273 ビッグニュースと新入生




 木の日はコルディス湖に皆を転移で送っていった。

 二日も家でゴロゴロしていたから休むのにも飽きたと言って、大喜びである。

 特にフェレスとブランカはそうだ。

 庭でも遊んでいたが、やはり狭いところでの運動はつまらないらしい。二頭とも、喜んで森へ入っていく。クロは相変わらずお目付け役である。

 アントレーネとロトスも、狩りの訓練と称して分け入っていた。

 シウだけ別行動だ。


 また転移で戻り、ギルドへの挨拶回りを済ませる。

 最後を冒険者ギルドにしたのは、いなかった間の情報を詳しく得たいからだ。

 そして、思った通り、たくさんの情報が耳に入った。

 その中でもビッグニュースなのが、

「勇者? 勇者が現れたんですか?」

 というものだ。

「そうなんだよ! 勇者の一行がスタンピードを解決してくれたんだ!」

 受付担当のクラルが、興奮した様子で話をしてくれる。近くにいたユリアナも同様に興奮していた。シウのところへ駆け寄って、手を上下に振っている。

「今度、その功績を称えて、王都に呼ぶのですって。見てみたいわ!」

「えーと、じゃあ、そのニーバリ領で発生したスタンピードは問題ないんだね?」

 昼時なので受付は暇だが、それにしても二人共、興奮しすぎだ。この話を知らない人間がいるなんて! という感じだろうか。何度も話慣れた様子で続ける。

「うんうん、大丈夫。偶然にも、上級パーティーの幾つかが立ち寄ってたんだ。討ち漏らしも、彼等が討伐してくれたそうだよ。あ、シウはエサイフさんのこと知ってるよね?」

「うん」

 以前、シウと共にコボルトの討伐をしたことのある、上級冒険者だ。彼の師匠が、シウを育ててくれた爺様と仲間であった関係から、仲良くなった。

「南下行きの仕事がポシャったからって、たまたま立ち寄っていたらしいよ。勇者一行と合同でスタンピードを解決したそうだから、すごいよね」

 クラルは青年らしく、強い冒険者に憧れているような顔で話してくれるが、ユリアナは別だ。手を胸の前で組んで、溢れ出る感情を表すかのように体を揺らしている。

「エサイフさんもすごいでしょうけど、やっぱり勇者様じゃない? 格好良いんですって。あ~パレードの時に会えるかなぁ。王城のパーティーに行ってみたいけど、無理だものね~」

 目が「女の子」になっていて、シウとクラルは顔を見合わせて笑った。

 今代の勇者はどうやらイケメンらしい。


 それにしても、ニーバリ領はとうとう魔獣の討伐が追いつかなくて、自然発生のような形でスタンピードを起こしてしまったようだ。

 国からも度々、注意勧告があったらしいのに。

「宮廷魔術師のテコ入れもあったんだよね?」

「兵士の増援も行うところだったみたい。領として、やり方が杜撰だからと権限を取り上げようかって話も出ていたとかなんとか。噂だけどね」

「そうなんだ」

 ニーバリ領には、シウも少なからず縁がある。

 近いところで言えば、以前、飛竜大会へ行く際に上空を通りがかった時のことだろうか。魔獣討伐をまめに行っていないせいで、飛行系の魔獣が飛竜便のコースにまで上がってきていた。おかげで飛行ルートはガタガタ、別の便も事故を起こしかけたりと散々だったのだ。

 別の件では、シーカー魔法学院の生徒でもあったベニグド=ニーバリという青年と、浅からぬ縁がある。ベニグドはニーバリ伯爵の第一子、つまり跡継ぎだ。

 跡継ぎと言えば立派な人格者を想像するが、ベニグドは人を使った嫌がらせを行うのが趣味らしく、ガーディニア――ヒルデガルドのことだが――彼女を騙して嫌がらせをしてきた。

 愉快犯的な発想があるのか、あちこちを引っ掻き回して、そのままあっさりと卒業していった。

 性格はおかしいが、頭は良いと感じていた。

 だから、今回のニーバリ領の行いは、どうも不自然だった。

 そして、それはクラルの次の台詞で確定した。

「伯爵がご乱心だということで、次の方が泣く泣く幽閉したらしいよ」

「次の方って、息子の、ベニグド――」

「そう、その人。跡継ぎである自分が立つべきだと言って、お父上を捕縛したらしいね。もっと早くすれば、って意見もあったようだけど、実の父親に手をかけるのは難しいだろうし。勇者様にも手をついて、泣いて謝ったそうだよ。だから、国からの使者に対しても、勇者様が口を利いてあげたとかなんとか」

「……それって、つまり、領地の召し上げはなくなったってことかな。息子が代替わりすることで、なんとか収めてくれっていう」

「あ、それだ。タウロスさんやスキュイさんが、政治的駆け引きだって言ってたよ」

 クラルはにこにこ笑っていたが、その二人が言ったのはたぶん、ベニグドと父親との間の駆け引きを言っているのだ。その勝負に勝ったのは息子のベニグド。

 元々、ニーバリ領はあまり良い噂のないところだったらしいが、この数年の有り様はおかしすぎる。

 ベニグドの性格を少しばかり知っているシウからすれば、彼が何かやったのだと勘ぐってしまいそうだ。

 でも、彼は第一子だし、後継ぎとして社交界にも出ていたそうだ。ならば、いずれ伯爵の地位を受け継ぐだろう。なのに、どういう理由かは知らないが、こんなことをしてまで手に入れたいものだろうか。

