279 プリュムの素直さとシウの話




 プリュムがスヴェルダの関係者を連れてきたのと同じ頃に、オリヴェルの従者が呼びに来た。すでに小離宮で待っているというので、皆で移動する。

 聖獣専用の建物と近く、回廊を進めばすぐだった。

 オリヴェルは自身のメイドたちを連れてきて、客間や居間などを整えていた。お茶の用意もできている。

 そして、一通りの挨拶を済ませた後は従者同士で話し合うようにと指示していた。

「護衛が足りないだろうから、行き帰りはわたしと共にしよう」

「何から何まで、ありがとうございます」

「いや。同じような立場なので」

 と、少し照れくさい顔をしてオリヴェルが答えた。年齢も近いので、彼等は仲の良い友達になれるだろう。

 なんとなく見ていたシウだが、プリュムがまた隣に座ったので皆の視線が集まった。オリヴェルがシウを見て言う。

「学校では、シウもいるから大丈夫だろうけれど」

「シウがいるから?」

 スヴェルダが首を傾げた。プリュムもだ。

「どうしてシウがいるから大丈夫なの?」

 プリュムの問いにオリヴェルと、シュヴィークザームやその近衛騎士らが笑った。もっとも、シュヴィークザームは笑顔になったわけではない。無表情にふふんと笑っただけだ。

「何かあっても必ず上手く立ち回れているからね」

「そうだのう」

「友人も多い。彼の場合は貴族の派閥など関係ないからね。たくさんの友人が、きっと助けてくれるはずだよ」

「シウはそうしたものを気にせんからな。我のことも平気で扱うのだ」

「へえ! すごいんだね、シウ」

 プリュムが目をキラキラさせた。

 何故かそれに気を良くしたらしいシュヴィークザームが、鼻を膨らませて続ける。

「こやつのすごいところは、まだあるぞ。どれ、モノケロースの子よ。我がいろいろ教えてやろう――」

「シュヴィ?」

「うん?」

「もし、言っちゃいけないことを言ったら、どうなるか分かってる?」

「……分かっておる。分かっておるとも」

 絶対に分かっていなかっただろうし、ギクリとなったこともシウには分かっていた。

 半眼になって注意したのは、彼が喜々として喋ろうとした内容に思いついたからだ。

 なにしろ最近のシュヴィークザームの中のシウに関する「事件」と言えば、一つしかない。

 そう、古代竜イグのことだ。

「……分かっておる。我は聖獣の王ぞ。約束は違えぬ」

「そう。だったら良いんだけど」

「……ま、また、秘密基地の、ああ、いや、作り方をだな。教えてくれる、であろう?」

「作り方なら、教えてあげるよ」

「うむ」

 何やら密談があるらしいと分かったオリヴェルは苦笑し、シウとシュヴィークザームの関係性を知ったらしいスヴェルダは驚愕の眼差しで見ていた。


 ところでスヴェルダには、騎士と侍従の二人しか付いてこなかった。

 護衛まで手が回らないため、しばらくはオリヴェルと行動をともにすると決まった。

 いずれ雇うつもりのようだが、これらはラトリシア国で手はずを整えるようだ。

 同じ王族でもカルロッテに用意していないのは、人質かどうかの差もある。

 スヴェルダに死なれてしまっては困るのだ。戦争のきっかけになる。もちろん、それを望んでいる者もいるだろう。立場立場で違うが、基本的にラトリシア国としては「スヴェルダに死なれては困る」という立ち位置だ。

 カルロッテの場合も事件に巻き込まれるなどしたら国際問題に発展するが、彼女の場合は「自ら望んで」来ている。通常の留学生の特別バージョンといったところだろうか。

 スヴェルダのことも、それぐらいに落ち着けば良いのだが、複雑な立場なのだった。



 お茶の時間として長く取ったが、その間にいろいろな打ち合わせを行ったため、結局シウは晩餐までいることになった。

 シュヴィークザームはすでにやる気がなく、別室にて、だらけていた。

 畏れ多いと思っていたらしいプリュムはそれを見てホッとしたのか、ソファの下で聖獣姿に戻り一緒に寝転んでいる。可愛らしいものだ。見た目は立派なモノケロース、一角獣の姿をしているが。

