーションも必要となってくる。彼等のことを描いた本もあって、読んで理解できなければ、薬として完成しないようなものもあった。

「言語学は好きなので。ロワイエ大陸内の、ほとんどは話せます」

「そりゃあ、すごい。ロキ国やハントヴェルカー国の田舎なんざ、方言というより他言語だからね!」

「えっ、じゃあ、あんなところまで行ったことが?」

「あたしゃ、ドワーフだよ。当たり前さ」

 興味のあるものにはとことん食らいつく。そう言いたいらしい。

「僕も行ってみたいです」

「ハントヴェルカー国は入国が厳しいからね。ドワーフじゃなけりゃ、審査に時間がかかるんだ。行く時ぁ、あたしに言いな。紹介状を書いてやろうじゃないか」

「ありがとうございます」

「同行者にドワーフを入れておくのも手だよ」

 などと奥の手を教えてもらい、世間話は楽しく終わった。


 ロトスは虹石と相性が良く、大量に集めていたものを納品して驚かれていた。

 チヤホヤされていたのでさぞ喜んでいるだろうと思ったが、

「受付の人がオバチャンだった……」

 などと言って落ち込んでいた。

「魔術士ギルドでも男だったし。俺、なんか女運なくない?」

「あー、ええと、明日は冒険者ギルドに行くから。ユリアナやカナリアは必ずいるよ。受付の顔になってるから」

「……俺の時、何故か直前でクラルに変わったりするんだけど」

「クラルか」

 シウはほんのり笑って、ロトスの腕を叩いた。慰めたつもりだったが何やらまた落ち込んでいた。



 可哀想なロトスのために、夜には早いが居酒屋へ行くことにした。

 通信で連絡を入れたがアントレーネは屋敷に残ると言うので、フェレスたちのことは任せる。

 ククールスに連絡を入れたら、すぐ行くと言って本当に飛ぶようにやってきた。

「おう。どうしたよ、平日に珍しいな」

「えーと。なんだか落ち込んじゃったロトスを慰める会でもしようかなと」

 シウが笑うとククールスは何か感じ取ったのか、よし分かったと言って行きつけの店ヘ連れて行ってくれた。

 いつもの冒険者が集まってワイワイ騒ぐようなところではなく、少し花街っぽい雰囲気のあるところだ。

 ロトスは途端に機嫌が良くなった。

「おねーちゃんの店だ!」

「そうだ。若くて可愛い女の子が接待してくれる店だ!」

「兄貴、俺、兄貴にどこまでもついていくよ!」

「よし!」

 とまあ、こんな調子だ。

 シウは呆れつつ楽しそうな彼等を見る。

 ククールスは女性に人気で、いつも来てくれてありがとうと言われていた。

 ロトスには認識阻害が掛けられているが、少し緩めているせいか美形なのは雰囲気で分かるようだ。こちらもチヤホヤとされて嬉しそうだった。

 残されたシウは一人静かにお酒を飲んでいたが、可哀想に思ったらしい店のママが横に座ってくれた。

「お代わりをお注ぎしましょう」

「では、リンゴ酒を」

 ママは落ち着いた様子で、シウのことを子供と侮らず普通に接してくれる。

 ルシエラ王都の最近の噂話などもさりげなくしてくれるので、シウには良い時間だった。

 ククールスたちはきゃっきゃと楽しそうで、女性たちは人を見て話し方や接し方を変えているようだ。接客業として素晴らしいなと思う。

 シウには難しいことなので勉強になる。

 しかも、いつの間にか「女性への対応が悪いとよく言われる」などと相談するような形になっていた。

 ママは具体例をシウから聞き出すと、ほんのりと笑って対応策を授けてくれた。

「女はね、相槌を打ってもらうだけでも嬉しいものですよ。それに、あからさまに相手の欠点を口にしてはいけませんわ。もしお詫びをしたいと思われるのなら、さりげなくお花などのプレゼントを贈ると喜ばれますよ」

「花ですか」

「ええ。あなたも女性からプレゼントをいただいた経験はおありでしょう? 嬉しく思いませんでしたか?」

 成人祝いでももらったが、そう言えばつい最近、ガーディニアからハンカチをもらった。

「刺繍入りのハンカチを、先日もらいました」

「まあ、素敵。その方が自ら刺繍を?」

「あ、はい。少しだけ自信があると……確かにとてもお上手でした」

 ママはにこやかに微笑んだ。

「良いプレゼントですわ。シウ様も嬉しかったからこそ、覚えていらっしゃるのよね」

「そうですね」

「そうしたものを、お贈りになるとよろしいのです。もちろん値段の高いものに価値を見出す女もいますわ。けれど、何度も考えた末に贈るものは、女も気付くものよ」

「分かりました。僕はどうも女性への気遣いが足りないので、よくよく考えてお詫びをしたいと思います」

「まあ。本当にシウ様はお可愛らしい素敵な方ね」

「え、あ、いや」

 シウが照れると、ママはますます喜んでしまい、その後もずっと相手をしてくれた。


 ちなみに、ククールスとロトスは若い女性たちに囲まれて大満足の夜だったようだ。







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拙作「魔法使いで引きこもり?」三巻の発売が決定しました。

これも皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

発売日については後ほど、正式発表がありますのでどうぞよろしくお願いします。

取り急ぎ、ご連絡まで。寝不足で頭おかしい。間違ってたらどうしよう。怒られるの自分だよね。あばばば。







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