 シウの勝手な想像なので、真実は不明だ。

 けれど、これからもニーバリ領のことは気を付けておくべきだろう。


 ニーバリ領はスタンピードを抑えたばかりなので、その後始末や復興などで勇者一行はまだ留まっている。

 そのうち、王都へ来るが、クラルとユリアナは細かい日程は分からないとのことだった。

 彼等が来たら王都はお祭り騒ぎになる。

 王都の警備も大変だろうなと、その時のことを全く考えていないような二人を見て、シウは苦笑した。


 他に、シアン国からやって来た隊商が雪に埋もれかけた話や、アイスベルクに取り残されていた最後の宮廷魔術師が戻ってくるのに大変だった話などを聞いた。

 ギルドには冒険者が少なかったので、彼等からの情報はまた週末か、夜にでも会って教えてもらうつもりだ。

 シウも成人したので、堂々と夜遊びができる。

 もちろん、保護者のようについてくるアントレーネと、楽しみにしているらしいロトスも一緒に。




 金の日はまた学校だ。

 戦術戦士科でも入れ替わりがあった。

 幸いにして、二年度生からも、そして初年度生の優秀者も引っ張ってきているようだ。必須科目の基礎体育学を早々に飛び級した生徒に、直接声を掛けたらしい。

 レイナルドの涙ぐましい努力に思わず笑ってしまうシウだった。

 その彼に、

「僕の友人も、そのうち来ますよ」

 と教えてあげた。

「何? 本当か?」

 想像通り、レイナルドは喜んでシウの肩を揺さぶってくる。

 肩に乗っていたクロが、慌てて飛び立っていた。フェレスとブランカは屋敷に置いてきているので、今はクロだけがシウと一緒だ。せっかくぴっとり張り付いていたのにと、恨みに思ったわけではないだろうが、レイナルドの頭に降り立っていた。

「クロ、面白いから止めてあげて」

「きゅぃ」

 どうやら、お茶目な仕返しらしかった。はーい、と返事してすぐにまた飛び立って、今度は上空をゆったり飛行だ。

「あいつ、飛び方が上級クラスになってないか?」

「分かります?」

「ああ。とてもグラークルスとは思えんな。……良い偵察役ができる。うん」

 レイナルドの頭の中はどこまでいっても「戦術戦士科」に占められているようだ。


 ところで、クラリーサは最上級生になっており、このクラスでも上級位になっていた。

 クラスリーダーはヴェネリオが辞退したため、エドガールだ。

 もっとも、このクラスにおいてはリーダーなど必要ない。教師のレイナルドがリーダーのようなものだからだ。

 とにかく、新しく増えた生徒とも挨拶し、恒例のストレッチなどから授業は始まった。



 昼には、食堂へ一緒に行くほど仲良くなった。今回入ってきた生徒三人は、全員下位の貴族家出身で、特にお金がある家というわけでもないそうだ。

「とてもサロンには行けないから」

「食堂でも二階に行ったことないよ」

「シウ君たちが陣取ってるところ、気になってたんだ。一緒に参加できて嬉しいな」

 と、それぞれ口にしていた。

 初年度のシウは、食堂でも端の端、窓際でこっそりしていた。

 今ではその一帯に、友人関係が集まっている。

 毎回、わいわいと食事をしているので、現在の初年度生も気になっていたらしい。

 彼等も自分たちで食券を買ってテーブルに持ってくるが、シウの差し入れは別腹で入るらしく、嬉しそうに頬張っていた。

「今日はエルフの女の子はいないんだね」

「プルウィア? 生徒会の仕事でもやってるんじゃないのかな」

「生徒会に入ってるんだ。すごい!」

「お前、プルウィアさんが目当てなのか~? でも、彼女怖いから、気をつけろよ~」

 と、新入生に対して先輩たちがからかう。

 プルウィアは生徒会でも順調に勢力(?)を伸ばし、順調に友人も増えているようだ。食堂に来ない日は、彼等とテイクアウトしたものを食べている。

 食堂には女の子が少ないので、寂しいのもあるだろう。

 今も、シウの周りの席には男子ばかりだった。

 元々学校には女子生徒が少ないため、彼女らも固まって過ごすのだ。

 食堂でも、もっと良い場所に、女子生徒は陣取っていた。

「美人を見て、和みたかったのになぁ」

 それセクハラだと思うよ、と言いかけたシウだが、止めた。他の男子生徒が口を挟んだからだ。

「それ、プルウィアさんに言うなよ。すっげえ、怒られるから。超怖いから。先輩としての、俺からの忠告だ」

 どうやら、彼は一度やらかしたらしい。シウはその時の様子を想像して、思わず笑ってしまった。忠告した男子生徒は、

「あ、笑うなよ~。俺も、やっちまったなーと思ったんだから」

 などと、照れ臭そうに頭を掻いていた。

 男子に悪気はない。だからプルウィアも謝罪を受けて、許したのだろう。そこまで、シウは想像できた。

 プルウィアはなんだかんだで、優しい良い子なのだ。





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6月30日に拙作、

「魔法使いで引きこもり?」二巻が発売されました。

どうぞ、書籍の方もよろしくお願い申し上げます。


以下、本屋さんでのご注文に際して必要な情報です。

「魔法使いで引きこもり?2 ~モフモフと学ぶ魔法学校生活~」

出版社: KADOKAWA

ISBN-13: 978-4047352254


毎日宣伝とかアレですが、作者の小心者っぷりに、もう少しだけお付き合いください。「**********」マークが見えてきたら、そっ閉じも!!

優しい読者さんに甘えて、生きてます。


ここまで読んでくださってありがとうございます。



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