「じゃあ、週明けから来るんだね。他の初年度生より一歩も二歩も遅れているから、挽回するの大変だろうけど、頑張って」

「ああ。幸い、オリヴェル殿が必須科目の点の取り方などを教えてくれたので、なんとかなりそうだ」

「あ、僕が初年度生だった頃に教えてもらった時間割の方法、教えようか?」

「そんなもの、あるのかい?」

 オリヴェルが聞いてきた。

「うん。受講する場所や時間によっては、あえて外した方がいいものもあるんだ。僕も研究棟の専門科を受ける時は一日にまとめたりしたよ。カスパルなんかは朝の講義は取ってないしね」

「なるほど。彼らしいね」

 オリヴェルが苦笑するので、シウはスヴェルダにカスパルの話をした。

「僕の下宿先の、大家さんなんだ。ブラード伯爵家の第三子で、ちょっと変わってるけど良い人なんだよ」

「シウは寮に入ってなかったんだな」

「うん。下宿。寮だと門限があるし、騎獣とは別々になるからね」

「そうか。確か、フェレスだったか?」

 と言うので、シウは頷いた。そこにオリヴェルが口を挟んだ。

「そう言えば彼の騎獣については話してなかったね。スヴェルダ殿、シウにはフェレス以外にも、いるんだよ」

「え?」

「ニクスレオパルドスのブランカとグラークルスのクロが、ね」

「えっ、そうなのか? 騎獣二頭と小型希少獣?」

 立ち上がって驚くので、シウは笑った。

「うん」

「そこまで驚くなら、あの話は知らないのかな? 昨年の飛竜大会で、騎獣レースに彼は出たんだよ」

「ええっ!? 騎獣レースに? ニクスレオパルドスで?」

 また驚くスヴェルダに、シウはオリヴェルをチラと見てから肩を竦めた。オリヴェルは意外とお茶目らしい。スヴェルダの驚く顔を見て楽しんでいる。

「フェレスで、出たんだ。速度と障害」

 シウの返事に、スヴェルダは呆然とした。

「……すごいことを、するんだな」

 あまりに驚いたのか、ドスンと椅子に座り直す。

 そんな彼にオリヴェルは満面の笑みで告げた。

「もっと驚くよ。フェレスはね、どちらも優勝したんだ」

「……嘘だろ?」

「本当。王族のわたしが嘘をつくと思うかい?」

「あ、いや――」

「でも、スヴェルダ殿の気持ちは分かる。わたしもこの話を聞いた時、本当に驚いたのだから。いろんな意味でね」

「ああ、本当だな……」

「つまり、そういう人間なんだよ、シウって」

「なるほど」

 何やら二人して納得しているが、まあいいかとシウは苦笑した。

 彼等の友情を深めるのに役立ったのなら、良い。


 晩餐の際にも、フェレスとブランカ、そしてクロのことを話した。

 他にも、たとえば角牛のこと――この話題が出ると途端にシュヴィークザームが張り切って自慢し――シウが下宿先のブラード家へいろんなものを持って帰る話などだ。

「僕も角牛の料理を頂いたけれど、それは美味しかったよ」

「羨ましいな」

「角牛の乳もまた濃厚なんだ。それを知って、兄上は角牛狩りへ行かれるしね」

「兄上というと?」

「ヴィンセント兄上だよ。ああ、驚くよね? わたしも驚いた。でも、シュヴィークザーム様と共に、シウを案内人にして行かれたんだ。もちろん、連れ帰ってこられたよ」

「すごいな」

「シウは他にも、獣人族の奴隷戦士を助けるために身請けしたり、その奴隷が子を産んだそうだけど自分の子として育てているしね」

 アントレーネのことはオリヴェルも顔を合わせて知っているし、王城にも来たことがある。赤子三人も見ていたため、話題にしたようだ。

 スヴェルダはずっと驚いたり呆れたりして話を聞いていた。


 プリュムには、今度はフェレスと会いに来てほしいと頼まれた。

 彼はしばらく外に出られない。ここには良くしてくれる聖獣や騎獣もいるが、懐かしい顔にも会いたいのだろう。

「クロとブランカとも仲良くしてくれる?」

「もちろん!」

 追いかけっこするんだーと、嬉しそうだ。

 プリュムはデルフ国では随分と頑張って鍛えていたそうだが、どうやらラトリシアの聖獣たちは彼基準で「おとなしい」らしい。

 プリュムの中で、フェレスは格好良く自分たちを乗せて助けてくれたヒーローのような存在らしかった。鍛えた今の自身を見てもらいたいし、おとなしくはない(と話題に上っていた)フェレスと遊びたいのだ。

 必ず連れてくると約束して、シウは夜遅くに王城を後にした。

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